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少女と猫とお人好しダークエルフの魔石工房  作者: 江本マシメサ
第三部 少女はダークエルフと共に、魔石工房を作る!
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少女らは、身を潜める

 エルはイングリットの腕を、思いっきり引いた。


「早く、こっちへ!」

「お、おい、エル。そっちには、暖炉しかないが」

「いいから、きて!」


 早くしないと、扉が破られてしまうだろう。エルは必死になって、イングリットをぐいぐい引っ張って引き寄せた。

 イングリットと共に、暖炉の中へと入り込む。ヨヨやプロクス、フランベルジュもあとに続いた。


「ここに姿を隠しても、外から一目瞭然だと思うんだけれど?」

「わたしもそう思う。だから――」


 エルは暖炉の側面に触れた。すると、魔法陣が浮かび上がる。


「あ、そうか。これは、王族にのみ開閉可能だったな」

「そう」


 地下通路へ繋がる扉が開かれる。急いで中へと入り込み、扉を閉めた。

 ここにいれば安心なのだが、しゃがみ込んで口元を押さえてしまう。そんなエルを、イングリットは抱きしめてくれた。

 その瞬間に扉が破られるような大きな音が鳴り、加えて怒号も聞こえてきた。


「探せ!! この部屋に、王女殿下を誘拐した犯人がいるはずだ!!」


 忙しない足音が聞こえる。

 エルはイングリットに縋り、息を殺す。心臓がバクバクと、うるさかった。


「ここにいるはずだ!」

「どこに逃げた!?」

「人の気配はありません」


 乱暴な手つきで探しているのだろう。ドタン、バタンと、大きな物音が響き渡る。


「暖炉は探したか!?」

「いや、まだだ!」


 騎士の声に、エルはビクリと体を震わせた。

 大丈夫だと言わんばかりに、イングリットは強く抱きしめる。

 地下へ繋がる隠し通路は、王族にしか反応を示さない。いくら暖炉を覗き込んでも、魔法陣すら見つけることができないだろう。

 それでも、エルにとっては恐怖でしかなかった。


 騎士は暖炉を覗き込み、「隠れても無駄だ!」と叫んだ。

 国民の味方で、正義のために動く騎士であるが、亡くなった王妃の部屋を荒らすような捜索であった。


 騎士達の滞在は十五分ほどだっただろうか。

 ここにはいないと判断し、去って行く。

 王妃の部屋に誰もいなくなったあとも、しばし沈黙は続いていた。


『えーっと、もう、大丈夫みたい』


 ヨヨの呟きを聞いた途端、エルは安堵の息を零す。

 だが、よかったとは言えない。

 王城では、アルネスティーネを誘拐した者がいるだろうと想定し、騎士達が探し回っている。

 街に戻っても、その状況は同じだ。


「さて、これからどうしようか」


 八方ふさがりとは、このような状況を言うのだろう。エルは盛大なため息をつく。

 このまま、ここで蹲っているわけにはいかないだろう。

 どうすればいいのか、考える。

 街に戻るのも、ここから出るのも非常に危険だ。


『もう、ここから正面突破するしかないのでは?』


  フランベルジュの力任せとしか言えない意見は、すぐに却下した。

 個人個人の戦闘能力は高いものの、どうしても数で負けてしまう。騎士が小隊でも率いてやってきたら、突破は困難となるだろう。


『王女サマが、迎えに来てくれたらいいんだけどねえ』


 ヨヨは明後日の方向を向きながら呟く。

 アルネスティーネが迎えに来ないということは、おそらく動けるような状況にないのだろう。

 もしかしたら、ひとりにするのは危険だと判断され、安全な場所に隔離されている可能性がある。


『もしかして、打つ手なし?』

「いや、待って」


 アルネスティーネは動ける状況にない。そのことに気づいたエルは、ある作戦を思いつく。すぐさま、提案してみた。


「ねえ、イングリット。わたし達は、ここから脱出しないといけない」

「そうだな」

「だったら、わたしに協力して」

「あ、ああ」


 イングリットは力を貸してくれるというので、すぐさま作戦について説明する。


「わたしはアルネスティーネの振りをするから、イングリットは侍女の振りをして」

「え!?」

「ヨヨとプロクス、フランベルジュは、メイドの役。この前みたいに、みんなで協力して、変装するの」

『ええ、僕まで!?』


 ヨヨは渋い反応を示したものの、プロクスとフランベルジュはやる気であった。


「イングリットのドレスは、この前、お祖父さんから貰ったものがあるでしょう?」

「そういえば、あったな」


 エルの傍にいるならば、ふさわしい恰好でなくてはならない。フォースターはそう主張し、イングリットにドレスを贈ったのだ。

 贈られたイングリットは大爆笑したのちに、「こんなの似合うわけがない」と包みすら開けようとしなかった。


「放置されていたイングリットのドレスは、わたしの魔法鞄に入れておいたの」

「そうだったんだな。しかし、この短い髪で侍女役が務まるものなのか」


 男性並みに短くなった襟足を、イングリットは指先で摘まむ。


「イングリットの切った髪も取っているから、それを結んで付け毛みたいにしたらいいと思う」

「エルサン……私の髪まで取っていたんだな」

「だって、イングリットの髪、流れ星みたいできれいだし」

「そういう詩的な表現が、よく思いつくな」


 エルは魔法鞄からイングリットの髪を取り出す。

 しっかり紐で縛っていたので、ばらけていない状態であった。

 プロクスに先端を持ってもらい、三つ編みにする。途中で、針金も一緒に編み込んだ。

 続いてエルはイングリットの襟足をまとめ、そこに編んだ髪を重ねて紐で結んだ。三つ編みに通した針金を引っ張り、紐に絡めておく。こうしておけば、重さで落ちることもないだろう。


「おー、すごいな、これ。自分の毛みたいだ」

「いや、イングリットの髪の毛なんだけれど」

「切り落とした髪は、もうゴミみたいなもんだからさあ」

「なんでそういうこと言うの……」


 エルはがっくりとうな垂れる。

 と、のんびりお喋りしている場合ではなかった。魔法鞄の中から、イングリットのドレスを取りだした。

 ついでに、魔石灯も取り出して周囲を明るくする。


「イングリット、これに着替えて」

「エルサン、本気で、私がそれを着るのか?」

「本気!」

「似合うとは、思えないのだけれど」

「似合う、似合わないの問題ではないの。イングリットは、これを着て侍女の振りをする。それ以上でも以下でもない」

「お、おお」


 エルの迫力に圧され、イングリットは渋々ドレスを纏う。


「いやー、こういうの、本当、らしくないっていうか」

「ぼやかないの!」


 フォースターはイングリットにふさわしいドレスを用意していたようだ。レースやリボンのない、シンプルな一着である。細身のシルエットで、長身のイングリットによく似合う。


「化粧は、イングリットに合うやつは持っていないから、口紅だけ」

「や、化粧はいいよ」

「最低限しないと、それらしく見えないから」

「う……はい」


 エルは以前、シャーロットにもらった口紅をイングリットの唇に塗った。

 それは真っ赤な色合いで、エルには大人っぽいと思っていたのだ。 

 想定通り、イングリットにはよく似合う。 


「イングリット、きれい」

「そうかい」


 イングリットは照れているのか、頬をほのかに赤く染めていた。

挿絵(By みてみん)

少女と猫とお人好しダークエルフの魔石工房、第2巻が9月4日に発売となります。

帯にありますとおり、コミカライズが決定しました!

狐面イエリ先生に、少女と猫とお人好しダークエルフの魔石工房の世界を描いていただきます。

連載が始まりましたら、またお知らせします。

書籍版ともども、どうぞよろしくお願いいたします。

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