少女はアイスクリームを作る!!
ひとまず、勝った。
が、一行は満身創痍である。ひとまず、この場は熱が残っていて暑い。別の場所に移動し、休む。
水吐フグが吐き出す水を、皆で回し飲んだ。あまりにも喉がカラカラだったので、見た目や声は気にならなかった。
腰を下ろし、安堵の息を吐き出す。
『まったく、酷い目に遭った』
洗熊妖精ギイのぼやきに、返す言葉は見つからない。
モンは暑いのか、舌を出したままゼーハーと呼吸していた。
「そうだ。ふたりとも、食べ物は食べられる?」
エルの質問に、ギイとモンはコクリと頷く。
妖精の中には空気中に溶け込んだ魔力を摂取して生きるものと、食べ物の中に含んだ魔力を食べて自身に取り込むものがいる。
ヨヨは前者だが、洗熊妖精は後者のようだ。
「だったら、アイスクリームを食べよう」
『あいすくりーむ?』
『なんすか、それ?』
アイスクリーム――それは、乳製品に、卵、砂糖を加え、凍らせた甘い食べ物である。
「冷たくって、甘くって、おいしいよ」
ギイとモンは興味があるのか、瞳がキラリと輝いた。
『ぎゃうぎゃーう!(アイスクリーム、大好き!)』
両手を挙げて喜ぶプロクスの反応を見て、余計に気になっているようだった。
「だったら、体を冷やすために、今からアイスクリームを作るね」
こんなこともあろうかと、エルはアイスクリーム作りに必要な品を魔法鞄に忍ばせていたのだ。
まず、取り出したのはアイスクリームを作る魔道具。イングリット特製のひと品だ。
『それで、あいすくりーむを作るのか?』
『不思議な形っすねえ』
それは一見して、蓋のついたバケツのように見えた。
蓋部分には魔石を入れる窪みがある。これに魔石を入れ、蓋に刻まれた呪文をゆびさきでこすると、中に入れた材料が撹拌されるようになっているのだ。
もう一つ、エルが取り出したのは、小型保冷庫。中に入れた食料を、冷やした状態で長時間保管できる魔技巧品だ。これも、イングリットの作品である。
アイスクリームは、フォースターの家で初めて食べた。
肉料理と魚料理の間に提供されたり、デザートとして出てきたり。
エルは一口食べたときから、アイスクリームの虜になっていた。
作り方を習いに厨房へ行くと、アイスクリームは大変な手間がかかるものだった。
アイスクリームを作る道具は二層式の器になっていて、外側は氷と塩を入れて、内側はアイスクリームのもとを注ぎ入れる。
蓋を閉めたあとは、ハンドルを回してアイスクリームを撹拌させなければならない。
料理人は顔を真っ赤にしながら、アイスクリームを作っていた。
以降、アイスクリームを食べるとき、エルは顔を真っ赤にしながら作る料理人を思い出すようになった。
こんなにもおいしくてすばらしいアイスクリームは、料理人の汗と涙の結晶だ。
しかし、一回アイスクリームを作るだけで、寿命を削っているのではと思ってしまう。
もっと楽に作れないものか。
そう思ったエルは、この自動アイスクリームメーカーをイングリットに作るように提案したのだ。
完成したアイスクリームメーカーを料理人にあげたら、涙を流して喜んでいた。
きっと同じように、アイスクリーム作りで苦労している人がいるはず。エルとイングリットは話し合い、アイスクリームメーカーを製品化するためにグレイヤード子爵に売り込みに行った。
即座に気に入ってくれたので、すぐさま製品化される。来月売り出す予定だが、すでに三百台以上予約が入っているらしい。
エルが持ち歩いているアイスクリームメーカーは、イングリットが作った試作品一号である。
エルは保冷庫から生クリームと卵、砂糖とバニラビーンズを取り出す。
通常のアイスクリームはミルクから作られているが、公爵家では生クリームを使ったこだわりのレシピがあるのだ。
まず、ボウルに卵一個に卵黄を加え、砂糖を少しずつ入れながらなめらかになるまで混ぜる。砂糖を混ぜ終わったら、バニラビーンズを加えた。
次に、アイスクリームメーカーに生クリームを入れて、自動で泡立てさせるのだ。
それに、先ほどの卵と砂糖を混ぜたものを加え、再び自動で混ぜる。
最後に、冷凍撹拌モードの呪文を指先で擦ると、アイスクリームのもとが凍っていくのだ。
プロクスはすでに、アイスクリームを入れる器を持ったまま待機していた。その後ろに、ギイとモンが続いている様子が微笑ましい。
イングリットとネージュは、にこにこしながら見守っている。
フランベルジュは、反省中であった。
撹拌が止まったので、魔石を取って蓋を開く。甘い匂いが、ふんわりと漂った。
「うん、上出来!」
匙でアイスクリームを掬い、それぞれの器に盛り付けてあげる。
「溶けないうちに、食べよう」
イングリットにも配り、皆でいっせいにアイスクリームを食べた。
『っぎゃうううううう!(おいしいいいいい!)』
プロクスは足をばたつかせ、上機嫌でアイスクリームを食べている。
ギイとモンは想定外の味だったのだろう。目をまんまるにして、お互い見つめ合っていた。
イングリットは微笑みながら、「エルのアイスクリームは天才的にうまいな」と褒めてくれた。
エルも、アイスクリームを掬って食べる。
キンと冷たいアイスクリームは、特別なおいしさがある。
エルの口元にも、微笑みが浮かんだ。