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少女と猫とお人好しダークエルフの魔石工房  作者: 江本マシメサ
第三部 少女はダークエルフと共に、魔石工房を作る!
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少女はついに――

 すでに、国家錬金術師の正式文書で「黒斑病の原因は細菌を介して感染する」という研究結果が報告されていた。

 これを調べたのは、キャロルである。あとは薬さえあれば、感染拡大を防止できるはずだった。


「詳しく言えば、細菌を有したノミがネズミに寄生し、血を吸うことによって感染する。その血をさらに別のノミが吸うことによって、菌を保持、増殖させる。そのノミがさらに人や動物に噛んで、どんどん感染が広がっていく」


 ノミは寄生する対象が死んだら、また別の対象へと移っていく。そのため、感染者は増える一方なのだという。


 メイは錬金術師の七つ道具の一つ、拡大眼鏡を用いてリネンからノミを捜し出す。

 そして、ノミを捕獲器に入れる。

 これを、キャロルが作った特別な魔法薬に浸し、赤く染まったら黒斑病の菌を保持したノミということになる。

 メイが捕獲器に入れた魔法薬は、真っ赤に染まった。

 念のため、集めた三枚のリネンからノミを捕獲する。どれも、黒斑病の菌を保持したノミが検出された。


 研究室から出てきたメイは、うんざりした表情で言う。


「間違いないわ。このリネンには、黒斑病の原因となる菌を有したノミがいる」

「だったら師匠、早く国王陛下に報告しなきゃ!」

「待ちなさい。後ろ盾のない私達が行っても、側近の魔法騎士に握りつぶされるだけよ」


 まずこれを、錬金術師の上層部に提出するという。それから、国家錬金術師の後ろ盾を得た状態で報告すると。


「というわけで、上に話に行くわよ」


 メイはイングリットとエルを見るので、戸惑う。


「あの、わたし達は部外者なんだけれど」

「でも、あなた達が調べたのでしょう? 最後まで、責任を持ちなさいよ」

「エル。彼女の言うとおりだ。私達も、一緒に行って説明できることがあったらしよう」

「ん、わかった」


 エルは緊張しつつ、メイのあとに続く。途中から、イングリットが手を繋いでくれた。


「不幸の連鎖は断ち切るんだ。絶対に」

「うん」


 悪人が善人を裁くなど、あってはならない。

 正しく生きる人達が、笑顔で暮らせる世の中にしたい。

 だから、勇気を振り絞って一歩、一歩と進んでいくのだ。


 錬金術師の上層部が、味方についてくれる。そう信じて、メイのあとを付いていった。


 円卓に腰かける国家錬金術師は、フォースターと同年代であった。

 皆、一様に疲れた表情を浮かべている。


 おそらく、これまで黒斑病の問題に奔走していたのだろう。

 その疲れに追い打ちをかけるように、キャロルが拘束されてしまった。

 もう、打つ手はない。そんな空気さえ感じる。


 しかしながら、エルとイングリットの調査により、黒斑病の感染拡大の原因を突き止めた。


 証拠はあり、実証もできた。あとは、ジェラルド・ノイマーの経営するリネンを販売する店を閉店させればいい。

 

「というわけで、国王陛下に報告してほしいんだけれど」


 メイの報告に、錬金術師の長たる男が眉間に皺を寄せる。そして、苦渋の表情で思いがけないことを口にした。


「国家錬金術師は、黒斑病の問題から撤退しようと話し合っていたところだった」

「は? なんでよ?」

「もともと、黒斑病についてはキャロル・レトルラインが熱心に進めていたことで、我々は後押しをしていたにすぎない。彼女が黒斑病の感染拡大の原因であると疑われている今、国家錬金術師と黒斑病の繋がりを断つ必要があると判断したのだよ」


 それらは、国家錬金術師の未来を守るためだという。

 エルは床が抜け落ち、落下するような絶望を覚えた。


 エルは、誰も助けることなどできない。

 キャロルだけでなく、黒斑病で亡くなった王妃や、黒斑病の魔女と疑われているアルネスティーネの名誉も。


 ジェラルド・ノイマーは黒斑病の蔓延から救おうとしている人を、潰しにかかっている。このままでは、フォースターでさえ彼の毒牙の餌食となってしまうだろう。


 もう、誰かを失うのはいやだ。

 モーリッツやフーゴのように、救えないまま失いたくない。


 エルは決意する。絶対に、皆を助けると。

 メイを追い越し、エルは一歩前に踏み出す。

 円卓に座る者達は、皆訝しげな表情でエルを見つめていた。

 頭巾を取ると、ハッとなる。彼らには、エルが王女に見えているのだろう。

 それでもいい。今は、アルネスティーネとよく似たこの顔を、利用することにした。


 エルは皆の前で宣言する。


「わたしは、これから黒斑病の治療薬を作る。それと一緒に、国王陛下に報告して!」

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