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少女と猫とお人好しダークエルフの魔石工房  作者: 江本マシメサ
第一部 少女はダークエルフと出会う
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少女とダークエルフはワイバーンと戦う

 ブレスは広範囲に展開される。しかも、闇属性が付加されたものだ。イングリットの魔法が打ち勝つには、聖魔法でないといけない。ダークエルフである彼女が、聖魔法を使えるとはとても思えなかった。

 エルはすぐさま、外套のポケットから召喚札を取り出す。迷わず破ってワイバーンに投げつけた。

 ワイバーンのブレスがエルとイングリットに届くよりも、召喚札の魔物が出てくるほうが早かった。

 一瞬にしてその場にあった土が盛り上がり、七米突メートルほどの巨大な泥人形の形となる。

 イングリットの矢は泥人形の背中に突き刺さったが、味方判定されたのか魔法は展開されなかった。


 泥人形はワイバーンのブレスを防ぎ、大地を揺るがす雄叫びを上げていた。


「泥人形、ワイバーンを動けないようにして!」


 エルがそう命じると、泥人形はワイバーンの上に覆い被さった。


「それから、パン窯みたいな形になって!」


 泥人形はエルの命令を聞き、半円状のドーム型となる。


「召喚札っていうか、泥人形すごいな。でもなんで、パン窯なんだ?」

「蒸し焼きにするから」

「お、おお」

「イングリット、火魔法の矢を射ることができる?」

「蒸し焼きは私ありきの作戦だったんだな」

「うん。できる?」

「やってみるさ」


 イングルは矢筒から火の魔石がついた矢を取り出す。

 狙いを定め、射った。


 矢はきれいな弧を描いて飛んで行き、泥人形に体を押さえつけられているワイバーンに刺さった。

 泥の中で火が爆ぜ、炎上する。


「おー! ワイバーンはよく燃えるなー」

「たっぷり、脂肪を蓄えていたのかもね」


 火柱が上がると、泥人形は消えていった。


「ありがとう」


 エルは手を貸してくれた名も知らない泥人形に、礼の言葉を呟いた。


「息絶えたようだな」

「うん」

「エルのおかげで、倒すことができた」

「お婆さんからもらった、召喚札のおかげだよ」

「とっさに召喚札を使った、エルの機転の勝利だよ」


 イングリットはそう言って、エルの頭をぐりぐりと撫でた。

 同時に、ピコーンと音がなる。


「ん?」


 イングリットが取り出したのは、四角い木札。表面に魔法陣が浮かび、チカチカと光っていた。


「イングリット、それ、何?」

「ギルドカードだ。これで、ギルドに依頼したり、受けたりできる。討伐した魔物を自動で記録してくれたり、依頼を達成したときには教えてくれたりするんだ」

「へー、便利だね」

「さっきのは、ギルドに登録されていて、誰も解決できていなかった依頼の達成を知らせるものだ」

「もしかして、ワイバーンの討伐?」

「ああ、そうだ」


 ギルドカードに浮かび上がった魔法陣に、報酬が書かれているようだ。それを見たイングリットは、ぎょっとする。


「報酬は金貨、五十枚だって!?」

「すごいね。冒険者って、儲かるんだ」

「いやいや、こんな高報酬の依頼、滅多にないぞ」

「そうなんだ」


 イングリットは魔法陣に書かれた知らせを真面目な顔で読む。が、途中でぎょっとなった。


「おいおい、今回の討伐で、第三位トロワになったって本当かよ!?」

「第三位?」

「冒険者の等級だ。七段階あって、下から第六位シス第五位サンク第四位カトル第三位トロワ第二位ドゥ第一位アン無限大アンフィニがあるのだが」

「もともとイングリットは、第四位だったんだ」

「そうだ。まさか、ワイバーンの討伐で第三位になるなんて」

「第三位になると、何かあるの?」

「普通の依頼にも金額が上乗せされる。それから、国内の施設はほぼ出入りできるようになるんだ」

「いいことばかり?」

「いや、そうでもない。国が危機に陥ったとき、戦力として駆り出されるんだ」

「そういう仕組みなんだ」

「ああ。ほとんどの冒険者は、第三位まで上がらない。だから、気にしていないのだが」


 イングリットは複雑そうな表情を浮かべている。

 それもそうだろう。イングリットの本職は冒険者ではなく、魔技工士である。有事に駆り出されては、たまったものではない。


「エルがギルドのカードを持っていたら、活躍評価は分割されていたんだがな」

「それ、今からギルドに行って、情報を修正に行けないの?」

「あ――できる、かもしれない。でも、いいのか? ギルドカードの登録は、先ほど説明したとおり、戦争や魔物退治に駆り出される可能性がある」

「大丈夫。たくさん冒険に出るわけじゃないから」

「そうだよな。じゃあ、行こう」


 ワイバーンが炭と化し、朽ちるのを確認してから街に戻った。


 イングリットはギルドで、先ほど起こったことを説明する。

 すると、受付の女性では対応できないようで、奥の部屋にくるよう招かれた。


 客間に通され、茶と菓子がふるまわれる。喉が渇いていたエルは、茶を飲み干した。

 五分ほど待って、やってきたのはギルド長だった。年頃は五十前後で、筋骨隆々、額から顎にかけて大きな傷が残っていた。元傭兵といった風貌である。


「黒い疾風、まさか、お前がワイバーンを倒すとはな」

「二つ名で呼ぶのは止めてくれ。恥ずかしい」


 イングリットには『黒い疾風』という二つ名があるようだ。


「それで、活躍評価を分けることができるのか?」

「分けるって、本当にそこのお嬢ちゃんも一緒に倒したのか?」

「ああ。店でもらった召喚札があったんだよ。それがなきゃ、無傷で倒せなかっただろう」

「ワイバーンを無傷で討伐したのか!?」

「召喚札があったから、誰にだって勝てた」


 エルの説明を、ギルド長は首を振って否定する。


「普通、お嬢ちゃんくらいの年齢の子は、召喚札が必要だと判断し、使うことはできないんだ。召喚札は貴重な品で、冷静に今必要だと思って使える人は少ない」


 現に、亡骸となって発見された冒険者の荷物から、未使用の召喚札がでてくることはよくある話らしい。


「もったいないから、使うべき場面で使えていないことが大半だ」


 ギルド長の話に、イングリットも頷く。


「たしかに、あのときエルが素早く召喚札を使ってくれて助かった。防御の矢では、闇属性のブレスは防ぎきれなかったかもしれない」


 あのとき放った魔法の矢は、防御魔法が付加されたものだったようだ。

 いろいろな魔法の矢があるものだと、エルは感心する。


「黒の疾風は長年単独行動をしていたようだが、いい相棒を見つけたようだな」

「まあな。それで、活躍評価は分けることができるのか?」

「もちろんだ。ギルドとしても、優秀な人材はいつでも歓迎だからな」


 秘書らしき女性から、申込書が手渡される。名前と職業を記入する、簡単なものだった。

 エルは身分証と同じ、エル・フェルメータという名を記入する。


「職業は、どうしよう」

「魔石を使って戦うなら、魔石師でいいのでは?」

「うん、魔石師にする」


 ギルドカードはすぐに完成した。

 名前と等級の第六位が書かれている。依頼をこなすことによって、等級は上がっていく仕組みらしい。

 ワイバーン討伐の報酬である、金貨二十五枚も表示されていた。

 これは、硬貨商へ持って行けば金に換えられる。


 エルはギルドカードを得て、イングリットも第四位へ戻る。

 再び二人は旅立つこととなった。

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