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少女と猫とお人好しダークエルフの魔石工房  作者: 江本マシメサ
第三部 少女はダークエルフと共に、魔石工房を作る!
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少女は錬金術師の塔へ

 一行は再び錬金術師見習いの外套をまとい、魔石バイクで錬金術師の塔を目指す。

 巡回する騎士の数は少なくなっていた。アルネスティーネが発見されたからだろう。

 結局、ネージュは見つからなかった。がっくりうな垂れつつも、本来の目的のために行動する。

 錬金術師の塔に戻ると、裏口を案内される。見習いは正門を通ってはいけないらしい。 内部は暗く、ふわふわと漂う光の球が当たりを照らしていた。


「こっちだ」


 建物をくるりと回り込むような細長い廊下を進み、正面玄関のほうへと向かった。


 塔には先が見えないくらいの螺旋らせん階段がある。錬金術師達が忙しなく行き交い、荷物を運ぶ鳥や大きな虫の姿も確認できた。


「あれ、何?」

「使い魔だよ。素材集めとか、仕事の納品とか、いろいろ雑用をしてくれる。一人前の錬金術師になると、使い魔との契約が許されるんだ」

「へえ、そうなんだ」


 このまま階段を上っていくのかと思いきや、レインは立ち止まって振り返る。


「俺みたいな見習いは、レトルライン部長と会えない。だからまず、俺の師匠に頼んで話を通してもらう。まあ、相手のほうが地位が上で、かつ相性のいいわけではないようだが。まあ、王女様の命令とあれば、渋々応じてくれるだろう」


 当初の予定通り、エルは王女の振りをする。


「移動はこっちだ」


 どうやら、階段を上って移動するわけではないようだ。錬金術師の塔のエントランスに描かれた転移陣に乗って、直接部屋に行くという説明を受ける。


「転移魔法が常時展開されているなんて、すごいね」

「昔の錬金術師の技術らしい」


 なんでも、最上階に研究所を持つ錬金術師が、やっていられないと怒りながら造った代物らしい。五百年ほど前の魔法なのだとか。


「すごいね、そんなに昔の魔法が残っているんだ」


 基本的に、魔法は術者が死ぬと効果がなくなる。しかしこの魔法陣に限っては、術者から離れ、錬金術師の塔に依存した状態で造られているらしい。


「塔の先端に魔法陣が描かれていて、月明かりを浴びて魔力を集めているんだ」


 信じられないほどの天才が、錬金術師の塔にはいたのだ。


「ちなみに、最上階は何階なの?」

「三百階くらいだったか?」

「もしかしたら、私も怒って転移魔法を造っちゃうかも」

「三百階を昇り降りはしたくないもんな」


 お喋りはここまでにして、移動する。


「四十七階、メイ・アレッサー研究所まで」


 それから、ぶつぶつと呪文を唱える。すると、魔法陣が光って体がふわりと浮いた。

 パチパチと瞬きしているうちに、景色が変わる。

 大釜に暖炉、素材が置かれた棚がびっしり並ぶ、典型的な研究室に降り立った。


「うわっ!」

「きゃっ!」

『ぎゃう~~~!!』

『どわーー!!』

『う、うるさい』


 各々悲鳴を上げていたが、レインは訝しげな表情で振り返った。


「おい、今、二人分以上の悲鳴が聞こえたのだが?」



 魔法鞄の中に潜むヨヨとプロクス、フランベルジュの声であったが、説明すると面倒なのでエルは誤魔化す。

 

「気のせい」

「いや、気のせいじゃないだろ」

「うるさい!!」


 奥の部屋から三十代半ばと思わしき、細身の女性が飛び出してきた。

 ボサボサの栗毛をひとつにまとめ、狐のように目が細く、鼻周りにはそばかすが散っていた。錬金術師の外套はところどころほつれ、シャツには薬品らしき染みが散っていた。

 いかにも、研究者といった出で立ちである。

 そんな彼女は、エルとイングリットをジロリと睨む。そして、レインを糾弾した。


「レイン、あんたまた、仕事仲間を勝手に引き込んだの!?」

「師匠、違いますよ。この人、王女サマです!」

「は?」


 エルは頭巾を取って顔を見せる。レインの師匠はハッとなった。


「王女様!?――って、こんな顔をしているのね」


 師匠の言葉に、レインはガクリと肩を落とす。どうやら、彼女もアルネスティーネの顔を知らないらしい。


「師匠、王女サマの顔、知らないのかよ!」

「だって、王族の式典に参加するなんて、時間の無駄だし」

「嘘だろう?」


 なんというか、似たもの師弟だとエルは思った。


「王女サマ、この人はメイ・アレッサー。一応、金属錬金術の権威っぽい」

「一応って何よ! 立派な権威なんだから!」


 メイは七金属――金、銀、水銀、銅、鉛、鉄、すずを使った魔法を得意とする、錬金術師だという。


「錬金術で一攫千金を目指すがめつい奴らは、師匠のところにやってくるのさ」

「実力が伴わないと、金なんて作れないけれど。それはそうと、王女様はなんの用事なの?」「キャロル・レトルライン部長に会いたいらしい。師匠から、話を通してくれないか?」

「は?」

「いや、だから、キャロル――」

「イヤよ」

「は?」

「イヤ!! あの脳天気ぽやぽや薬バカと話を通すなんて、死んでもイヤよ!!」


 まさかの反応に、エルは呆然とする。前途は多難であった。

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