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少女と猫とお人好しダークエルフの魔石工房  作者: 江本マシメサ
第三部 少女はダークエルフと共に、魔石工房を作る!
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少女達は、変装する

 エルは以前フォースターが贈った、薄紅大天使をまとう。

 そして、先ほどアルネスティーネがしていた髪型に結った。


「そうしていると、さらにアルにそっくりだな」

「一卵性双生児だからね」

「性格はまったく違うがな」

「そう? わたし、彼女と性格も似ていると思った」

「まー、なんていうか、まとう空気感はそっくりだな」


 イングリットがギラギラ輝く太陽ならば、エルとアルネスティーネは静謐な美しさを持つ月。


「ただ、根っこの部分が、真逆なような気がする」

「根っこ?」

「ああ。エルの中には、揺るがない自信があるが、アルにはないように思える」

「どうして、アルネスティーネには自信がないの?」

「簡単だよ。アルは、愛されていなかったんだ」


 さまざまな人から惜しみなく注がれた愛が、自己肯定感を高める。それが、自信に繋がるのだと。イングリットは言い切った。


「お父様もお母様もいたのに、アルネスティーネは、愛されていなかったんだ」

「まあ、そうだな」


 両親に庇護され、育った者は皆幸せなのだとエルは思っていた。

 しかし、必ずしもそうであるというわけではないようだ。


 母親である王妃は、もうひとりの娘を引き裂かれたショックを引きずり、残ったアルネスティーネと向かい合おうとしなかった。

 父親である国王は、王族の慣例に乗っ取り、子どもの教育は臣下に任せ、愛情を注がなかった。

 祖父であるフォースターは、アルネスティーネに嫌われていると思い込み、近づかなかった。


「きっと、アルにとってエルは、最後の砦だったんだろう」

「どういう意味?」

「愛してくれるかもしれない、たったひとりの家族ってことだ」

「……」


 アルネスティーネを愛せるのか。それはまだ、わからない。

 鏡を覗き込んだようにそっくりな娘、アルネスティーネ。

 彼女は何を思い、何を正義として生きているのか。少ない時間から、それらをくみ取るのはとても難しかった。


「わたしは、もっと、アルネスティーネについて、知りたい」

「そうだな」


 そのためには、まず、ここから脱出して錬金術師のキャロルと落ち合う必要がある。


「あ、錬金術師の塔は、どこにあるのか。どうしよう。誰かに案内してもらう?」

「いや、必要ないだろう」


 錬金術師の塔は王城と並んで建っているという。そうそう遠くない位置にあるだろうと、イングリットは言う。


 まずは、王城からの脱出を考えなければいけない。

 変装を、しなければ。 


「さて。次はメイド組だな」


 メイドはヨヨとプロクス、フランベルジュが担当する。


『っていうか、メイド、必要?』

「必要だよ。王女様は大勢の使用人を引き連れて移動しているんだから」

『いや、侍女とメイドのふたりって、少なくない? 意味ある?』


 ぼやくヨヨは無視して、どういう構造にしようか考える。

 ヨヨとプロクス、フランベルジュを合体させて、ひとりのメイドを作るのだ。


「まず、プロクスを中型に変化させて、二本足で歩かせる」


 さっそく、プロクスは幼体から中型へと転じた。すっと立ち上がる。イングリットがプロクスにエプロンドレスを着せたが、長い尻尾があるのでスカートがめくれ上がった。


「おお……! なんだ、エルサン、こんな感じになったが?」

「あ、どうしよう」 


 ひとまず、プロクスの二足歩行案は却下となった。


「次は、猫くんかな?」

「ヨヨ、二足歩行で歩けるよね」

『歩けるけれど……嫌な予感しかしない』


 まずヨヨが立ち上がり、エプロンドレスを着させる。もちろん、立ってもエルの膝上くらいの高さのヨヨには大きすぎる。


「次に、幼体のプロクスを、肩車する」

『待って、待って! 猫に人間みたいな肩があると思っているの?』

「ヨヨ、ものは試しだから」


 ヨヨの肩に幼体のプロクスをそっと載せた。


『いや、重い! 竜の子、重たい!』

「ヨヨ、静かにして」


 ヨヨにプロクスを乗せても、まだエプロンドレスはだぼついている。

 最後に、フランベルジュを乗せてみた。


『竜の赤子は、俺様にしがみついているとよい』

『ぎゃーう(ありがとう)』


 ここでようやく、エプロンドレスのスカートの皺はスッと伸びた。

 だが完成したのは、エプロンドレスをまとう襟から剣の柄が伸びた化け物である。


「これ、なんの生き物だ?」

「わからない」


 予定では、プロクスの手足に、骨格を支えるフランベルジュ、そして顔はヨヨという予定だった。獣人メイドを作ろうとしていたのである。


 どうしようか。エルは頭脳をフル回転させる。

 結果、化け物メイドを連れ歩くのは止めたほうがいいと結論づけた。


「えーっと、申し訳ないけれど、みんな、魔法鞄の中に入っていて」

『了解~』

『ぎゃーう(変装したかったのに)』

『致し方ない』


 皆が収まった鞄を、イングリットに託した。


「イングリット、行こう」

「ああ」


 目標は王城からの脱出。そして、錬金術師の塔でキャロルと落ち合うこと。

 誰もいないのを確認すると、再び部屋に出た。


本日は書籍版のキャラデザを紹介します。

クッキーで釣った火竜、プロクス

挿絵(By みてみん)

猪突猛進、炎剣フランベルジュ

挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)

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