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少女と猫とお人好しダークエルフの魔石工房  作者: 江本マシメサ
第三部 少女はダークエルフと共に、魔石工房を作る!
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少女は王女を城まで送る?

 エルの手を握ったアルネスティーネは、少し照れくさそうに言った。


「あの、エルネスティーネ。これからも、わたくしと会ってくださる?」

「それはもちろん。けれど、どうやって会えばいいのか」


 今日みたいに、城を抜け出すのはよくない。かと言って、城の中で堂々と会うわけにはいかないだろう。

 今は、フォースターの屋敷も目を付けられている。『長いしっぽ亭』だって、これ以上迷惑はかけられない。


「でしたら、キャロルがいる国家錬金術師の塔はいかがかしら。あそこでしたら、騎士隊は入れませんし」

「どうして入れないの?」

「錬金術師と騎士は、相性が悪く、仲がよろしくないのです」

「そうなんだ」


 屋内で静かに活動する国家錬金術師と、屋外で激しく活動する魔法騎士隊――同じ魔法使いであるものの、正反対の活動をしている。

 解決方法も、国家錬金術師は頭脳を使い、魔法騎士隊は体を使う。

 考えや活動指針からして、相容れない関係であるのだ。


「じゃあ、キャロルに連絡してみる」

「大丈夫ですわ。わたくしのほうから、お願いしますので」

「アルネスティーネがお願いしたら、命令になっちゃうでしょう?」

「そんなことは――あるかもしれませんわね」


 この件については、エルのほうから許可を取ったほうがいいだろう。王女であるアルネスティーネが『お願い』したら、断れなくなるから。キャロルに選ぶ権利を与えたほうがいい。


「わかりました。では、エル。また、近いうちに会いましょう」

「わかった。それはそうと、アルネスティーネは、どうやってお城まで戻るの?」

「それは、歩いて帰りますけれど」

「さっき、あとを追われていたのに?」

「そう、でしたわね」


 アルネスティーネは遠い目となる。


「頭巾を深く被ったら、大丈夫、かと」

「それだけでは、ダメだと思う」

「王女サマと似たような背丈の子どもは、性別問わず、すべて調べそうな勢いだな」

「わたくしが、本物の王女ですのに……! どうして、こんな噂が」


 アルネスティーネは眦にじわりと涙を浮かべていた。


「なんつーか、箱入り王女サマが、よくひとりで抜け出して、エルのもとまでたどり着いたな。それだけでも、奇跡のようだ」


 その言葉を聞いたエルは、ピンと閃く。


「わかった! 箱だ!」

「ん? エルサン、何か閃いた?」

「うん。アルネスティーネを箱に入れて、魔石バイクで王城まで運ぶの」

「ああ、なるほど。そういうことか!」

「あの、どういうことですの?」


 いまいちピンときていないアルネスティーネに、エルが説明する。

 最近、魔石バイクで行う配達が流行っている。長いしっぽ亭も、ぬいぐるみの定期検診用に使っているという。

 大きな箱があるので、それにアルネスティーネを入れて王城まで運べばいいのだ。


「というわけなんだけれど、大丈夫そう?」

「まあ、乗っているだけでいいのならば、我慢しますが」

「よかった」


 帰るのならば、早いほうがいいだろう。長いしっぽ亭の店主に許可を取り、魔石バイクに配達用の箱を取り付ける。

 後部座席に固定された枠に、箱をぶら下げて運ぶ画期的な装置も、イングリットが考えたものであった。これも、荷運びを生業とする商会を中心に飛ぶように売れている。


 アルネスティーネは初めて見る魔石バイクと配達用の箱を前に、目を丸くしていた。


「こんなに大きな物を、ぶら下げて運ぶことができるなんて」

「私とアルネスティーネが入っても、大丈夫そう」

「そうですわね」


 イングリットがアルネスティーネを横抱きにし、箱の中へと入れた。すると左右に揺れ、アルネスティーネは涙目となる。


「な、なんですの!? こ、ここ、こんなに揺れるなんて!!」


 魔石バイクを走らせたら、もっと揺れるだろう。


「うーん、そうだな。エルを入れたら、均衡が取れるかも?」


 イングリットは隣にいたエルを抱き上げて、箱の中へと下ろした。すると、揺れがわずかに収まる。

 アルネスティーネはエルに抱きついた。


「ちょっ、アルネスティーネ。抱きついたら、箱が傾く」 

「これも問題だな。緩衝材が必要だ」


 イングリットは近くにいたヨヨを抱き上げて、エルとアルネスティーネの間に置いた。手前にも空きがあったので、ネージュを詰めておく。

 何か握る棒も必要だろう。そう呟き、フランベルジュを斜めにして入れた。

 最後に、ちょっとだけ隙間が空いていたので、幼体のプロクスを填め込んだ。


「お、これでいい感じだな」

「ぎゅうぎゅうだけれど」

「こちらのほうが、安心しますわ」

「だってさ」


 箱には持ち手の穴が開いているので、空気は問題ない。人工精霊を入れる箱なので、その辺の配慮もされているのだ。


「じゃあ、閉めるぞ」

「ゆっくり、閉めてくださいませ!」

「わかっているよ」


 ぱたんと、箱は閉められる。中が暗くなり、アルネスティーネは握っていたエルの手を、さらにぎゅっと握りしめた。


「アルネスティーネ、大丈夫だからね」

「え、ええ」


 長いしっぽ亭は入城許可を持っている。だからきっと、王城へ戻れるだろう。


「じゃあ、エル、アル、魔石バイクを動かすからな」

「わかった」


 エルが、アルネスティーネに「アルはあなたのことだから」と囁く。すると、彼女も声をあげた。


「わ、わかりましたわ!」

「よし、出発だ」


 魔石バイクは走り出す。王城を目指して。

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