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少女と猫とお人好しダークエルフの魔石工房  作者: 江本マシメサ
第三部 少女はダークエルフと共に、魔石工房を作る!
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少女は決意する

「うわ~、竜とかはじめて乗ります」

「キャロル、落ちないようにね」

「落ちたら、一巻の終わりですねえ」


 プロクスは幼獣から成獣体になり、エルとイングリット、それからキャロルを背中に乗せた。


『ぎゃう、ぎゃう~(飛ぶよ~)』

「プロクス、飛ぶって」


 翼をはためかせると、大きなプロクスの体が宙に浮いた。

 はじめての騎乗に、キャロルは恐怖を覚えて前にいるイングリットに抱きついた。


「ヒッ、う、浮いた!」

「おい、キャロル! しがみつくなら鞍にしろ!」

「わ、わかっているのですが、イングリットさんの背中のほうが安心感があって」

「なんでだよ」


 エルは内心「わかる」と頷いていた。


 錬金術師の塔から、空へと飛び立つ。

 やっと王城の敷地内から脱出できたものの、かと言って街は安全ではない。

 黒斑病を導く魔女と決めつける魔法騎士が、巡回しているのだ。


 罪の身代わり人スケープゴートにされ、エルの中には燃えたぎるような怒りが沸き起こる。


 これまでは悲しみのほうが強かった。今は違う。

 いったい誰がエルを悪と決めつけたのか。

 絶対に、暴かないといけない。

 ジェラルド・ノイマーと鳥仮面、そして、エルを黒斑病の魔女と決めつける存在は、ひとつに繋がっているように思えてならなかった。


 エルはプロクスの背中から、街の様子を見下ろす。

 魔法騎士が多く行き来し、街中は混乱状態にある。号外が配られているようだが、おそらく黒斑病関連の速報だろう。


「あんなに大勢集まって……ん?」


 何やら広場に、建物が造られているようだった。天幕も張られている。


「あれ、なんだろう? キャロル、わかる?」

「いいえ。なんでしょうねえ」


 広場は皆で共有されるもので、個人のものではない。いったいどういった目的で造られているのか。想像もできなかった。


『ぎゃうううう!?(あ、あれは!?)』

「プロクス、どうしたの?」

『ぎゃう、ぎゃううう!!(あの建物、使われているのは、聖樹だ!!)』

「え、ええ!?」


 洗熊妖精の森から勝手に伐採された聖樹が王都にあり、広場の建物の建設木材として使われていると。

 いったいどうして!?

 疑問が雨霰のように降りかかってくる。


「エル、どうしたんだ?」

「広場の建物、聖樹で、造られているって」

「なんだって!?」

「どうかしたのですか~?」

「あとで話す」


 とにかく今は、フォースター公爵家へ。

 プロクスは速度を速めて、空を走った。


 フォースター公爵家の周囲に、魔法騎士の姿や馬車はない。ホッとしつつ、噴水広場へ降り立った。


 遠くから飛んでくる様子が見えていたのか。使用人達が迎えにやってくる。


「エルお嬢様!」

「お帰りなさいませ」

「旦那様が、首を長くしてお帰りをお待ちです」

「わかった」


 フォースターは魔法騎士に拘束されているわけではなかったようだ。内心、ホッと胸をなで下ろす。


 幼体になったプロクスを抱き上げ、ヨヨとフランベルジュを魔法鞄の中から出してあげる。


『はー、やっと出られる』

『なかなか窮屈だったな!』

「ふたりとも、ごめんね」


 謝りつつ、エルは急ぎ足でフォースターのもとへと向かった。

 焦燥感に襲われている。何か、取り返しのつかない事態になっているのではと、エルを不安な気持ちにさせていたのだ。


 ようやく、フォースターと再会となった。


「エル~~~~~~!!!!」


 フォースターがエルに駆け寄り、抱きしめようとした。

 エルは当然回避し、使用人を盾にして隠れた。


「な、なぜ?」

「普通に怖い」

「怖くない……、怖くないから……!」

「余計に怖い」


 こういう事態でも、フォースターはフォースターであった。

 エルの中にあった焦燥感は、少しだけ薄くなる。


 ここでようやく、フォースターはキャロルの存在に気づいたようだ。


「おや、君は国家錬金術師の?」

「キャロル・レトルラインです~。本日は閣下にお願いがあってやってまいりました」

「寄付かね?」

「いいえ、そうではなくて、お得意の腹芸とガサ入れをしていただこうかな、と」

「ほう?」


 人払いをして、詳しい事情をフォースターに説明する。

 先ほどのエルに対する甘い態度はきれいさっぱり消え失せ、冷徹な顔を覗かせていた。


「なるほどな。王都を混乱の中に陥れる輩が、いたというわけか」

「ええ」


 このままでは、あっという間に黒斑病が広がってしまう。それだけは避けたいが、どうにもならない事態に片足を突っ込んでいる状態だとキャロルは話す。


「して、貴殿は黒斑病の薬を作らなくてもよいのか?」

「すぐに作れるものではありません。今は、感染を食い止めませんと」

「そうだな」


 エルは膝の上にあった手を、ぎゅっと握りしめる。拳に、ヨヨがそっと手を添えた。


『エル、もう限界だ。話したほうがいい』

「ヨヨ、でも……」

『エルひとりで解決できる問題じゃないんだ』


 エルは顔を上げ、ひとりひとりと目と目を合わせる。

 皆、信頼できる大人ばかりだ。

 イングリットは言わずもがな。

 キャロルは自らの地位をなげうっても、この事態をどうにかしなければと思って動いている。

 フォースターは怪しさしかないが、それでもエルを守ってくれるだろう。

 ならば、彼らを信じ、心の内を打ち明けるしかない。


「エル、どうしたんだ?」

「わたし――話さなければいけないことが、あるの」


 勇気を振り絞って、エルは黒斑病の薬について話し始めた。

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