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少女と猫とお人好しダークエルフの魔石工房  作者: 江本マシメサ
第一部 少女はダークエルフと出会う
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少女は人工精霊の秘密を知る

 ネージュはイングリットが抱え、長いしっぽ亭に運び込まれる。

 幸い、店は開いていた。


「おじさん、大変なの! ネージュが、ネージュが!」

「どうした?」


 坊主頭にねじり鉢巻きを巻いた、厳つい店主が顔を覗かせる。


「ネージュが、突然倒れてしまったの!」

「なんだと? 昨日、動き出したばかりだというのに、おかしいな」


 店主は顎に手を当て、険しい表情でネージュを覗き込む。


「魔力切れなの? それとも、気を失っているだけ?」

「見ただけではわからん。奥の部屋へ」


 店主は店の看板を閉店にし、鍵を閉める。そして、昨日入った部屋とは逆方向にある扉のほうへと誘った。

 そこは、人工精霊であるぬいぐるみが作られる工房だった。

 赤煉瓦造りの部屋は、魔石灯に照らされて不思議な空間と化している。

 そこには三つの作業台があり、それぞれ腰掛けて職人たちが作業中だった。金槌かなづちで魔石を叩く者、針と糸を使ってぬいぐるみの型を縫う者、ぬいぐるみに綿を詰める者と、分業で作られているよう。

 扉が開いた音に反応し、職人たちがいっせいに振り返る。


「あ、ドワーフがいる」


 イングリットがボソリと呟いた。

 ドワーフというのは、地底に住む手先が器用な半妖精族だ。人嫌いで、なかなか出会う機会はないとされていたが、長いしっぽ亭の工房には三名もいた。

 ドワーフの身長はエルの膝丈くらいで、目が隠れるほどの長い前髪に、もじゃもじゃのひげを生やしている。


『おい、どうした?』

『目覚めたばかりのやつじゃねえか!』

『初期不良なんて、信用落ちるぞ』

「ちょっと、台を借りるぞ」


 工房の中心には、魔法陣が描かれていた。ここで、人工精霊に魔法をかけるようだ。

 ネージュは鎧を脱がされ、ただのぬいぐるみの姿となる。

 店主はお腹を指先で押し、何かの感触を調べていた。


「魔石の魔力切れ、というわけではないな」

「どうしてわかるの?」

「人工精霊に込められた魔石は、魔力が尽きると割れてしまうからだ」


 店主が指さした部位を、エルも指先で押してみた。かなり、強く押し込まないと魔石を感じない。ぐぐと指を沈ませたら、堅い物に当たった。これが、ネージュの心臓とも言える魔石である。銀貨と同じくらいの大きさなのだろうと、エルは推測する。


「魔石切れではないとなると、何か衝撃を受けるような言葉を聞いたとか」

「!」

「心当たりが、あるようだな。人工精霊は、込められた魔力の持ち主と、感情を同調させる場合がある。かといって、その者ではないものの、魔力を通して感情が引きずられるのだろう」

「そう、なんだ」


 やはりネージュが倒れたのは、フーゴの死を聞いたことが引き金となったようだ。


「この子、父さんの魔力が込められていて……。それで、父さんが、一年前に死んだって聞いたから……」

「なるほどな」

「どうしたら、目覚めるの?」

「魔石の状態を見てみないと、わからんな」

「ネージュに、ハサミを入れるってこと?」

『いいや、嬢ちゃん、それは違うぞ』

『そんな物騒なことをせんでも、魔石は取れる』

『背中の糸を、解けばいいのさ』


 ドワーフが口々に答えた。


『そら、解いてやるから』


 縫製を担当していたドワーフが、一歩前に出る。エルは、ネージュの前から退いた。


『では、糸を解くぞ』

「うん、お願い」


 ドワーフは腰の収納革ベルトから糸切りハサミを取り出す。優しい手つきでネージュの首元に触れ、目には見えない何かを指先に掴んでチョキンと切った。


「え? 今のは?」

『シロオオクモの糸だ。人の目には、見えないだろう』


 イングリットにも見えていないようで、不思議そうな目で見下ろしていた。


「ヨヨは見える?」

『うすーくね。すごいなあ、あんなもので縫っていたなんて』


 ドワーフはするすると糸を解いているようで、ネージュの背中が開いていく。

 ぬいぐるみの中にはいっている綿は、雲のようにもくもくだった。

 綿の間から晴れた日の青空が見えた気がして、 エルは目を擦る。


『ぬいぐるみの中身は、晴天の雲だ。空を切り取るから、空の青も入ってしまうのだろう』

「晴天の雲を、入れる? よく、わからないのだけれど」

『人間に理解できたら、俺たちは商売あがったりになるよ』


 モーリッツにいろいろと習ったつもりであったが、まだまだ世界には知らないことが多すぎる。エルは戦々恐々としてしまった。


 呆然としている間に、手袋を嵌めた店主の手によってネージュの魔石が取り出される。


「こ、これは……!」


 ネージュの魔石は、赤、青、黄色と三色が交ざった、美しいものだった。

 店主の目は、驚きで見開かれている。


「ねえ、どうしたの?」

「この魔石には、三名分の魔力が、込められている」


 通常、魔石に魔力を込めるのは、一人分だ。しかし、どうしてもという場合のみ、二人分の魔力が注がれる。


「通常、二名以上魔力を込めるのは、危険だから断っていたのだ。しかし、この魔石には、おそらく、両親ともう一人の魔力が込められているようだ」

「父さん以外の、誰の魔力が?」

「調べてみよう」


 魔力の照合ができるらしい。過去の顧客リストから、魔法陣が探し出すようだ。

 店主は魔石を魔法陣の中心に置いて、呪文を唱える。すると、青い魔力のみ、該当ありと反応をしめしたようだ。


「青の魔力の持ち主は、ジルベール・ド・フォースター……!? フォースター公爵家の当主の魔力のようだ」

「え?」


 ジルベール・ド・フォースター、それは、エルが港町から王都に向かう馬車で同乗した、紳士の名であった。 

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