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少女と猫とお人好しダークエルフの魔石工房  作者: 江本マシメサ
第三部 少女はダークエルフと共に、魔石工房を作る!
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少女は選択する

 エルは信じがたい気持ちとなる。

 アルネスティーネは確かに言った。ネージュを見て、「お母様」と。


「あの声、間違いないですわ」

「ネージュは、あなたのお母様と同じ声、なの?」

「ええ。でも、どうして?」

「もしかして、精霊化?」


 アルネスティーネは弾かれたように、エルを見る。


「精霊化とは、なんですの?」

「選ばれた人は、月に登って魔力が満ちると、精霊になるの。それを、精霊化と呼んでいる」

「精霊化……お母様が……!?」


 ネージュがエルの母だとしたら、最愛の相手だったフーゴの死を知って意識を失ってしまうのも納得できる。


 しかし、エルはまだ信じがたい気持ちでいた。


「イングリット、どうする?」


 その問いかけに答えたのはネージュであった。


『この女を引きつけているうちに、行け!!!!』


 ネージュを置いて逃げるのは心苦しい。しかし、全員捕まってしまっては、意味がない。

 エルは決意を口にする。


「イングリット、逃げよう」

「わかった」


 再び箱に乗り、イングリットが蓋を閉める。


「お母様!!」

「アルネスティーネ、大丈夫だから!」


 ネージュはエルと契約を交わした精霊だ。繋がりが、切れるわけではない。

 あとから合流できる。そう信じて、今は逃げるしかない。


 魔石バイクが動き出す。

 イングリットは急停止を繰り返し、また進むという動きを繰り返していた。

 おそらく、魔法騎士が大勢いるのだろう。


「どうしよう。どこから、王城へ行けばいいのか……!」


 見張りの魔法騎士が、王都の至る場所に配置されている。かいくぐって王城を目指すのは、至難のわざである。

 エルはぼんやりしているアルネスティーネの肩を叩き、質問を投げかける。


「ねえ、アルネスティーネ。どこか、抜け道を知らない?」

「――え?」

「王城から街へ繋がる抜け道。どこか、ないの? 魔法騎士がたくさんいて、正規のルートで向かうことは不可能なの」

「北方にある、大精霊教会が、王城と繋がっているわ。わたくしも、そこから街へやってきましたの」

「北方の、大精霊教会!」


 それは以前、王都を見下ろしたさいに発見した覚えのある教会であった。


「もしかして、潰されていた教会?」

「ええ、そうですわ。地下へ繋がる入り口は、まだ残っていますの」

「わかった。ありがとう」


 エルは箱の中から、イングリットに声をかける。


「ねえ、イングリット」

「どうした?」

「街から王城へ繋がる、隠し通路があるみたいなの。前に、プロクスの背中から見下ろした、潰された教会を覚えている?」

「ああ、あったな。そんな場所が」

「そこから、王城に行けるの」

「了解。行ってみよう」


 王城の地図は、イングリットの頭の中にあるらしい。

 あとは、無事にたどり着きますようにと祈るばかりであった。


 それから十五分後、魔石バイクが停まる。

 箱の蓋を、イングリットが優しく開いてくれた。


「エル、アル、その他大勢、大丈夫か?」

「大丈夫」

「へ、平気ですわ」

『ぎゃう(私も)』

『僕もなんとか』

『俺様も、平気だぞ』

「そっか、よかった」


 そこは、廃墟となった教会である。建物全体は半壊状態であった。

 教会を囲む塀はところどころ崩れ、敷地内は雑草が生え放題。誰も手入れをしていない場所であることが、ありありとわかる。


 ここはかつて、王都を守護する結界の拠点であった。しかしながら、今はこのように壊されているため、結界も機能していないのだろう。


「よし、じゃあ、行くぞ」


 まず、箱の中に斜めに立て掛けられていたフランベルジュをイングリットが抜き取る。次に、隙間に詰まっていたヨヨとプロクスを取り出した。

 エルは自力で下りたが、アルネスティーネは腰が抜けているようだった。


「アル、抱き上げるぞ」


 断りを入れてから、イングリットはアルネスティーネを横抱きにして降ろした。

 アルネスティーネはそのまま、膝の力が抜けたようでかくんと座り込んでしまった。


「おいおい、ぜんぜん大丈夫じゃないな」

「大丈夫、ですけれど、もう少し、このままで」


 ガクガクと、震えているようだった。イングリットはそんなアルネスティーネに、上着をかけてやる。


「ねえ、イングリット。魔石バイクは、ここに置いて行く?」

「そうだな」

「わかった」


 エルは白墨を用いて、地面に魔法陣を描く。その上に魔石バイクを置き、消失魔法をかけた。

 これで、魔石バイクは術者以外には見えなくなる。


「エルサン、そんな魔法も使えるんだな」

「まあね」


 エルは座り込むアルネスティーネに手を差し伸べる。


「アルネスティーネ、立てる?」

「え、ええ」


 エルの手に触れた指先は、かすかに震えていた。その手をぎゅっと握り、強く引き寄せる。

 そのまま手を離さずに、教会へと進んでいった。

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