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少女と猫とお人好しダークエルフの魔石工房  作者: 江本マシメサ
第三部 少女はダークエルフと共に、魔石工房を作る!
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少女は、変装する

 エルはイングリットの胸の中で、小さな子どもみたいに泣いた。

 彼女が涙を流す理由は、イングリットが髪を切ったことだけではない。

 エルとイングリットに降りかかるありとあらゆる不幸を嘆いているのだ。


「どうして……どうして」

「わー、エル。ごめん! 勝手に髪を切って、悪かった!」

「悪いのは、イングリットではない」


 何もしていないエルやイングリットを悪と判断し、追い詰める奴らこそ真なる悪なのだろう。


 ◇◇◇


 涙も涸れ果てたエルは、イングリットの髪を整える。


「いきなり、ナイフで切らなくてもいいのに」

「そうだな。エルの言う通りだ」


 結果、イングリットの髪は男性のように短くなった。

 これで、体の線がわからない服を着たら、イングリットは女性に見えないだろう。

 しかし、彼女にはもう一つ、わかりやすい特徴があった。


「イングリット、エルフの耳はどうするの?」


 ダークエルフという特徴は、隠しようがない。だが、イングリットは「ふふふ」と自慢げにほくそ笑みながらある品を取り出す。

 それは、ドロップ型の耳飾りであった。


「わ、きれい。でも、これは何?」

「新作の魔技巧品だ。これを耳に装着していると、他の人からは人間と同じ耳に見えるんだ」

「え、すごい!」


 すぐさま、イングリットは耳に装着する。すると、一瞬にしてエルフの長い耳から、人間の耳に転じたように見えた。


「それ、幻術を常時展開しているものなの?」

「そうだ」


 動力源は、エルが作った魔石である。


「一つにつき、効果は一ヶ月ってところかな。なんとなく、こういう品が必要になるんじゃないかって考えて、作っていたんだ」

「そうだったんだ。でも、幻術で惑わす方法があるのならば、髪を切る必要もなかったのでは?」

「いや、耳は誤魔化せても、髪は魔力の通り道だから、制御が難しいんだよ」

「そっか」

「大丈夫だ、エル。今度から、エルのために髪を伸ばすから」

「……うん」


 イングリットの準備したものは、エルフの耳を隠す耳飾りだけではなかった。

 こんなこともあろうかと、男物の服を用意していたらしい。

 襟の詰まった上着にズボン、黒いブーツに王都で流行っているマントを合わせるようだ。

 貴族御用達の店で、購入したらしい。


「いつの間に、買いに行ったの?」

「グレイヤード子爵のところに行くときに、ちょっとな」


 テントを用意し、その中で着替える。

 まずは、長方形にカットした布で胸を潰す。


「イングリット、それ苦しくないの?」

「んー、多少の圧迫感はあるが、苦しいと言うほどではないな」


 イングリットが苦労して男装している様子を見ながら、やはりエルが男装したほうがよかったのではと思う。

 体が成熟した女性が、男になりきることなど難しいだろう。そう思っていたが――イングリットの男装は男にしか見えなかった。


 もともと、男性並みに上背がある上に、肩は張っていて女性にしては筋肉質だった。

 そんなイングリットが男装したら、二十代前半くらいの年若い青年に見える。


「え……イングリット、すごく、カッコイイ」

「そうか?」

「びっくりした」


 イングリットの完璧ともいえる男装が完成したところで、今度はエルの変装を考えないといけない。


「イングリット、思ったのだけれど、わたしは、顔を出さないほうがいいと思って」

「そうだな。しかし、どうやって顔を隠すんだ?」


 エルは傍にいたネージュを抱き上げ、肩車する。そして、上から全身を覆うマントを被った。


 そうすれば、ウサギの獣人に見えなくもない。


「これで」

「ぶはっ!!」


 エルは真剣だったが、イングリットは我慢できずに噴き出してしまった。

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