少女たちは、炎のスライムと戦う!
炎のスライムは、フランベルジュを呑み込んで姿が見えるようになった。
ただし、炎を巻き上げた危険なスライムへと進化してしまった。
大きさは一米突くらい。フランベルジュの報告よりも、小型化している。
周囲の草花にも、炎が燃え移っていた。早めに決着をつけないと、森が大変なことになる。
『大丈夫ですわ。動きは遅いままです。冷静になって戦えば、勝てるはずです!』
ネージュが勇ましく叫んだ瞬間、炎のスライムは素早く動き始める。
『な、なんでですの~~~!?』
『ぎゃうぎゃうぎゃううう?(フランベルジュの機動力を得てしまったのかも?)』
「おい、プロクス!! のんびり解析している場合じゃないぞ!!」
イングリットはプロクスを抱き上げ、突っ込んでくる炎のスライムを回避した。
ネージュが剣を振り上げ、炎のスライムに斬りかかった。
しかし――剣に手応えはなく、炎が燃え移りそうだったので素早く引いた。
『ダメですわ! 泥を斬りつけているようで、まったくダメージを与えている気がしません!』
アダーガ部隊が槍を突き出すが、結果はネージュと同じ。
反撃で炎を吹きかけられたが、盾で防ぐ。
どうすればいいのか。
物理攻撃は、絶望的なまでに効果がない。
試しに水の魔石を投げてみたが、回避されてしまった。キャロルのようにアイテム・スロウの能力があれば氷の魔石を投げて攻撃するのだが……。
ここで、エルはピンとくる。
エルは水吐フグを取り出し、水の魔石を突っ込んだ。
そして、左右の手で思いっきり潰す。
『オロ、オロロロロロロロロ!!!!』
水吐フグの口から、弧を描くようにして水が噴射される。
水の魔石を呑ませることにより、勢いと距離が増すのだ。
炎のスライムは回避したが、水吐フグの吐き出す水はそのままあとを追いかける。ついでに、燃え移った火を消火しておく。
ついに、炎のスライムに水をかけることに成功した。が、炎の勢いは弱まらない。
「イングリット、氷の矢を! 炎のスライムに当てなくていいから、地面が濡れたところに射ってくれる?」
「お、おう。了解した」
イングリットは炎のスライムから少し逸れた場所に、エルの作った氷の魔石がついた矢を放つ。地面に突き刺さった瞬間、濡れた場所に鋭い氷柱がいくつも突き出てきた。
炎のスライムは串刺しになる。
『ぎゃううう?(やった?)』
『いや、まだだ!!』
ギイが叫ぶ。息絶えたかと思っていたが、さらに体を燃やして氷柱を溶かしてしまった。
地面に降り立った炎のスライムは、うごうごと妙な動きをする。
「あれは、変化!?」
「何!?」
炎のスライムは、フランベルジュの姿へと転じた。
「嘘だろう……?」
「信じられない」
完全に、フランベルジュを取り込んでしまったのだろうか。不安が募る。
いつもフランベルジュがしているように、ヒュン、ヒュンと刃を旋回させながらゆっくり近づいていた。
だんだんと早くなり、急接近する。最初の狙いは――エルだった。
『ぎゃーう!(させるか!)』
成獣の姿となったプロクスが、炎のスライムに飛びかかった。
刃を掴み、動きを止める。が、刃がぶん! と大きく動くと、プロクスの大きな体は吹き飛ばされてしまう。
アダーガ部隊が槍を突き出したが、カン! という硬い金属音が聞こえるばかりであった。
イングリットの放った矢は、剣で一刀両断される。
水吐フグの口から吐き出される水は、炎のスライムの熱によって蒸発。届くことはなかった。
剣を振り上げた状態で、炎のスライムはエルに迫る。
イングリットが、エルに駆け寄ってぎゅっと抱きしめた。
「イングリット、ダメ!!」
イングリットはエルの言葉に何も返さず、優しく頭を撫でるばかりであった。
胸が、ぎゅっと締めつけられる。
このままでは、イングリットが傷ついてしまう。
どうすればいいのか。エルは叫ぶことしかできなかった。
「フランベルジュ、起きて!!」
エルが叫んだ瞬間、炎のスライムの動きが止まった。
そして、剣の形をしたその身が、内側から突き破られる。
フランベルジュが、炎のスライムの体を破って、外に出てきたのだ。
『すまぬ。待たせたな』
「フランベルジュ……!」
フランベルジュは地面に伏す炎のスライムを自らの刃で突き刺し、炎で焼いた。
『地獄の業火で焼かれろ!!』
一粒の灰さえも残らないくらいの、強い炎で焼いたようだ。
炎のスライムは、絶命する。
「わたし達、勝った、の?」
「み、みたいだな」
エルは膝の力が抜けて、その場にぺたんと座り込んでしまう。
そんなエルを、イングリットが支えた。