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少女と猫とお人好しダークエルフの魔石工房  作者: 江本マシメサ
第三部 少女はダークエルフと共に、魔石工房を作る!
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少女は懇願する

 キャロルが黒斑病を広めたなんて、デタラメである。

 国民のために黒斑病に効く薬を研究していた彼女に対する酷い仕打ちに、エルは強い怒りを覚えた。


「魔法騎士達が、令状もなしに連れ去ったらしい」

「そんな」


 誰かが独断でキャロルを連れ去った可能性があるという。レインは末端の見習い錬金術師なので、詳しい事情はわからないようだ。


「わたし、下町で証拠を探してきた――もごもご!」


 エルの口を、レインが塞ぐ。耳元で、ゾッとするような言葉が囁かれた。


「もしかしたら、内部に裏切り者がいるかもしれないんだ。詳しい話は、師匠の部屋で聞こう」


 レインの師匠メイ・アレッサーはキャロルに対して複雑な感情を抱いている。

 もしかして、裏切り者はメイなのではないか。そう思ったら、床に根が張ったように動けなくなってしまった。エルの異変に気づいたレインは、すぐさま弁解する。


「いや、犯人は師匠じゃないよ。ずっと研究室にこもりっぱなしだったし。どっちかと言えば、他人を使って相手を蹴落とすよりも、自ら蹴落としにいく性格だから、絶対にない」

「そ、そっか」


 イングリットを見上げると、大丈夫だとばかりにコクリと頷いていた。

 エルは再び、レインの師匠の研究室にお邪魔する。

 入ってすぐの部屋にメイの姿はない。奥にある部屋で、おそらくなんらかの作業をしているのだろうとレインは言う。


「それで、証拠ってなんだ?」

「ジェラルド・ノイマーが、下町で黒斑病を発症させるノミ付きの布を売っていたの!」

「は!? なんじゃそりゃ! つーか、黒斑病って、ノミから発症すんのか?」

「そうなの。知らなかったの?」

「ああ」


 黒斑病は土壌に生息する細菌をノミが運び、人へと移る。

 そのノミを、共生を可能とするネズミが運ぶことによって感染はさらに拡大しているのだろう。


「錬金術師達は、黒斑病についてどれくらい知識があるの?」

「俺はまったくの専門外だから、からっきしと言っていい。師匠だったら、上層部の会議でいろいろ情報をもらっているはずだから、何か知っているかも」

「わたし達の話、聞いてくれるかな?」

「わかんねえ。けど、一応聞いてくる」


 なんだか胸騒ぎがする。一刻も早く証拠を提出し、ジェラルド・ノイマーを糾弾しないと取り返しの付かない事態になりそうで恐ろしかった。


 十分後――メイはレインに腕を引かれてやってくる。機嫌は、超絶悪そうだった。


「もー、何よ!! 黒斑病の問題なんて、どーでもいいって言っているでしょう!!」

「師匠も感染したら、大変なことになるだろうが!」

「私は感染なんてしないわよ! ここから出なきゃいいのだから!」

「黒斑病は、人から人へも移るんだってば!」

「わかっているわよ! だからあんたの外套にも、菌避けの魔法はかけてあるんだから! 菌は人の排泄物から空気中に浮遊していて、それを吸い込めば感染するけれど、魔法が跳ね返すから問題なし! 感染拡大が終息するまで家に帰らないから、私にはまったく問題ないの!」


 エルはメイの言葉を聞いてピンとくる。彼女は黒斑病についての基本的な知識があると。


「師匠、あんた、自分さえよければいいって思っていないか?」

「当たり前じゃない。みんな、自分が一番大事なのよ」


 メイの主張に、レインはため息を返す。


「なあ師匠。今ある食料は、何もないところから勝手に生まれるわけじゃないんだよ。人が作っているんだ。もしも、食料を作る人が黒斑病で死んじまったら、師匠だっていつか飢えて死んでしまう」

「そういうときになったら、覚悟を決めるわ」


 他人を説き伏せることの難しさを、エルはここでも痛感する。

 我が道を行くメイの協力を得られるのは、空に輝く星を掴むくらい難しいようだ。


 どうすればいいのか。エルが頭を抱えていたら、イングリットがある提案をする。


「あんたが協力してくれるならば、研究費を提供する」

「は?」

「私は魔石バイクを作った魔技巧師だ。金は腐るほどある」

「本当なの?」

「本当だ」

「証拠は?」


 エルは魔石バイクの権利書を魔法鞄の中から取り出し、イングリットへと差し出した。

 それを、メイへと見せる。


「え、嘘。本物じゃない。あんた本当に、今話題になっている新鋭魔技巧師だって言うの?」

「魔技巧師自体はずっと続けていたんだがな。運悪く、権利を他人に奪われていたんだよ」

「そうだったの」


 イングリットが提示した金額に、メイは目を見張る。

 すでに、彼女は魔石バイクの売り上げにより使い切れないほどの報酬を得ていたのだ。 生活は以前とまったく変わらないため、金は貯まる一方だった。


「本当に、いいの?」

「ああ。だから、私達に協力してくれ。黒斑病の感染拡大を防止し、キャロルを助けたいんだ」

「ん? なんでキャロル・レトルラインの名前がでてくるの?」

「キャロルが黒斑病を広めた犯人だと決めつけて、魔法騎士が拘束したんだ」

「は!? そんなわけないじゃない!! 魔法騎士はバカなの!?」


 イングリットは前金について話そうとしていたようだが、メイのやる気に火を点けてしまったようだ。


「あの子をこてんぱんにするのは私なのに! 妙な罪をなすりつけて捕まえるなんて、絶対に許さないわ!」


 メイは尊大な態度で言う。何をすればいいのかと。


「あの、黒斑病がノミから人へ感染することは知っているの?」

「ええ」

「そのノミ付きのリネンを、売りさばいているお店があるの。証拠のリネンもあるから、ノミを調べて」

「わかったわ」

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