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少女と猫とお人好しダークエルフの魔石工房  作者: 江本マシメサ
第三部 少女はダークエルフと共に、魔石工房を作る!
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少女一行は、衝撃を受ける

 アイスクリームで体を冷やし、しっかり補給を終えてから先へと進む。


『あと少しだ』

『もうひと頑張りっす!』


 炎のスライム戦を乗り越えてから、ギイとモンの警戒心が解かれたように思える。

 頻繁に、声をかけてくれるようになった。


 それから二時間後。休憩を挟みつつたどり着いた聖樹の森は――。


「え……嘘、でしょう?」


 何者かに荒らされ、一本も残っていなかった。


『な、なんだ、これは!?』

『いったい、何があったんすか!?』


 大きな穴が、当たりにボコボコと空いていた。聖樹を、根こそぎ掘り返したのだろう。

 イングリットはしゃがみこみ、聖樹を掘り返した土に触れた。


「掘り返してから、ずいぶんと経っているな。おそらく、半年以上前だろう」

「そんな……!」


 ここには、千本以上の聖樹があったらしい。洗熊妖精は十年に一度、聖樹を切り倒して、村へ持ち帰っていた。


 聖樹はまるまる家の資材として使うのではない。ちょっとした木の枝でも、充分効果を発揮する。

 聖樹は育ちにくく、成長も遅い。発芽から百年経っても、子どもの背より大きく育っていない個体のほうが多いくらいだ。


 洗熊妖精は、長年聖樹の世話を行ってきたらしい。植樹も行い、なんとか個体数を増やそうとする努力も行ってきた。

 それなのに、聖樹が生えるこの地は、無残にも荒らされているのだ。


 ギイは開いた穴をくんくん嗅いで叫んだ。


『人間だ!! 人間の臭いがする!!』

「えっ!?」


 モンも同じように臭いを嗅いで、こくりと頷いた。


「人間が、ここにあった聖樹を切り倒したというのか?」

「酷い……!」

『あっ!!』


 モンが突然叫ぶ。どうしたのかと聞いたら、モンは震える声で答えた。


『たしか、聖樹を核として、悪意ある者を寄せ付けない結界がかけられているって、祖母ちゃんが言っていたような』

「もしかして、洗熊妖精の村の近くにある魔石を採るために、聖樹を掘り起こしたの?」

『わ、わかりません』


 聖樹自体も、大変貴重な品だ。


「聖樹を必要とする者と、魔石を必要とする者。ふたつの勢力の利害が一致した結果かもしれないな」

「うん……」


 エルは聖樹が掘り起こされた穴の前にしゃがみ、残滓魔力を探る。手帳を取り出し、それを魔方式にした。さすれば、王都に戻ったときに探すことができる。


 その魔方式は、エルが知る魔法使いの誰でもない。

 ほんのちょっとだけ、ジョゼット・ニコルが犯人なのではと思ったが、彼女の魔力はどこにも残っていなかった。


「犯人は、かならず見つける」

『嬢ちゃんが、か?』

「うん」


 聖樹が根っこを生やしたまま保存されているのであれば、植樹させてやる。エルは怒りを抑えつつ、決意を語った。


『俺も行く』

『おいらも!』


 ギイとモンも、犯人捜しに協力してくれるという。


「いいの?」

『荒らされてばかりで、腹が立っているんだ!』

『ギャフンと、言わせてやるっす!』

「ふたりとも、ありがとう」


 まずは、洗熊妖精の村長に報告する必要があるのだろう。

 村に戻ることとなった。


 ◇◇◇


「――というわけで、聖樹は根こそぎ盗まれていたの」

『そう、だったのか』


 聖樹の守りについて、村長の代には正確に伝わっていなかったらしい。そのため、聖樹がなくなり、結界が解けたことに関して気づかなかった。


『腹立たしいが、結界について把握していなかった我らの落ち度でもある』


 何か、結界の代わりになる媒体が必要だと、村長は呟く。


『しかし、聖樹同等、それ以上の媒介となると、世界樹くらいしか……』


 世界樹――それは月から降り注ぐ魔力を集め、世界中に張り巡らされた根から魔力を供給する、この世の核となるものだ。


 世界樹と聞いて、エルはピンとくる。

 魔法鞄の中に入れっぱなしだった杖を取り出した。


「これ、世界樹を使って作った杖なの。結界に使えない?」

『なっ、世界樹を使って作った杖だと!?』


 大迷宮で拾った、虹色水晶杖である。持ち主不明のまま、ずっとエルが持ち歩いていたのだ。

 基本的に、大迷宮で拾ったアイテムは拾得者の物となる。どう使おうが、自由なのだ。


 村長に虹色水晶杖を手渡す。手に取った瞬間、『間違いない。これは世界樹を使った杖だ』と呟く。


『本当に、いいのか?』


 エルはイングリットを見る。イングリットも、コクリと頷いた。


「いいよ。使って」

『感謝する』


 虹色水晶杖はすぐに新しい結界を造る媒体へと使われるようだ。洗熊妖精の術者の手に渡る。


『なんと礼を言っていいのやら』

「聖樹を奪ったのは、人間だし」


 村長は首を振る。エルは確かに人間だが、聖樹を奪った人間ではない。


『それくらいは、わきまえておる。まあこれも、恩としておこう』

「恩だなんて」


 聖樹の調査に、ギイとモンを連れていくことを報告したら、村長は他にも必要かと聞いてくる。


「とりあえず、大丈夫。大勢の洗熊妖精を引き連れていたら、王都で目立つし」

『それもそうだな』


 ひとまず、王都に戻って聖樹について調査しなくては。

 一行はプロクスの背に乗り、王都へ戻ることとなった。

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