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少女と猫とお人好しダークエルフの魔石工房  作者: 江本マシメサ
第三部 少女はダークエルフと共に、魔石工房を作る!
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少女は命運を知る

 なぜ、ヨヨはエルの中にあったアルネスティーネと出会った記憶を消したのか。

 その理由が、今、語られる。

 エルが我を失わないよう、イングリットが背後から抱きしめている。準備は万全であった。

 その様子に、アルネスティーネは面白くないような視線を向けていたが、今は気づかない振りをしておく。

 前回のように、魔力を暴走させたら危険だからだ。


 ヨヨはごほん、ごほんと咳払いし、話し始める。

 エルは背筋をピンと伸ばして、聞く姿勢をとった。


『――エル、君は、この国を守護する大精霊が選んだ存在なんだ』

「え、何、それ」

『国の命運は、エルが握っている』

「どうして? わたしが、国の命運を、握っているの?」

『大精霊が、君を愛し、選んだからだよ』


 胸が苦しくなったが、同時にイングリットがエルをぎゅっと抱きしめる。大丈夫だと言ってくれているような気がして、不安な気持ちが少しだけ和らいだ。


「なぜ、エルひとりだけが、選ばれましたの?」


 アルネスティーネはもともとエルとひとつの存在だった。彼女らは、一卵性双生児である。

 それなのに、大精霊はエルだけを愛した。

 その理由についても、ヨヨは語り始める。


『この世界に生きとし生けるものは、死んだら新しい体を得て、生まれ変わるんだ。大精霊は、過去のエルを含めて、愛している。もちろん、それだけではない。現代、未来のエルも、含まれている。大精霊には、すべてが視えているんだ』


 大精霊には、この国の終焉しゅうえんが見えていた。

 ただそれは、世界の長い長い歴史の中で、よくあることであった。


『大精霊個人としては、国が滅びるなんてどうでもいい。けれど、それを愛するエルが嘆くのであれば、救うのもまたありだと思ったんだよ』


 だから、大精霊はエルに国を救う力を託した。


『エルの特別な力が何かということや、滅びの理由は、僕も知らない。ただ、大精霊に近しい精霊や妖精には、エルを守るように、という命令が下っている』

「ヨヨも、大精霊の命令に、従っていたの?」

『いいや、僕は違う。個人的にエルを気に入っているから、傍にいるだけ』

「そうだったんだ」


 大精霊の命じた義務で傍にいるのではないとわかり、エルはホッと胸をなで下ろす。


「エルネスティーネが、わたくしと離れ離れにされたのは、大精霊の干渉でしたの?」

『いいや、それは違う。その点は、国が勝手にしたことだ。基本、大精霊は人に干渉しない』

「なるほど」


 つまりフォースターの暗躍も、彼の意思であったと。

 その辺は、大精霊の影響であってほしかったと内心思うエルであった。


『エルの記憶を封じた理由は、まあ、エルが魔力を暴走させてしまったからなんだけれど。双子のお姉さんについてや、国の命運を握っていることに関しては、もう少し大きくなってから知っても遅くないかな、と思ったんだ』


 エルは王都にやってきて、一年も経っていない。

 そこで父の死を知り、肉親と出会い、母の悲痛な最期を知った。

 短い期間で、さまざまなことが起こり過ぎていたのだ。受け止めきれないのも、無理はない。

 国の命運を握っている事実など、少女ひとりが抱えていいものではないとヨヨは判断したのだろう。


『とまあ、エルの記憶を消した理由は、こんな感じ。これでいい?』

「わかった。ヨヨ、ありがとう」


 エルが手を伸ばすと、ヨヨは少し照れくさそうにやってくる。

 全身ふわふわのその体を、ぎゅっと抱きしめた。


 エルの心を守ろうと頑張ってくれたヨヨに、深く感謝する。


「ヨヨ、私は、大丈夫だからね。イングリットや、みんながいるから」

『そっか。よかった』


 納得しないのは、アルネスティーネであった。


「なんで、エルネスティーネにばかり、辛い所業を背負わせますの? 理解が、できませんわ」

『大精霊は、人の心を持っていないからね。その辺は期待しないほうがいいかも』

「そうですけれど……! わたくしは、ずっと、ひとりだと思っていて……」


 両親から愛されず、祖父であるフォースターからも拒絶され、孤独を噛みしめながら生きていた。


「エルネスティーネがいたら、わたくしは、寂しくなかったのに」

「アルネスティーネ……」


 自分の片割れ――アルネスティーネ。

 こうして見つめていると、不思議な気持ちになる。

 鏡を覗き込んでいるかと思うほどそっくりなのに、彼女はエルではない。


「わたし、あなたのことが、知りたい」

「エルネスティーネ。わたくしを、憎らしく思いませんの?」

「憎らしくはないけれど、どう思っているかは、よくわからない。不思議だな、とだけ」

「そ、そう」


 だから、詳しく知りたいのだ。

 エルが差し伸べた手を、アルネスティーネは警戒しつつ握る。


 別れ別れだった存在ものは、時を経てひとつとなった。

 

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