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少女と猫とお人好しダークエルフの魔石工房  作者: 江本マシメサ
第三部 少女はダークエルフと共に、魔石工房を作る!
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少女は前を向く

 下町の商店が並ぶ通りに向かった。

 店のほとんどが、店舗を持たない露天商である。

 ここも、人であふれかえっていた。


「あちゃ~、ここもこうなっているか!」

「変な噂に、みんな惑わされている」


 上等のワインを飲めばいいだの、タマネギを置いていたら病を予防できるだの、出所不明の噂を信じているようだ。


 その中で、ひときわ行列を成しているのは、これまで空き家だった建物を改装して開かれた店。


「高級リネンのセールだよ! 一枚、銅貨三枚だ!」

「先週よりも、安いよ!」


 ジェラルド・ノイマーが経営する、リネンを売る商店。

 黒斑病を広めた疑いがあるリネンを、騒ぎに乗じて売りさばいているようだ。


「イングリット、あれが、例のリネンのお店かな?」

「だろうな」


 一度持ち帰って、キャロルに調べて貰わなければならない。

 エルとイングリットは、リネンを入手するために列に並ぶ。


 心が、ざわざわと騒めく。

 黒斑病が蔓延している下町での活動は、心臓に悪い。

 錬金術師の外套を着ていたら感染することはないというが、それでも恐ろしかった。

 イングリットの顔を見上げる。いつもは明るい彼女でさえ、顔色が悪い。

 黒斑病の問題に加えて、今回はジェラルド・ノイマーが関わっている。平静を保っていられる状況ではないのだろう。


 エルはイングリットの手に触れた。ぎゅっと、拳が作られている。何度かつんつんと指先で突くと、拳は解かれた。すかさず、エルはイングリットの手を握る。


「ん、エル、どうかしたのか?」

「怖いから、手、繋いでいて」

「ああ」

「イングリットは怖くないの?」

「エルがいるから大丈夫だ」

「そっか。よかった」


 イングリットの表情が、いつもの彼女に戻る。エルは内心、ホッと胸をなで下ろした。

 負の感情に、囚われてはいけない。自分を見失ってしまう。

 周囲の人達は、みんな自分のことしか頭にないようだった。

 こういうときこそ、しっかり自我を保っていなければ、精神はいともたやすく崩壊してしまうだろう。


 繋いだ手は、絶対に離してはいけない。エルは強く思った。


 二時間半ほど並んで、ようやくエルとイングリットの順番が回ってきた。

 販売を担当しているのは、下町出身の者だろう。訛りでわかる。

 年頃は四十代くらい。

 エルの母親であるアルフォネ妃も、生きていたらこれくらいだろう。

 おそらく、リネンが黒斑病の感染源だと知らずに販売しているのだ。今は元気に見えるが、しだいに彼女らも黒斑病の症状が出始めるだろう。ツキンと、胸が痛む。


「慌てなくても、まだまだいっぱいあるよ」

「どれだけ必要なんだい?」

「三枚くれ」


 イングリットが広げたのは、素材集めのために使う密封袋である。

 魔技巧品の素材であるスライムの粘膜や、水草、泥などを収集するために作ったもので、密封したら中身は絶対に外にでないイングリット特製の魔技巧品である。

 まさか、ここで役に立つとは思わなかった。

 三枚のリネンが袋の中に詰められる。イングリットはすかさず、密封状態にした。

 代金を支払い、エルとイングリットは手を繋いで人込みを去る。


「よし、と。こんなもんか」

「うん」


 証拠は十分なほど集まった。再び、王都の郊外に戻ってプロクスに乗って帰る。


 ◇◇◇


 公爵邸に戻ったが、フォースターとキャロルはいなかった。

 フォースターはジェラルド・ノイマーの工房に立ち入り検査をする許可をもらいに行ったという。国王の名の下に、調査をするつもりらしい。

 キャロルは黒斑病の対策を行うため、錬金術師の塔へ戻ったようだ。


「まずは、錬金術師の塔に行って、リネンを調べてもらわなきゃいけない」

「そうだな」


 一刻も早く、対策に乗り出したほうがいい。

 エルとイングリットは休まずに、錬金術師の塔へと向かった。


 プロクスの背中に跨がり、錬金術師の塔の露台に着地する。

 中へと入ると、先ほどよりも騒がしい様子だった。錬金術師達が、走り回っている。

 先ほどよりも、雰囲気が緊迫していた。

 その中で偶然に、レインを発見する。イングリットは彼を引き留めた。


「おい」

「うわ! って、あんた達か」

「驚かせて悪かったな。これは、なんの騒ぎだ?」

「いや、大変なんだよ!」

「何があったの?」


 レインの口から、とんでもない情報が発せられる。


「レトルライン部長が、黒斑病を蔓延させた疑いがあるとかで、拘束されたんだ!」

「キャロルが!?」


 黒斑病は、錬金術師達が王都に持ち込んで流行らせた。その指示を出したのが、キャロルだったと。


「そんな、ありえない……!」

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