表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少女と猫とお人好しダークエルフの魔石工房  作者: 江本マシメサ
第一部 少女はダークエルフと出会う
21/165

少女は老婆に扮して危機を知らせる

 上客は大きな揺れに驚き、動揺していた。

 前を走っていた船員はすぐに乗客に捕まってしまう。


「さっきの揺れはなんなんだ?」

「船は大丈夫なのよね?」

「え、ええ。今、調査中でして」

「沈んだりしないだろうな?」

「避難用の船は用意されているの?」

「ご、ご安心ください。まずは、待機を──」


 同じようなことを問い詰める上客に囲まれ、船員は動けなくなった。

 申し訳ないが、船員はここに置き去りにする。あれだけ大勢の人に囲まれたら、助けることなんてできない。エルとヨヨは人と人の隙間を縫うように、先へと進む。


 階段を上がり、甲板に出てきた。


「流氷だ!」

「流氷にぶつかった!」


 船員らは大慌てで、何に衝突したのか確認していた。

 どうやら、海を流れる大きな流氷にぶつかったようだ。


 エルは船首楼まで駆ける。すると、先ほどの航海士がいた。仲間らしき航海士もいる。

 見つかったら、また閉じ込められてしまうだろう。エルはたるに身を隠し、様子をうかがう。

 航海士は望遠鏡を覗き込んでいるが、何も見えていないようだ。


「ヨヨ、氷山、見える?」

『ごめん。この暗さでは、とても』

「だよね」

『見エル』

「え?」

『見エル』

『見エルヨ』


 どうやら光の妖精には、氷山が目視できるらしい。



「どの辺にある?」

『遠ク。デモ、近イ』

『大キイ。トテモ、大キイ』

『船ヨリモ、大キイ』


 氷山は、たしかにあるようだ。

 だがしかし、子どものエルがどんなに訴えても、進行方向に氷山があるなんて信じないだろう。


「たぶん、この騒ぎの中では、シャーロットにお願いしても船長に会えない」

『だろうね』

「どうすればいい?」


 昼間だったら、今頃氷山が見えていたかもしれない。

 けれど、神は無慈悲だ。真夜中に、氷山に接近させるなんて。

 エルは心の中で嘆く。


「太陽さえあれば、氷山が見えていたのに」

『太陽さえ、か』


 太陽が昇る前に、きっと船は氷山に衝突するだろう。


「何か、何か解決策が……光、光を……」

『あ、エル! そうだ、氷山を、光で照らすんだよ!』

「氷山を……まさか、魔石で?」

『そうだ! 光の妖精に協力してもらって、遠くにある氷山に光を当てて、航海士に目視してもらうんだ』


 上位魔石にある『輝きの魔石』があれば、氷山を照らすことができる。

 氷山まで魔石を運ぶのは、光の妖精に任せることが可能だ。


 エルは立ち上がり、すぐさま行動に移す。

 氷山を確認してもらうのは、航海士の仕事だ。しかし、このまま出て行っても、先ほどの航海士の青年に噓吐き呼ばわりされるだけだろう。

 エルは船内に戻り、先ほど別れた船員のもとへ急いだ。


『エル、どうするの?』

「味方は、あの船員しかいないから!」


 船内はますます混乱していた。甲板に人が押し寄せ、階段は使えない。


「どうしよう。これじゃあ……」

『エル、さっきのお兄さんがいるよ』

「あ!」


 人混みの中に、船員の青年を発見した。


「こっち! お兄さん!」


 エルは跳びはねながら手を上げ、船員の青年を呼び寄せた。


「ああ、君は!」

「ぶつかったの、流氷だったみたい」

「やはり、そうだったか」

「それで、その、たぶん、この先に、大きな氷山がある。ぶつかったら、みんな死んでしまう」

「!」


 船員の顔色が青くなる。


「ど、どうすれば……俺みたいな下っ端が証拠もないのに氷山があると言っても、誰も信用してくれない」


 子どものエルだけでなく、船員ですら証拠がないと言っても無駄なようだ。


「おかしいと思っていたんだ。あまりにも、流氷が多いから……。でも、仲間に言っても気にしすぎだって言われて……。君はどうして気づいたんだ?」

「夕陽が落ちていく時に、氷山と太陽が重なる瞬間があったの。でもそれは、豆粒みたいに小さくて」

「そうか。だったら、誰も気づかないだろう。夕陽が沈む時間に豆粒か。追い風の中で進んでいるから、もうすぐ近くに氷山があるかもしれない」

「急がなきゃ!」

「でも、どうやって納得させるんだ?」

「氷山に光を当てるの」

「どうやって?」

「魔石を使って」


 以前、黒斑病を治した時と同じような作戦を取る。

 外套の頭巾付きを深く被り、老婆の振りをして魔石を使うのだ。


「いい? あなたはわたしを、老齢の魔法使いとして航海士に紹介するの。そのあと、魔石で氷山を照らすから」

「わ、わかった」


 すぐに、行動に移す。

 走って船首楼に向かい、途中から老婆のように腰を曲げながら歩く。

 船首楼は乗客が近づかないよう、人払いされていた。船員はその者達に話を付けて、先へと通してもらう。


「あの、すみません! この魔法使いのお婆さんが、この先に氷山が見えると申しているのですが!」


 船員の報告を聞いた三名の航海士が、驚いた顔で振り返る。


「な、なんだと!?」

「氷山など、見えないが!」

「あなたは!」


 これだけ氷山に接近しても、暗闇の中では目視できないようだ。


「こ、この老婆は有名な先読み師で、進行方向に氷山があると読んでいるそうです」

「有名な先読み師だと?」

「証拠は?」

「デタラメを言うな!」


 航海士は次々と、物申す。流氷にぶつかり、焦っているのだろう。


「証拠を、見せていただけるようです。氷山を照らしますので」

「いったい、どうやって?」

「魔法です!」


 それが、合図となる。エルは輝きの魔石を光の妖精へと託した。


「光の粒が!」

「あれは、いったいなんなのだ?」

「あれが魔法なのか?」


 航海士は光の粒を望遠鏡で追う。


 光の妖精の動きが止まった。光が見えるか見えないかくらいの、遠く離れた場所だった。

 そして──輝きの魔石が光を放つ。


 周囲は昼のように明るくなった。そして、巨大な氷山を照らし、その姿を浮かび上がらせる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ