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少女と猫とお人好しダークエルフの魔石工房  作者: 江本マシメサ
第三部 少女はダークエルフと共に、魔石工房を作る!
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少女は、双子の片割れについて考える

 教会の内部は酷いありさまであった。

 内部は薄暗く、ほこり臭い。美しかったであろうステンドグラスは割られ、破片が辺り一面に散っていた。


「アルネスティーネ、ここを通り抜けるの、怖くなかったの?」

「怖かった……。でも、あなたに会いたかったから」

「そう」


 アルネスティーネは祭壇に描かれた魔法陣を発動させる。これは王族にのみ、反応する魔法らしい。

 隠された地下への入り口が、音もなく開かれる。


「なるほどな。王族は、ここから街へ脱出できるわけか」


 イングリットは内部を覗き込み、「暗いな」と呟く。魔法で光りの珠を作り出し、暗い地下通路を照らす。


「進む順番は、どうしようか」


 イングリットは遠距離から攻撃するため、先頭を歩けない。

 かといって、アルネスティーネに任せるのは気が引ける。

 一本道だというので、迷いようはないらしい。


『だったら、俺様が行こうぞ』

「それがいいな」


 先頭を行くのはフランベルジュ。次にイングリット、プロクス、エルとアルネスティーネ、ヨヨの順番で進む。


「エル、アル、ここから先は階段だから、足下は気をつけろよ」

「わかった」

「心配いりませんわ」


 いささか急ともいえる階段を、慎重に下りていく。


 内部は湿気が漂い、加えてカビ臭い。

 もともとは水路として作られたもののようで、仕方がない話だという。

 コツコツコツという足音だけが、高く反響して響く。


「ねえ、エルネスティーネ」

「何?」

「わたくしのことが、憎くありませんでしたの?」

「それは――」


 アルネスティーネ――双子の片割れ。なんとも不思議な存在である。

 きちんと名乗り、知り合ったのはつい先ほど。それなのに、ずっと知っていたような、長い時間を共に過ごしてきたような、言葉にできない親しみがある。


 エルとアルネスティーネは、国王と王妃の子として生まれた。

 双子は不吉の象徴という謂われがあったために、片割れであるエルは切り捨てられる。

 けれど、それに対する感情はエルの中に存在しない。

 きっと、フーゴやモーリッツ、ヨヨの愛情を受けて育ったからだろう。


「別に、あなたのことは、憎くなかった。ずっと、双子の姉妹がいるって、知らなかったし」

「そう」


 それっきり、アルネスティーネは黙り込む。

 エルも、黙り込んだまま。

 ただ、繋いだ手は離さなかった。


 しばらく歩くと、地上へ繋がる階段にたどり着いた。

 行き同様、急な階段を一段一段上がっていった。


「階段、長いね」

「ええ」


 息を切らしながらも、なんとか登り切った。


 そして、アルネスティーネが魔法陣に触れると、扉が開く。


「この先は暖炉ですの。頭を打たないように、姿勢を低くして進んでくださいませ」


 まずは、アルネスティーネが出て行く。


「大丈夫ですわ。誰もおりません」


 街は王女が誘拐されたと大騒ぎだった。本当に大丈夫なのかと、エルは心配しつつ這い出た。


「アルネスティーネ、ここは?」

「王妃の部屋ですの。国王陛下とわたくし、それから掃除を担当するメイドしか出入りが許可されておりません」


 ひとまず、アルネスティーネは王女の寝室で寝入っていたことにするという。ひとまず、ここで待つように言われた。


 アルネスティーネがいなくなったあと、エルはポツリと呟く。


「イングリット、ネージュは、大丈夫かな?」


 イングリットは何も答えず、エルの頭を優しく撫でる。

 ネージュを置いて、逃げてしまった。なんて酷いことをしてしまったのかと、エルは落ち込んでしまう。

 ジョゼットは魔法騎士の中でも実力は指折りで、確実にネージュより強い。

 今頃捕まっていないか、心配になる。


「どうしよう……」

「エル、くよくよしたって、仕方がないさ」

「そうだよね」


 物事を悪い方向に考えるのはよくない。何事も前向きに考えなければ。


「ネージュはきっと大丈夫!」

「そうだ、そうだ」

「ここからも、無事脱出して、キャロルに会うんだ」

「その調子だ」


 それから一時間経った。アルネスティーネが戻ってくる気配はない。


「アルネスティーネ、怒られていないといいけれど」

「ここで眠っていたという言い訳が通用すればいいけどな」


 外出したのがバレてしまったら、大目玉だろう。


『――ん?』


 丸くなっていたヨヨが、むくりと起き上がる。


「ヨヨ、どうかしたの?」

『なんだか、よくない気が、こちらに向かっているような』

「よくない、気?」


 妖精族であるヨヨは、人の悪意に敏感である。

 何か、エルやイングリットによくない感情を持つ者達が、この部屋に接近しているのだろう。


「あ――足音が聞こえてきた」


 耳を澄ましたイングリットが、ポツリと呟く。


『ふうむ。数は、軽く三十程度か』

「さ、三十!?」


 ガチャガチャと、金属がぶつかり合うような音も聞こえるという。おそらく、板金鎧をまとった者達だろう。

 つまり、小隊規模の騎士達が、この部屋に押し寄せているようだ。


「イングリット、どうしよう!」

「どこかに、隠れたほうがいいな」


 王妃の部屋には、寝台とチェスト、それから円卓があるばかり。


「寝台の下やチェストの中は、すぐに見つかってしまうだろうな」


 カーテンを広げ、窓の外を覗き込む。


「ここ、三階くらいか」

「階段が、長いと思った」


 そして、ついに足音が扉の前で止まった。

 ドンドンドンと、扉が強く叩かれる。「出てこい!!」という怒号も聞こえた。

 どうやら、部屋を開ける鍵は持っていないらしい。


「万事休す、だな」

「……」


 外から開かれることは諦めたのか、騎士は体当たりを始めた。

 突破されるのも、時間の問題だろう。

 どうしよう、どうしよう、どうしよう――エルは焦る。

 イングリットは窓からの脱出を、検討しているようだった。

 しかし、外にも騎士はいるだろう。脱出できたとしても、捕まってしまうのは時間の問題である。

 どこか、隠れる場所はないのか。

 極限まで追い詰められた中で、エルはピンと閃いた。


「イングリット、こっちに来て!!」

 

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