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少女と猫とお人好しダークエルフの魔石工房  作者: 江本マシメサ
第一部 少女はダークエルフと出会う
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少女とダークエルフは旅支度をする

 旅に出る前に、いったんイングリットの家に戻る。


長弓ロングボウは長い間使っていないから、弦を張り直す必要があるな」


 イングリットが物置から、長弓を発掘するように取り出す。表面には呪文のようなものが刻まれ、弦の色が七色に光る。


「それは、普通の弓と違うの?」

「違うな。これは、魔法を込めた矢を放つ専用の弓なんだ」

「へえ、魔法の弓って、初めて見るかも。ダークエルフの村では、よく使われているの?」

「いや、これは私の創作魔法だ」


 魔技工士であるイングリットは、弓に使う素材探しから始め、何もかも自作したらしい。 完成したのは一見して普通の長弓であるが、性能はまったく異なる。


「弓は、これを使うんだ」

「あ、やじりが、魔石」

「正解!」


 魔石の鏃に魔法を付加し、魔物へ射る。例えば、火魔法が付加されたものを射った瞬間、魔法が展開され、対象へ届くのだ。


「射るときに、呪文を詠唱するの?」

「いいや、これは無詠唱で魔法が完成する。その秘密は、これだ」


 矢の柄部分に、呪文が彫られている。そして、弓にも呪文が彫られていた。


「矢と弓を摩擦させることによって、魔法式が完成するんだ。そして、放った瞬間に魔法が展開される」

「すごい!」


 矢は魔法を付加させれば、再利用することが可能らしい。実に画期的な、弓矢を利用した魔法だった。


「最初に話を聞いたときは、魔法の力で命中率を上げるのかと思っていたけれど、そういうことなんだ」


 基本、攻撃は一撃必殺で、戦闘が長引く魔物は回避する、という戦闘方法を取っていたらしい。


「複数の魔物ならば、このフレイムボム・アロウだな。爆発系の火魔法で、中型魔物の群れくらいならば、一発で仕留めることができる」


 先端には火魔法が付加された魔石が付いている矢を、イングリットはエルに見せてくれた。


「ふつうの矢とは、違う?」

「そうだな。鏃は魔石を削って作った物だし、柄の部分は耐魔の木、羽根はファイヤ・バードのものだ。付加する魔法によって、属性と相性のいい材料を集めて作っているんだ」

「へえ、面白いね」

「だろう?」


 戦闘後は、なるべく矢を回収しているらしい。もっとも頻度が高い矢を見せてもらったが、耐魔の木を使っているからか矢の状態はすこぶるよかった。


「どうして、こんなものを思いついたの?」

「最初は普通の弓師アーチャーだったんだが、単独行動していたら、死にそうになったんだよ」

「パーティーを、組まなかったんだ」

「そうだな。当時の私は仲間と思っていた男に裏切られたばかりで、傷心だったから。簡単に、人のことを信じられなかったんだ」


 イングリットの日々の狩猟で磨いた弓矢の腕はそこそこよかった。しかし、単独行動をしながら、弓矢で魔物と戦うことは無理があったのだ。


「一回大けがを負ったとき、このままじゃ死ぬって思ったんだよな。ただ、戦闘方法を変えると言っても、私にできるのは魔法くらいで」


 魔法使いは詠唱する時間が必要となる。単独で行動することに相応しい職業ではない。


「魔法と弓矢、両方使えたらいいな~とぼんやり考えていたときに思いついたのが、魔法を付加した矢で攻撃する方法だった」


 イングリットは新たに、『弓術師マジック・アーチャー』を名乗り、単独行動で冒険をするようになった。

 話し終えたあと、エルはパチパチと手を叩いた。イングリットは誇らしげな表情を浮かべる。


「エルは魔石を投げて戦うんだろう?」

「でも、当たらないかもしれない」

「武器屋で、投石器パチンコを買えばいい。狙いを定めやすくなるだろう」


 イングリットが絵を描いて、投石器について教えてくれる。


「投石器って?」

「二股に分かれた枝みたいなやつに、ゴムがついていて、石と一緒に引いたあと、飛ばすんだ」

「ああ、なるほど。そんな物が、あるんだね」

「そんなに重くもないから、エルにも使えるだろう」


 魔石を投げるという戦闘方法に不安を抱いていたが、投石器を使うことによりなんとかなりそうだった。


「あとは、何かできるか? ナイフさばきの訓練とかは、していないよな?」

「うん」

「魔法は、何が使える?」

「四大属性は中位魔法くらいまでだったら使える。炎魔法と、氷魔法は少しだけ。回復魔法は、最大回復魔法リザレクションまでだったら使える」

「は?」

「ん?」

「四属性に、炎と氷だって!? それから、リザレクションだって!?」

「ぜんぶ、先生から習った」

「あんたの先生、何者なんだ! いやしかし、習ったとしても実際に使えるわけがない」


 ありえないと、イングリットはブツブツ呟いている。


「もしも本当に、その魔法のすべてが使えるとしたら、エル、あんたは大聖女だ」

「大聖女?」

「混沌の世界を救世する、奇跡の存在だよ」


 いまいち、ピンとこない。モーリッツは四属性の上位魔法に加え、炎と氷の大魔法を扱っていた。回復魔法のリザレクションは使えないといっていたが、豊富な知識を持っていた。勉強したら、みながみな、同じように大魔法を習得できるとエルは思い込んでいたのだ。


「エルの先生はきっと、伝説の大賢者か何かだろう」

「そう、だったんだね」


 いまいちピンとこないが、イングリットが言うのならば間違いないのだろう。


「母親が王妃で、大賢者が先生で、魔石作りの達人で――エル、あんたはいったい何者なんだ?」

「わからない」


 イングリットは脱力して、「だろうな」と呟いた。

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