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少女と猫とお人好しダークエルフの魔石工房  作者: 江本マシメサ
第三部 少女はダークエルフと共に、魔石工房を作る!
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少女は一歩前に進む

 どうしてこうなったのか。

 エルは冷静に装いつつも、脳内で頭を抱え込む。


 そもそも、エルとイングリットは黒斑病の問題に立ち向かうために王都にやってきたのではない。

 洗熊妖精が棲む森に自生していた聖樹が何者かに盗まれたので、調査をしにきたのだ。


 それが、王都についた途端に魔法騎士隊に見つかり、ジョゼット・ニコルに追い詰められ、ネージュと離ればなれになってしまった。


 アルネスティーネと出会ってしまったのも、何かの運命なのか。


 考えれば考えるほど、わからない。

 ぐらりと、視界が傾いた。


「おっと! エル、大丈夫か!?」

「あ……うん」


 イングリットがエルの肩を支え、心配そうな表情で覗き込む。


 上層部からの報告を聞くキャロルの横顔は、極めて険しい。

 深刻な状況なのだろう。


「あ――王女殿下、すみません。なんか、バタバタしてしまってー」

「忙しく、なりそう?」

「そうですね」


 これから対策のための話し合いが行われるらしい。レインは慌てた様子で、鳥仮面についての目撃情報を報告した。


「ジェラルド・ノイマーの倉庫で、黒斑病の患者にデタラメな治療をする鳥仮面が発見されたんだ」

「それは――フォースター公爵が調査していた者達なのかな~?」

「たぶん、そう」


 エルがフォースターに、素性を調べてほしいと頼み込んでいたのだ。


「うわあああ~~~! こんなときに、一気に問題が押し寄せてくるなんて」

「キャロル、落ち着いて」

「うううう」


 流石のキャロルも、混乱状態にあるらしい。


「ひとまず、鳥仮面の暗躍を防ぐために、どうにかしないといけないですね~」


 魔法騎士は頼れない。ジェラルド・ノイマーとの癒着が疑われているからだ。


「強制的に調査をする必要があるのですが、国家錬金術師にそのような権限はありませんし……」

「キャロル、フォースターにお願いするのは?」

「あ、そう、ですね。フォースター公爵ならば、得意そうです」


 フォースター公爵家には、大勢の魔法騎士が押しかけていた。撤退していたらいいのだが。


「黒斑病の対策に魔法騎士は駆り出されていることでしょう。おそらくですが、フォースター公爵家からは撤退しているはずです」

「連行されていないといいけれど……」

「フォースター公爵、ついに何かしちゃったのですか?」

「ジョゼット・ニコルに目を付けられているから」

「いったい何があったのですか~?」


 いちから説明するとなると、非常に長くなる。今は、事情を話している場合ではない。

 各々行動に移る必要があるが、キャロルは眉間に皺を寄せる。


「えーっと、そうですね。では、私は会議をサボります!」


 キャロルの思い切った決定に、「えー!!」と抗議の声を上げたのは彼女の弟子達だった。


「どうせ、報告にあった内容しか話さないでしょう。それよりも、今は一刻を争うような状況なんです。魔法騎士隊を頼れないので、私が動く必要があるのですよ」


 弟子達には、キャロルはどこかに出かけていたと言っておくようにと命じた。


「キャロル、大丈夫なの? その、気まずくなったりしない?」

「大丈夫ですよ~! 私、もともと地位に頓着とんちゃくしているわけではないので」


 がむしゃらに研究を続けているうちに、気がついたら今の地位にいたと。

 降格が命じられても痛くも痒くもないという。


「そんなわけで、フォースター公爵のお屋敷に行きましょう」

「どうやって行くんだ?」


 レインの質問に、キャロルは眉間に皺を寄せる。


「きっと街中は、騒ぎが起きているでしょうねえ」


 小回りが利く魔石バイクも、人の波の中では移動も難しいだろう。

 どうしようかと考えている中で、エルの鞄の中から『ぎゃううう』という鳴き声が聞こえた。


「あ、プロクス!!」


 地上がダメならば、空がある。エルはすっかり失念していた。


「キャロル! どこか外に開けた場所がある?」

「ええ。この上の層に、屋外の召喚用の露台バルコニーがあったはずです。それが、どうかしたのですか?」

「竜に乗って移動するの」


 急いだほうがいいだろう。エルはキャロルに支度するように言った。


「レイン、あなたは、どうする?」

「俺は――ここまでにしておく。たぶん、足手まといになるだろうから」

「そう」


 エルは鞄の中から、魔石を取り出してレインに差し出す。


「いろいろと、ありがとう。これ、お礼」

「なんだ、この魔石は!?」


 レインは天井の灯りに、エルが作った魔石を掲げて見る。


「こんな魔力純度が高くて、きれいな魔石をはじめてみた」

「そう」


 エルの魔石のよさをわかってくれる人は、イングリットの他にもいるのだ。

 自分の仕事に、自信を持たなくては。エルは、改めて思う。


「これ、どこで買ったんだ?」

「森の奥にある、魔石工房」

「ざっくりした情報だな」

「開店したら、教えるから」

「そうか」


 エルとイングリットと、仲間達が作る魔石工房。

 いつ開店できるものかわからない。

 ひとまず、目の前にある問題を解決しなくてはならないだろう。

 黒斑病の薬について、口だしするか否かの答えは出ていない。

 けれど、デタラメな治療をする鳥仮面は見過ごせなかった。

 フォースターの力を借りて、ジェラルド・ノイマーの工房を調べなければ。

 エルはレインと別れ、キャロルと共にフォースター公爵家を目指す。


 

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