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少女と猫とお人好しダークエルフの魔石工房  作者: 江本マシメサ
第三部 少女はダークエルフと共に、魔石工房を作る!
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少女はおぞましい記憶を遡る

 鳥を模したような黒い仮面――それは、黒斑病の医者と称し、患者にとんでもない治療を行っていた存在ものである。

 エルの些細な反応に、レインが気づく。小声で話しかけてきた。


「どうしたんだ?」

「これ、黒斑病の医者の仮面」


 レインは反応せず、小さな瓶を取り出した。蓋を開けて口を鳥の仮面に付けると、一瞬にして吸い込む。

 どうやら、証拠品集め用の魔技巧品を持ち歩いていたらしい。


 見張りのイングリットが、合図を出す。監督役の男の視線が、こちらに向いたのだろう。

 仕分けを再開させる。

 木箱の蓋を閉め、入り口のほうへと運んだ。


 それから三時間、証拠となりうる品は出てこなかった。

 運がよかったのだろう。

 日給を受け取り、食堂に戻る。その間、誰もが無言だった。


 食堂の物置に入った途端、レインがエルに問いかける。


「おい、これが噂になっていた、黒斑病を治す医者のマスクというのは本当か!?」

「本当。わたし、見たの。これをつけた医者が、適当な治療をしているところを!」


 どうやら、黒斑病の医者については、錬金術師たちの間でも噂になっていたらしい。


「なんか、気味悪い噂ばかり流れてきて――」


 黒斑病の治療を唯一可能とする奇跡の救世主だとか、出会ったら寿命が五十年延びるとか、伝説上の存在で、実在しないとか。

 実際に見たという者はひとりもいなかったという。


「奇跡なんかじゃない。あの医者は、適当な治療を行って、患者からお金をせしめていたの」


 エルが目にした治療は、どれも酷いものであった。


「黒斑病の黒い痣に熱したナイフを突き刺して瀉血したり、鳩を殺して腫れたコブに当てたり……」

「ひでえな」


 レインは小瓶を取り出す。そこには、患者におぞましい治療をしていた鳥仮面が入っていた。


「これは、とんでもない証拠となりうるわけだ」

「フォースターも鳥仮面について調査していたから、何か知っているかも」

「フォースター?」

「あ、フォースター公爵」

「なんで、フォースター公爵を呼び捨てにしているんだよ」

「ちょっとした、知り合い」

「んなわけあるかよ」


 ジッと、レインはエルを覗き込む。すると、何かに気づいたのかハッと息を呑んだ。


「いや、あんた、本当に王女殿下なのか!?」

「……」


 今更、嘘を突き通すのもどうかとエルは思う。反応に困っていると、レインが勢いよく捲し立てた。


「そういや俺、一回王女殿下生誕祭の記念品スーベニアで、皿に印刷された肖像画を見たことがあるんだ! どうして王女殿下が、ウロウロしているんだよ」


 なんと答えていいものか。エルが迷っているところにイングリットが割って入る。


「すまない。詳しいことは今は話せないんだ。ただ、おそらく、私達の敵は同じだ。どこかで、詳しい事情を話せると思う」


 代わりに、イングリットとジェラルド・ノイマーの因縁についてレインに話して聞かせた。


「あいつ、本当にクズだな」


 レインの反応を前に、イングリットは目を丸くする。


「なんだよ?」

「いや、今の突拍子もない話を信じるのだと思って」

「当たり前だろう。噂されていたんだ。ジェラルド・ノイマーの魔技巧品は、以前いた優秀な誰かが考案、開発したものだろうって」

「そうなのか?」

「ああ、間違いない。あんたが工房を出た時期と、ジェラルド・ノイマーの工房が発売した商品の質が低下したのは同じくらいだった」


 それまで、珍しく高機能な魔技巧品を発表し、発売していた。しかしながら、ある日を境に、品物の質が低下し、ありふれた物ばかりになってしまったのだ。


「一時期、ジェラルド・ノイマーの工房は終わったって、囁かれていたんだが――」


 工房を起死回生させた商品が発売となった。


「それが、魔石車だ。ただ、細部の造りは非常に甘く、大量の魔石を消費し、王都の空気を汚染する物質を排出させている。貴族用に販売している高級品だから、そんなに数は走っていない。魔石バイクのように、皆が皆乗っていたらと思うと、ゾッとする」

「ちなみに、魔石バイクを開発したのも私だ」

「お前、稀代の天才なのか!?」


 イングリットは間違いなく、稀代の天才である。エルは深々と、頷いたのだった。


「な、なんだよ、いきなり」

「いや、本当だろうが。誰も思いつかない斬新な着想、それを実現させる頭脳とセンス。魔技巧師になるべくして生まれたような人間だろうが」


 突然褒められたイングリットが赤面したのは、言うまでもない。


「しかし、ジェラルド・ノイマーは稀代の大馬鹿もんだな。あんたみたいな人に対して、きちんとした報酬を払わずにいたなんて。俺でも、愚かな行為だとわかる」


 ジェラルド・ノイマーの愚かなところは、イングリットに対する態度だけではなかった。

 黒斑病の患者に対し、デタラメな治療を行う鳥仮面の一団を取り仕切っている可能性も浮上したのだ。


「ひとまず、キャロルに報告しよう。それから、フォースター公爵の協力も仰ぐ必要もあるな」


 イングリットの言葉に、エルとレインは頷いた。


 バラバラだった点と線が、ひとつの方向に向きつつある。

 エルとイングリットは、最後の決着をつけるために動き始めた。

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