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少女と猫とお人好しダークエルフの魔石工房  作者: 江本マシメサ
第一部 少女はダークエルフと出会う
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ダークエルフはワイバーンを釣る?

 エルは初めて、自分の足で王都をくるりと囲む城塞を抜けた。

 途中、身分証明書の確認があったが、問題なく通過できた。


 しばらく道なりを歩き、人がいない開けた場所に出てきた。


「よし、ここでワイバーンを釣るか!」


 イングリットは、信じがたいことを言っている。

 ワイバーンは翼竜とも呼ばれているが、正しくは幻獣に分類される竜種ではない。

 正しい研究はなされていないが、魔物寄りの生物で人を襲ったという記録もある。

 ある村では人の肉の味を覚えたワイバーンが、村人を食べ尽くしたという事件があったということもフーゴから聞いたことがある。


「ああ、それ、私も聞いたことがある。二年前くらいから、各地で出現しているみたいで、ギルドが討伐依頼を出しているみたいだが、倒せていないみたいだな」


 一時期、騎士隊も各地に派遣されたが、発見すら至らなかったらしい。


「強いやつの前には出てこないで、弱い人ばかりを狙う、ずる賢いワイバーンみたいだな」


 その特徴は、普通のワイバーンにはない属性があるらしい。


「普通のワイバーンの体の色は灰色で、比較的大人しい。しかし、問題のワイバーンは全身黒く、闇属性で、獰猛どうもうなんだとか」


 フーゴから聞いていた以上の情報を、イングリットから得る。

 エルはだんだん不安になった。


「イングリット、本当に、ワイバーンを釣るの?」

「ああ。馬車で行ったら三日もかかるが、ワイバーンで飛んで行ったら半日で到着するからな」

「大丈夫なの? 止めたほうがよくない?」

「私の冒険には、ワイバーンでの移動は不可欠だった。闇属性のワイバーンに遭遇したことなんてないし、心配しなくてもいい」


 イングリットがそう言うのならば、エルは信じるしかない。


 そもそも、いったいどうやってワイバーンを釣るのか。釣れたとして、どうやって目的地まで飛ぶよう指示するのか。疑問は尽きない。

 そんな中で、イングリットは鞄からある品を取り出す。


「じゃ~ん! ワイバーン一本釣りの魔技巧品、『爆釣れ君第三号』だ」


 それは、指先から肘くらいまでの長さの竿で、釣り糸を巻く枠も付いていた。ただ、釣り糸は巻かれていない。


「まず、魔法陣を描く」


 地面に釣り竿で魔法陣を描いた。

 魔法陣に書かれた魔方式を見て、エルは仕組みを理解する。

 短時間の契約を、ワイバーンと結ぶものらしい。

 対価は肉だけでなく、魔力も含まれているようだ。


「この魔法陣の中に、目的地を書くんだ。それで、引っかかったワイバーンは肉を対価として、連れて行ってくれる」

「画期的な道具だね。これは、イングリットが作った魔技巧品なの?」

「ああ、そうだ。でも、糸作りが難しくて、製品化できなかったんだよなあ」

「糸作り?」

「ああ。自分の魔力で糸を作るんだが、魔法使いしか使いこなせなかったみたいで」

「魔力で糸?」

「今から見せてやるから」


 イングリットは釣り竿を握り、目を瞑って集中する。すると、釣り竿の先端が光った。

 その光を摘まみ、引き延ばすと糸のように細くなる。どんどん伸ばしていくうちに、地面に垂れた。


「わっ、すごい」


 まるで生地から麺を作るように、釣り竿から糸が伸びていく。


「と、こんなもんか。あとは、勝手に伸びる」


 糸に買ってきた肉を結び、魔法陣の中心に立った。天に振り上げるように、釣り竿を上げた。すると、肉を付けた糸が天に昇っていく。

 どうやら、一瞬にして雲の向こう側まで飛んで行ったらしい。

 しばらくすると、竿の先端がしなった。


「釣れた!!」


 こんなことが起こりうるのか。本当に、ワイバーンが釣れたらしい。

 イングリットは釣り竿を引き、釣り糸を巻く。


「なんか、でっかいのが引っかかったぞ!」

「う、うん」


 空を見上げていると、雲に黒い点が浮き上がった。


「見えてきたな!」


 イングリットはふんばり、さらに釣り糸を巻いた。

 だんだんと、ワイバーンの姿が浮き彫りになる。


「げっ!」

「どうしたの?」

「あれは、闇属性のワイバーンだ! やばい、あいつは、言うこときかないぞ! クソ! なんで世界的に珍しい希少種が、その辺を飛んでいるんだよ!」

「どうするの?」

「釣り糸を切る! エル、私の腰ベルトにかかっているナイフで、釣り糸を切ってくれ!」

「わかった」


 エルはイングリットの腰ベルトからナイフを引き抜く。それは普通のナイフではなく、水晶を磨いて作った魔法のナイフだった。

 すぐさま、釣り糸を断つ。ブツン! と大きな音を立て、釣り糸は切れた。イングリットは衝撃で転倒し、転がっていく。


 すでに、ワイバーンは目の前まで迫っていた。

 解放されて、そのまま逃げると思いきや、ワイバーンは勢いそのままに地上に降り立った。


 大きさは、全長五米突メートルほど。首は長く、額には角が二本生えている。体はずんぐりしていて、長い尾を持つ。背中からは大きな翼が生えていた。


 弾かれたようにイングリットは立ち上がり、エルを庇うように前に出る。


「エルの言う通り、止めたほうがよかったな」

「ツイてなかっただけだよ」

「我ながら、運が悪い」


 イングリットは腰から吊していた弓を手に取り、素早く矢筒から矢を引き抜く。

 ワイバーンがブレスを吐き出したのは、同時だった。 

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