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少女と猫とお人好しダークエルフの魔石工房  作者: 江本マシメサ
第三部 少女はダークエルフと共に、魔石工房を作る!
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少女は未来について話す

 ドワーフはエルの作る料理や菓子をたいそう気に入ったよう。作業効率も上がり、『長いしっぽ亭』の店主に感謝されたくらいだ。

 誰かに喜んでもらえるというのは、心が満たされる。


 しかしながら、毎日は喜びを感じるばかりではない。心配事も、いまだある。


 依然として、街には巡回の魔法騎士がいるという。

 フォースターは窮地に追い込まれているものだと思いきや、上手いことやっているらしい。ジョゼットの追及をひらりとかわし、のうのうと暮らしていると。

 よかったと思えばいいのか。少しくらい、ジョゼットに迫られて困っていたらいいのにと思うエルであった。


 レイヤード子爵も、大丈夫なのか心配していた。しかし、エルとイングリットの関係は周囲にバレていない。そのため、今のところ魔法騎士が押しかける事態にはなっていないという。

 相変わらず、イングリットが作った魔石バイクは売れているようで、追加の報酬があったという。

 小切手の金額を見たイングリットは、「十年くらいぐうたら暮らせるな」となどと呟いていた。


 しかし、目的もなく暮らす日々は物足りない。

 イングリットも同じことを思っていた。彼女は、根っからの職人なのだろう。

 けれど、今は動かないほうがいい。

 もうしばし耐え忍ぶときだ。そう、言い合っている。


 ◇◇◇


 高い塀に囲まれた庭で、エルは育てている薬草に水やりをする。

 数日前にまいた種が、今日の朝芽吹いたのだ。

 成長を見守るのは、エルのささやかな趣味となっている。


 雑草をプチプチと抜いていたら、イングリットがやってきた。


「イングリット、休憩?」

「ああ、そうだ。ドワーフのおっさん達、エルが作ったドーナツを、キラキラした目で食べていたぞ」

「それはよかった。イングリットの分もあるよ」


 庭へ出るための扉は、台所に繋がっている。エルは戻って、お昼前に作ったドーナツとベリージュースを庭に持ってきた。


 外出ができないので、庭は唯一出られる屋外である。エルとイングリットは庭へと下りる階段に座って、日なたぼっこをしつつ休憩をしていた。


 贅沢にチョコレートがけをしたドーナツは、おいしく仕上がっていた。


「仕事疲れに染み入るような、絶品ドーナツだな。ドワーフのおっさん達がキラキラした目で食べるわけだ」

「たくさんあるから、食べてね」

「エル、ありがとう」


 塀の向こう側は、『長いしっぽ亭』の路地裏である。店も数軒あるので、人通りはそこそこあった。

 道行く人達の声が聞こえる。今日の夕飯の話や、給料が上がった、野菜が安かったなど、実に平和な会話であった。


 もう、外の世界にエル達を探す魔法騎士などいないのではと、錯覚してしまう。


「イングリット、ここに、ずっといるわけにはいかないよね?」

「そうだな」

「何か、考えている?」

「うーん。難しいな」


 ひとまず、魔石バイクの著作料などで金は貯まった。王都にいる必要はないのではないか。イングリットはそのように考えているという。


「旅に出て、各地を転々とするのもアリかもしれないな。いろいろと、落ち着かないかもしれないが」

「何が、落ち着かないの?」

「寝る場所とか」

「ああ、なるほど」


 旅をしていたら、自ずと野営が多くなる。

 満天の星の下に眠ると聞けばいいかもしれないが、虫はいるし、魔物は通りかかるし、暑いし寒いし。安心して眠れるものではない。


「だったら、空間魔法を使った、部屋型のテントを作ってみるのはどう?」


 エルの魔法鞄に似た魔法構造にして、外にいるのに屋内にいるような空間を作り出す。そんな魔技巧品があれば、冒険は快適になるだろう。


「エル、天才か?」

「作れそう?」

「いや、わからん。ちょっと考えてみる」

「うん。期待しないでおく」

「ちょっ、酷いな、エルサン」

「嘘。イングリットなら、もしかしたらできるかもって、ちょっとだけ期待している」

「ちょっとだけかよ。悔しいな。絶対作ってやる」


 イングリットはやる気を見せる。休憩している時間も惜しいと言い、手にしていたドーナツを一口で食べた。


「工房で、ちょっとアイデアを練ってくるわ」

「イングリット、無理はしないでね」


 イングリットはエルの頭をぐしゃぐしゃ撫でる。にっと微笑むと、部屋へ戻っていった。


「……別に、もう王都にいる必要はないよね」


 エルは独りごちる。

 もう、探していた父はいない。

 家族には会えたが、今更本当の家族になれるわけがなかった。


「お祖父さんは、きっと独りでも大丈夫」


 だから、エルが王都にいる必要はない。

 そんなことを考えていたら、平和な路地裏に悲鳴が聞こえた。

 年若い、少女の声である。


「違うって、言っていますでしょう!?」


 声を聞いた瞬間、エルの心はドクンと大きな鼓動を打つ。

 いけないとわかりつつも、塀に台を持って行って、路地裏を覗き込んだ。


「待て~~~~!!」

「こっちにこないで!!」


 叫ぶ少女を見て、エルはヒュッと息を飲み込む。


 追っ手を逃れて走る少女は、エルとまったく同じ銀色の髪に、容貌を持っていた。

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