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少女と猫とお人好しダークエルフの魔石工房  作者: 江本マシメサ
第三部 少女はダークエルフと共に、魔石工房を作る!
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少女は舞台の役者を眺める

「ほう?」


 国王陛下は右目を眇め、興味深そうに視線を向けている。

 彼は、初めて見るエルの父親である。

 双子であるアルネスティーネとエルのどちらかを、殺せと命じた冷徹な人物でもあった。

 特に、感慨などない。本当の父親なのに、驚くほどエルは落ち着いていた。


 フォースターとジョゼット・ニコルは、ネージュを掴んだまま錬金術師の長の報告に耳を傾けていた。興味深い内容だったからだろう。


「キャロル・レトルラインが、黒斑病の治療薬の創薬に成功したというのか?」

「いえ、彼女は今、魔法騎士に拘束されているようで」

「なぜ、そのような状態になったというのだ?」

「黒斑病の蔓延の原因が、キャロル・レトルラインにあると」

「ありえない。あれは、誰よりも熱心に、黒斑病の研究をしていたのではないか!」


 どうやら、国王陛下はキャロルを信頼していたらしい。

 もとより、キャロルに育毛剤の作成を頼むほどの関係である。彼女を拘束すると命じた者は知らなかったのだろう。


「早く、解放しろ!!」

「国王陛下、お待ちください」


 玉座の背後より、魔法使いの外套を纏った女が出てくる。

 漆黒の髪に、赤い目を持つ美しい女だった。年の頃は、二十代半ばくらいか。

 おそらく、以前フォースターが話していた宮廷魔法使いの首席なのだろう。確か、魔法騎士の管轄も彼女だ。

 モーリッツが去ったあとの、宮廷魔法使いの首席に鎮座した女である。

 その美しさは、十数年間もの間衰えないという。


「なぜ、止める!? もしや、キャロルを拘束するように命令したのは、お前なのか?」

「いいえ。キャロル・レトルラインの拘束には関与しておりませんでした。ただ、彼女はおそらく国内でもっとも黒斑病に詳しい者なのです。病気の正体を見抜き、人為的に蔓延させた可能性も否めません」

「バカな!!」


 ここで、メイが声をあげる。


「その件でも、一点ご報告がありまして」

「なんだ、話してみよ」

「黒斑病を蔓延させた理由は、下町で販売しているリネンであると確認できました」


 銀盆に載せた報告書を、近侍が国王陛下へと運んで行く。アルネスティーネにも、手渡された。


「これは――!」

「魔技巧品の工房を経営する、ジェラルド・ノイマーの仕業です。彼はさまざまなデタラメを街中で広め、それに乗じて商売をしているようでした」


 ここで、フォースターがハッとなる。


「そうだ! 私は奴の経営する工房に、がさ入れに行く許可を取りにきたつもりだったのだ! それを、この脳筋魔法騎士が邪魔をして――」


 フォースターは秘書に持たせていた鳥仮面を、国王陛下に見せる。


「この仮面は、黒斑病の医者だと名乗る者が被っていた。黒斑病の蔓延する地域に行ってデタラメな治療を施し、金をせびっていたのだ」


 その鳥仮面が、ジェラルド・ノイマーの管理する倉庫から発見された。動かぬ証拠である。


「わかった。では、我が親衛隊の一部をジェラルド・ノイマーの工房に向かわせよう。指示はフォースター。貴殿が責任を持ってするように」

「はっ!」

「陛下! 彼は黒斑病の治療のために、広場に病院を建てた功労者でもあるのですよ!?」


 宮廷魔法使いの首席が、非難めいた声色で指摘する。


「それも含めて、調査しよう。もしもジェラルド・ノイマーが無実ならば、よかったで終わることではないか」

「しかし――」

「食い下がるな。そういえば、貴殿はあの男と懇意にしていると、以前耳にしたことがある」

「――ッ!!」


 国王陛下の指摘に、宮廷魔法使いの首席は返す言葉が見つからなかったようだ。

 唇を噛みしめ、悔しそうにしている。


「そういえば、黒斑病の治療薬を作ったのは誰であったか?」


 国王陛下の問いに、錬金術師の長が明朗な声で答えた。


「王女殿下でございます!!」

「え!?」


 謁見の間で、誰よりも驚いていたのはアルネスティーネであった。

 それも無理はないだろう。彼女は黒斑病の治療薬なんて作っていないのだから。


「アルネスティーネ、真か?」

「いいえ、わたくし、覚えがありませんわ」

「しかし、この者達は、お前が黒斑病の治療薬を作ったと申しておる」

「存じません。わたくしには、そのような知識は、皆無でございます」


 予想していた最悪の事態になってしまった。

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