表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少女と猫とお人好しダークエルフの魔石工房  作者: 江本マシメサ
第三部 少女はダークエルフと共に、魔石工房を作る!
127/165

少女はアイスクリームを作る!!

 ひとまず、勝った。

 が、一行は満身創痍である。ひとまず、この場は熱が残っていて暑い。別の場所に移動し、休む。


 水吐フグが吐き出す水を、皆で回し飲んだ。あまりにも喉がカラカラだったので、見た目や声は気にならなかった。


 腰を下ろし、安堵の息を吐き出す。


『まったく、酷い目に遭った』


 洗熊妖精ギイのぼやきに、返す言葉は見つからない。

 モンは暑いのか、舌を出したままゼーハーと呼吸していた。


「そうだ。ふたりとも、食べ物は食べられる?」


 エルの質問に、ギイとモンはコクリと頷く。

 妖精の中には空気中に溶け込んだ魔力を摂取して生きるものと、食べ物の中に含んだ魔力を食べて自身に取り込むものがいる。

 ヨヨは前者だが、洗熊妖精は後者のようだ。


「だったら、アイスクリームを食べよう」

『あいすくりーむ?』

『なんすか、それ?』


 アイスクリーム――それは、乳製品に、卵、砂糖を加え、凍らせた甘い食べ物である。


「冷たくって、甘くって、おいしいよ」


 ギイとモンは興味があるのか、瞳がキラリと輝いた。


『ぎゃうぎゃーう!(アイスクリーム、大好き!)』


 両手を挙げて喜ぶプロクスの反応を見て、余計に気になっているようだった。


「だったら、体を冷やすために、今からアイスクリームを作るね」


 こんなこともあろうかと、エルはアイスクリーム作りに必要な品を魔法鞄に忍ばせていたのだ。


 まず、取り出したのはアイスクリームを作る魔道具。イングリット特製のひと品だ。


『それで、あいすくりーむを作るのか?』

『不思議な形っすねえ』


 それは一見して、蓋のついたバケツのように見えた。

 蓋部分には魔石を入れる窪みがある。これに魔石を入れ、蓋に刻まれた呪文をゆびさきでこすると、中に入れた材料が撹拌されるようになっているのだ。


 もう一つ、エルが取り出したのは、小型保冷庫。中に入れた食料を、冷やした状態で長時間保管できる魔技巧品だ。これも、イングリットの作品である。


 アイスクリームは、フォースターの家で初めて食べた。

 肉料理と魚料理の間に提供されたり、デザートとして出てきたり。

 エルは一口食べたときから、アイスクリームの虜になっていた。


 作り方を習いに厨房へ行くと、アイスクリームは大変な手間がかかるものだった。

 アイスクリームを作る道具は二層式の器になっていて、外側は氷と塩を入れて、内側はアイスクリームのもとを注ぎ入れる。

 蓋を閉めたあとは、ハンドルを回してアイスクリームを撹拌させなければならない。

 料理人は顔を真っ赤にしながら、アイスクリームを作っていた。


 以降、アイスクリームを食べるとき、エルは顔を真っ赤にしながら作る料理人を思い出すようになった。

 こんなにもおいしくてすばらしいアイスクリームは、料理人の汗と涙の結晶だ。

 しかし、一回アイスクリームを作るだけで、寿命を削っているのではと思ってしまう。

 もっと楽に作れないものか。

 そう思ったエルは、この自動アイスクリームメーカーをイングリットに作るように提案したのだ。


 完成したアイスクリームメーカーを料理人にあげたら、涙を流して喜んでいた。

 きっと同じように、アイスクリーム作りで苦労している人がいるはず。エルとイングリットは話し合い、アイスクリームメーカーを製品化するためにグレイヤード子爵に売り込みに行った。

 即座に気に入ってくれたので、すぐさま製品化される。来月売り出す予定だが、すでに三百台以上予約が入っているらしい。


 エルが持ち歩いているアイスクリームメーカーは、イングリットが作った試作品一号である。


 エルは保冷庫から生クリームと卵、砂糖とバニラビーンズを取り出す。

 通常のアイスクリームはミルクから作られているが、公爵家では生クリームを使ったこだわりのレシピがあるのだ。


 まず、ボウルに卵一個に卵黄を加え、砂糖を少しずつ入れながらなめらかになるまで混ぜる。砂糖を混ぜ終わったら、バニラビーンズを加えた。

 次に、アイスクリームメーカーに生クリームを入れて、自動で泡立てさせるのだ。

 それに、先ほどの卵と砂糖を混ぜたものを加え、再び自動で混ぜる。

 最後に、冷凍撹拌モードの呪文を指先で擦ると、アイスクリームのもとが凍っていくのだ。


 プロクスはすでに、アイスクリームを入れる器を持ったまま待機していた。その後ろに、ギイとモンが続いている様子が微笑ましい。

 イングリットとネージュは、にこにこしながら見守っている。

 フランベルジュは、反省中であった。


 撹拌が止まったので、魔石を取って蓋を開く。甘い匂いが、ふんわりと漂った。


「うん、上出来!」


 匙でアイスクリームを掬い、それぞれの器に盛り付けてあげる。


「溶けないうちに、食べよう」


 イングリットにも配り、皆でいっせいにアイスクリームを食べた。


『っぎゃうううううう!(おいしいいいいい!)』


 プロクスは足をばたつかせ、上機嫌でアイスクリームを食べている。

 ギイとモンは想定外の味だったのだろう。目をまんまるにして、お互い見つめ合っていた。

 イングリットは微笑みながら、「エルのアイスクリームは天才的にうまいな」と褒めてくれた。


 エルも、アイスクリームを掬って食べる。

 キンと冷たいアイスクリームは、特別なおいしさがある。

 エルの口元にも、微笑みが浮かんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ