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少女と猫とお人好しダークエルフの魔石工房  作者: 江本マシメサ
第三部 少女はダークエルフと共に、魔石工房を作る!
137/165

少女らは、王宮を目指し――

 魔石バイクが、走り始める。


「んんっ!!」


 アルネスティーネは目を閉じ、恐怖に耐えている様子だった。


『心配無用だ! 恐れることはない。俺様がついている!』


 突然フランベルジュが喋り始めたので、アルネスティーネはギョッとした。


「え、今の男の人の声、何ですの!?」

「喋る剣だよ」

「喋るのは、猫だけではないのですね?」

「そっちのウサギのぬいぐるみも、喋るから」

「なんですって!?」

「ちなみに、竜は喋らないけれど」

「竜!? どこに竜がいますの!?」

『ぎゃう~(ここだよ~)』

「目を開けて確認したほうがいいのか、しないほうがいいのか……!」


 ふと、エルは気づく。先ほどから、ネージュが一言も喋っていないことに。


「ネージュ、どうかしたの?」

『こんな……こんなことが……!』

「ネージュ?」


 何やら、ぶつぶつと独り言を呟いていた。いったいどうしたのか。

 話を聞こうとした瞬間、キキー!! という大きなブレーキ音と共に、箱の中が大きく揺れた。外から、「止まれ~い!!」という怒号も聞こえる。

 耳を澄ましてみると、魔法騎士隊の取り締まりが行われているようだった。


「おい、兄ちゃん。なんだ、そんなに速く走って」

「何か、よからぬものを運んでいるんじゃないか?」

「は? 何言ってんだ? 頼まれたもんを、運んでいるだけだよ」


 イングリットの男装は、相変わらず通用しているようだ。ダークエルフの女性だと、まったく気づかれていない。

 魔法騎士と話すイングリットは、平然とした口調で言葉を返していた。


 それにしても、運が悪い。魔法騎士隊が路上の取り締まりをしているなんて。エルは戦々恐々とする。


「王女殿下が誘拐されたんだ。ここを通る者を、全員調査している」

「へえ、それはそれは、ご苦労なこって」


 アルネスティーネは自分から城を抜け出したのだが、いつの間にか誘拐騒動になっているようだ。

 話を聞いたアルネスティーネは、顔色を青くさせている。


「箱の中にある荷物を、見せてもらおうか」

「なんでだよ。こちとら、王宮に頼まれたぬいぐるみを届けているんだ。配達が完了するまで、誰にも見せるなって言われているんだよ。ほら、証明書だってあるんだ」


 イングリットは長いしっぽ亭の主人から預かってきた、王宮への通行証を見せているのだろう。

 どうか、このまま通してくれ。エルは祈りを捧げる。


「本物かわかんねえな」

「隊長殿に確認してもらうしかない」


 なんだか、嫌な予感がする。イングリットに逃げてと叫ぼうとした瞬間、聞いたことのある声が聞こえた。


「おやおやおや、そこの褐色のお兄さん、私が知っている女性に似ているな。よく、顔を見せてくれないかい?」


 声の主は、ジョゼット・ニコルであった。

 運が悪い。

 イングリットもそう思ったのだろう。「悪い!!」と叫び、魔石バイクは急発進する。


「きゃあ!!」


 箱が大きく揺れた。さすがのエルも、この状態は辛い。けれど、荒事になれていないアルネスティーネはもっと辛いだろう。


「アルネスティーネ、大丈夫! だいじょう……うぷ」

『エル、大丈夫?』

「辛い」


 本日二度目の、急ブレーキが踏まれた。

 箱は一回転しそうな勢いで、大きく揺れた。


「うわーっ!!」

「きゃあーっ!!」


 おそらく、追い詰められたのだろう。

 〝神速の炎槍〟と呼ばれるジョゼットから、逃げ切れるわけがなかったのだ。


「さて、そこまでして逃げる理由を、見せてもらおうか」


 エルはイングリットに声をかける。


「イングリット、何もしないで」

「しかし――」

「イングリットが怪我でもしたら、嫌なの。お願い――!」


 コツ、コツ、コツと、ジョゼットの足音が聞こえた。

 箱の蓋が、開かれる。


「――おや、とてつもなく可愛いものが、詰まっているではないか! これは、本当に驚いた」


 ジョゼットが嫌らしい笑顔を浮かべ、エルとアルネスティーネを交互に見る。


「どちらも連れ帰ったら、昇進できるかもしれない」


 手を伸ばした瞬間、ネージュが鋭く叫んだ。


『この、無礼者!! 娘らに触れるのは、絶対に許さぬ!!』


 いつものネージュと、様子が違っていた。


「ネージュ?」


 そう呼びかけた瞬間には、姿が消えていた。

 瞬きしたあとには、剣を抜いてジョゼットに斬りかかっていた。


「うわ、なんだ、このウサギは」


 これまでのネージュの動きとは、まったく違っていた。

 猛烈に、ジョゼットを攻めている。


「エル! アル! 大丈夫か?」

「私達は、この通り」


 怪我もなく、無事だ。魔石バイクに酔ってしまったが、時間が経てば治るだろう。


「イングリット、どうする?」

「ネージュを置いてはいけない」

「わたしも、そう思う」


 それにしても、ネージュはどうしてしまったのか。まるで、別人である。


「――お母様?」

「え?」


 ネージュを見つめるアルネスティーネが、ポツリと呟いた。 

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