表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少女と猫とお人好しダークエルフの魔石工房  作者: 江本マシメサ
第三部 少女はダークエルフと共に、魔石工房を作る!
131/165

少女達は、変装する

 プロクスも、変装に加わりたいと主張する。迷った挙げ句、足下を任せることとなった。

 中型に変化したプロクスがエルを肩車し、さらにエルがネージュを肩車する。そして、上から男性用の外套を着込むのだ。

 さすれば、頭部はウサギ、胴体は人間、足下は竜という、謎の生命体が完成する。

 イングリットよりも背が大きくなった。


「ねえ、イングリット、どう?」

「そうだな。背筋が曲がって見えるから、フランベルジュを背中に差しておこう」


 イングリットは外套にフランベルジュを差し込んだ。すると、背筋がピンと伸びたように見える。


「イングリット、今度は?」

「うん。普通にいい感じだな」

「でしょう?」


 街には多くの獣人が歩いている。誰も、引き留める者などいないだろう。


「もしも喋りかけられたときは、フランベルジュが返事をすればいい。ネージュはフランベルジュの喋りに合わせて、口をパクパク動かしてくれ」

『わかりましたわ』

「じゃあ、練習してみよう」


 イングリットが、エルとネージュ、プロクスとフランベルジュ扮する謎の生命体に声をかける。


「もし、道を聞いてもよろしいか?」


 ネージュは頷いたが、フランベルジュ『道はどこでも繋がっている! ゆけ、若者よ!』と言葉を返した。動作と喋りが、あべこべだったのである。


「イングリット、どうだった?」

「いや、最高に面白いことになっていた」

「えっ、どんな?」

「ネージュはこくりと頷いたのだが、フランベルジュは見当違いの言葉を発した」

「あー……」


 フランベルジュの喋りに合わせて口を動かすのも、なかなか難しいことであった。

 結局、ネージュの口元に布を巻いて、見えないようにした。


「次は、動きだな。歩いてみてくれ」

「わかった。プロクス、行くよ」

『ぎゃーう(はーい)』


 通常、歩行をするさいは、左右の手足を交互に動かす。だが、エルが動かす手と、プロクスの動かす足が、まったく同じタイミングで前に出ていたのだ。

 ここでも、イングリットは噴き出す。


「待て待て。エル、プロクス、手足の動きが一緒になっているぞ」

「難しい」

『ぎゃう(同じく)』


 一時間ほど、喋りと動作について練習した。その結果、そこそこ息が合うようになった。


『我の名前は、ネフエル・プロクスだ。王都には、ご主人の付き添いでやってきた』


 喋りに合わせて、ネージュは首を動かす。エルは片手を挙げたり、胸に手を添えたりして、喋りに合わせて身振り手ぶりをする。プロクスは足を揃えたり、広げたり。違和感のないよう動かしていた。


 ちなみに、ネフエル・プロクスというのは、変装した全員の名前で作った偽名である。


「イングリット、どうだった?」

「いい感じだ」

「よかった。じゃあ、ヨヨを迎えに行ける?」

「ああ」


 その前に、イングリットの男装はどうなのか。エルは服の隙間から、確認する。


「声は、女性にしては低いし、がに股だし、仕草は男っぽいし……問題ないね」

「なんか、問題が大ありな気がするんだけれど」

「気のせいだよ。早く、ヨヨを迎えに行こう」

「そうだな」


 イングリットと変装したエル達は、急ぎ足で王都の長いしっぽ亭へと向かった。


 一歩街に踏み入れた途端、いつもと雰囲気が異なることに気づく。

 明らかに、巡回している騎士の数が多い。

 すぐ近くで、年若い母子らしき二人組が騎士に引き留められていた。エルとイングリットの特徴に近い者達は、もれなく聴取されてしまうのだろう。

 男にしか見えないイングリットと、獣人の姿と化しているエル達を気にする騎士はいなかった。


 貴族街のほうへ行くと、いささか騎士の数は減る。

 ホッとしたのもつかの間のこと、背後より声をかけられた。


「そこの二人組、止まれ!!」


 エルはびくっと体を震わせたが、イングリットは無反応だった。気だるげな様子で、振り返る。


「なんすか?」

「人を捜している。ダークエルフの女と、銀髪の少女を見かけなかったか?」

「あー、見かけたような、見かけないような」

「どこで見た!?」

「うーん」

「早く言え!」


 イングリットの言い回しは、実に上手い。なかなか答えようとしないので、騎士は苛立って「もういい!」と言って去って行った。

 肩を竦めるイングリットを、エルも真似た。


 ようやく、長いしっぽ亭にたどり着いた。入り口には、営業中の札はかかっていない。しかし、イングリットは気にも留めずに扉を開いた。

 中には、いかつい顔の店主がいた。


「貴殿らは――?」

「おじさん、私!」


 エルがひょっこり顔を出すと、いかつい表情が少しだけ和らいだ。


「ということは、そっちの男はダークエルフか?」

「そうだ」


 耳飾りを外してみせると、店主はハッと目を見開く。


「魔道具か?」

「ああ。新作だ」


 ぬいぐるみが飾られた棚から、ヨヨを発見した。へそを上にして眠っていたので、ヨヨの名を叫んだ。


「ヨヨ、きたよ!!」

『うわっ!!』


 元気のよさに驚き、ヨヨは棚から転げ落ちそうになる。


『エル! ……エル?』

「そうだよ、私だよ」

『なんか、姿がおかしいけれど、洗熊妖精の村で魔改造されたの?』

「違う。これは変装」


 イングリットがネージュをスポンと取り外す。エルはプロクスから下りて見せた。


『ああ、そういうことね』


 エルは棚にいるヨヨを抱き上げ、ぎゅっと胸に引き寄せた。


「ヨヨ、お待たせ」

『うん、待っていたよ』


 ヨヨとの再会に、エルは心から安堵した。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ