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少女と猫とお人好しダークエルフの魔石工房  作者: 江本マシメサ
第一部 少女はダークエルフと出会う
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少女は父の手がかりを探しに行く

 王都近くの港町は、たくさんの人でにぎわっていた。

 商人が行き交い、社交期で王都に来た貴族が集まり、人という人でごった返している。

 これだけ大勢の人を見るのは初めてなエルは、珍しく浮かれていた。


「あ、すごい、獣人だ!」


 船から降ろされた荷物を運ぶのは、筋骨隆々の狼獣人である。

 ふさふさの茶色い毛に、黒い目、上半身は裸で下半身にはズボンを穿いている。

 厚い皮膚と毛皮に覆われているからか、靴は履いていなかった。

 到底人が持ち上げることなど不可能であろう、酒の入った樽を軽々と運んでいる。

 獣人など、物語の世界の住人だと思っていた。エルは感動していたが、瞬時にその気持ちが引いていく。


 商人らしき男がやってきて、手にしていたむちで地面を叩いた。


「おら! さっさと運べ」

「ウウ……」

「なんだあ、その反抗的な目は! こうしてやる!」


 そう叫び、鞭で獣人の背中を叩いた。


「ウッ!!」


 叩かれても、獣人は反抗しない。否、できないのだろう。

 首輪が巻かれていることに気づく。商人が鞭で叩くたびに、淡く光っていた。

 本で見たことがあったので、ピンとくる。


「あれは、従属の首輪?」

『みたいだね』

「なんて、酷いことを」


 周囲を見たら、従属の首輪を付けた獣人が他にもいた。

 獣人だけでなく、従属の首輪を付けた人もいる。


 従属の首輪を付けると、使用者に逆らえなくなる。通常は、獰猛どうもうな魔物使いが使用する魔道具であるはずだった。

 それがこのように使われているなんて、エルは信じられない気持ちとなる。


「どうして、こんなことが……」

『エル、あれ』


 ヨヨがさし示したほうを見ると、獣人の子どもが入ったおりが荷車で運ばれていた。

 商人らしき男達が金銭のやり取りを行い、檻を受け取る。


「人身売買だ」

『みたいだね』


 同じような檻が、どんどん船から運ばれてくる。

 当たり前のように、人の命が金と引き換えに取り引きされていた。


「なんで? どうして? 命は、お金で買えないのに……」

『エル、行こう。気にするだけ、無駄なんだ』

「でも……」

『エル、行くよ』

「うん」


 エルは人身売買を見ない振りして、トボトボと進んでいった。


 ◇◇◇


 最初に訪れたのは、雑貨屋だ。いつも、フーゴが港町の雑貨屋で土産を買ったと言っていたのだ。


 雑貨屋と一言でいっても、商店通りには数軒あった。

 エルはフーゴから十歳の誕生日に貰った、ウサギのぬいぐるみを取り出して話を聞く。


 一軒目は、貴族向けの品物をそろえた雑貨屋である。

 白で統一された棚に化粧品から茶器まで、なんでも置かれていた。


「あの、すみません」


 店主は老婆だった。エルの身なりを見て顔をしかめる。

 エルは気にせずに、話を続けた。


「このうさぎのぬいぐるみ、ここのお店で売っている品物?」

「さあね。同じようなぬいぐるみは、山のようにあるからさ」

「……」


 子ども相手には、まともに取り合わないようだ。

 じっと老婆を見る。直感だが、老婆はただの業突く張りの商人には見えない。

 エルは勝負に出ることにした。銀貨を一枚差し出す。


「これあげるから、いくつか情報を教えて」

「お嬢ちゃん、何が聞きたいんだい?」


 老婆の手のひらの返しようは鮮やかだった。銀貨を手渡すと、ニコニコと笑顔を浮かべる。


「このうさぎのぬいぐるみについて知りたいのだけれど」

「そのぬいぐるみは、ここの店じゃ取り扱ってない品だよ。足の裏を見てみ。製造番号が振られているだろう?」

「本当だ」

「それはねえ、王都にある『長いしっぽ亭』のフルオーダーの高級ぬいぐるみだ。お嬢ちゃん、それをどこで手に入れたのかい?」

「……」


 エルの情報を老婆に与えるつもりはないので、黙り込む。


「おやおや、可愛くない子だねえ」

「きちんとお金をあげたから、情報だけ喋って」

「はあ。本当に……いいや、なんでもない。わかったよ」

「他に、知っていることは?」

「そのぬいぐるみを売る店は、一見さんお断り。常連の紹介がなければ買えないんだ。人気があって、五年待ちが普通だよ」

「よく、中古で販売されているの?」

「いいや、ありえないねえ。非常に希少なぬいぐるみで、本当に限られた上流階級の娘しか持てないから、売りに出されることはありえない。もしも、質屋などで売り出されているとしたら、それは盗品か偽物だ」

「これが本物か偽物か、わかる?」

「どれ、貸してみな」


 老婆は鑑定ルーペを取り出し、うさぎのぬいぐるみを見る。


「あんた、本当にこれはどこで入手したんだい?」

「さあ」


 エルのつれない返答に、老婆はめ息をつく。


「それで、どうだったの?」

「これは、本物さ。しかも、十年に一度作られる、とっておきの逸品だよ」

「そうなんだ」

「自分の身が可愛かったら、このぬいぐるみは他人に見せないほうがいい」

「そうだね」


 銀貨一枚払った甲斐があった。これ以上ない情報を得ることができた。

 エルの勘は正しかったのだ。


「口止め料、いる?」

「銀貨一枚ももらったからねえ。口止め料も含まれていたことにするよ」

「ありがとう」


 老婆はひらひらと、手を振ってエルを追いだそうとする。

 エルは店から出て、扉の外から会釈した。


 父親からもらったぬいぐるみは、港町の雑貨屋で買った品ではなかった。

 説明が面倒になって、適当に言ったのか。

 フーゴはいつも、金がないと言っていた。それなのに、どうして高価なぬいぐるみを買うことができたのか。


 わからないことだらけであったが、フーゴに近づくヒントを得ることができた。

 エルは王都を目指すことにする。


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