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少女と猫とお人好しダークエルフの魔石工房  作者: 江本マシメサ
第三部 少女はダークエルフと共に、魔石工房を作る!
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少女は動く

 アルネスティーネに近しい者と会ったらどうしよう。

 エルは不安になる。けれど、やるしかない。

 腹を括り、廊下に出た。

 まずは、外に出なくては。ここは三階。階段を求めて、長い廊下を歩く。

 前方より騎士が歩いてきた。エルの心臓は、バクバクと大きく鼓動する。

 動揺を見せてはいけないだろう。たいてい、こういうのは堂々としていたらバレない。

 騎士はエルを見るなり、ハッとなる。対するエルは、胸の鼓動が相手に聞こえるのではと思うほどであった。

 バレませんように! と、何度も心の中で繰り返す。

 騎士は動きを止め――壁際に寄る。そして、こうべを垂れた。


 どうやら、バレていないようだ。

 安堵すら呑み込んで、足早に進んでいった。

 三階から二階に下りる。すると、すれ違う人がドッと増えた。

 だが、アルネスティーネ扮するエルに声をかける者はいない。皆、壁際に寄って頭を下げていた。

 中には、片膝をついて頭を垂れる者までいる。

 エルはその者の脇を、足早に通り過ぎた。

 想定以上に、たくさんの人達に目撃されてしまった。幸いにも、呼びとめられることはなかったが。


 二階から一階へ。

 そこは、使用人達が行き来する区画であった。三階や二階の比ではないほど、大勢の人達が行き交っていた。

 中には、王女であるアルネスティーネの顔を知らない者もいるらしい。


「お嬢ちゃん、どこに行くんだい?」


 声をかけられ、エルはギョッとする。

 園芸用の大きなハサミを持っているので、庭の草花を手入れする園丁なのだろう。

 年頃は四十歳くらいか。

 無精髭を生やしている様子が、エルの父親であるフーゴを彷彿とさせる。


「いったい、どこから迷い込んできたんだ?」

「えっと、上のほう」

「だろうな」


 王城で働いているのは、貴族ばかりではない。王族の顔も知らない者も、大勢いるのだ。


「この辺りは、お嬢ちゃんが行き来するような場所ではないよ。おじさんみたいに、大きなハサミを持っている危ない人もいる」


 自分で自分を危ないと言うので、エルは思わず笑ってしまった。

 悪い人には見えない。フーゴを彷彿とさせるので、親近感もあった。この人は大丈夫だろう。そう思って、質問してみる。


「あの、わたし、錬金術師の塔に行きたいの。おじさん、場所を知っている?」

「ああ、知っているとも。けれど、あそこもお嬢さんが行くような場所ではないがな。危険な奴らがたくさんいるんだよ」

「知り合いがいるの。お話しをする約束をしていて」

「そうだったか。いやはや、知り合いがいるところを悪く言って、すまないね」


 それも無理はないだろう。よく知らない存在への気持ちは、悪い方向へと流れやすい。エルは「気にしないで」と言葉を返す。


「早く行かないといけないの。お願い」

「わかった、わかった。案内してやるから」

「ありがとう!」


 イングリットが持つ魔法鞄の中にいるヨヨは、無反応である。この園丁の男性は、危険な人物ではないのだろう。

 一応、イングリットも振り返る。大丈夫だとばかりに、こくりと頷いていた。


「こっちだ」


 エルは園丁の男性のあとを、ついていく。

 途中、休憩室のような場所に立ち寄り、袖や裾が綻んだ外套を貸してくれた。


「これを着ていたら、目立たないからよ」

「ありがとう」


 エルはさっそく外套を着込む。頭巾を深く被ると、エルを振り返って見る者はいなくなった。

 渡り廊下から庭に出ると、園丁の男性が指差す。


「あれが、錬金術師の塔だ」

「あ――!」


 イングリットが言っていたとおり、天を衝くほど高い塔であった。あそこに、キャロルがいる。


「早く、行かなきゃ」

「大丈夫だよ。錬金術師の塔は逃げやしない」


 園丁の男性は迷路のような庭を突っ切り、錬金術師の塔の入り口まで案内してくれた。


「ここまで案内すればいいかな」

「あ、ありがとう」


 無事にたどり着くことができた。エルは安堵の息をはく。

 外套も、きれいに畳んで返した。


「あの、お礼――」

「ああ、いいよ。俺も、庭を見回る予定だったから。ここへの案内はついでだ」

「でも」

「いいって言っているだろうが」


 帰りは気を付けるように。そう言って、園丁の男性は踵を返す。

 その後ろ姿に、エルは深々と頭を下げた。

 イングリットがエルの肩をポンと叩く。


「いい人っているんだな」

「わたしもそう思った」


 この世には、悪意ばかりが満ち足りている。

 そう思っていたが、先ほどの男性のように見返りを求めずとも優しくしてくれる人はいるのだ。


「わたしも、優しい人でありたい」

「そうだな」


 ただ、優しさだけでは世界は成り立たない。

 それでも、優しい人でありたいとエルは思った。 

前回に引き続きまして、2巻のキャラクターデザインを公開します。

挿絵(By みてみん)

エルの父、フーゴ


挿絵(By みてみん)

怪しくエルに絡む怪しいお姉さん、ジョゼット・ニコル


挿絵(By みてみん)

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