少女はユニークモンスターに遭遇する
それから、魔物との戦闘を数回繰り返す。森の奥地に進むにつれて、その辺では見かけないような魔物と戦うこととなった。
魔物の発見を叫ぶ仕事が板に付いてきたフランベルジュが、本日何回目かもわからない報告をしてくれた。
『おい、魔物が一体やってきたぞ。十米突先で、動きは遅い』
『どこにいるんだ! 見えねえぞ!』
ギイの抗議に、フランベルジュが答えた。
『透明なスライムだから、見えにくいかもしれん』
『なんだと!?』
通常、スライムには色がついていて、濁った沼や川に潜んで近づいた冒険者を水中に引きずって呑み込んでしまう。
スライム自体に戦闘能力はほとんどなく、体の中にある球体の核を攻撃したら息絶える。
しかし、今目の前に迫るスライムは、無色透明。核までも、目視できないという。
「ねえ、ネージュ、スライム、見える?」
『いいえ、見えませんわ!』
「プロクスは?」
『ぎゃううう(みえないよ)』
フランベルジュと同じ精霊であるネージュや、幻獣のプロクスには見えないようだ。なんとなく、邪悪な気配が迫っているというのは、精霊と妖精、幻獣の共通認識のようである。
「なんで、フランベルジュは見えるの?」
『俺様は一度、魔物に取り込まれているからな。そのせいかもしれない』
その言葉を聞いたイングリットが、ハッとなる。
「フランベルジュには、魔眼の適性があるのかもしれない」
「ああ、なるほど」
魔眼――眼球に魔力を溜め、目には見えないものを捉える特殊能力である。
魔物の多くは、魔眼を有しているらしい。
視力の弱い魔物などは、魔眼で魔力量を検知し、人や獣を襲うのだという。
かつて、炎の勇者だったフランベルジュは、人食い鬼にその身を喰われた。そのため、人食い鬼の持つ属性をその身に宿してしまったのかもしれない。
透明スライムは、ゆっくり、ゆっくりと接近しているようだ。
目には見えない存在であるとわかっているのか。余裕が感じられるとフランベルジュは言う。
「ねえ、イングリット。どうやって戦う?」
「フランベルジュに頼むしかないな」
「だよね」
エルはフランベルジュに、透明スライムを倒すように頼み込んだ。
『俺様に任せろ!』
「ひとりでも大丈夫?」
『心配ご無用!』
本当に大丈夫なのか。エルは心配になった。
これまで、フランベルジュの戦い方は、いささか無鉄砲だった。とりあえず敵の懐に飛び込み、刃を旋回させるというシンプルなものである。
内心「だから人食い鬼に食べられたんだろうな……」と思っていたエルである。
「フランベルジュ、気を付けてね! スライムは、取り込んだものの能力を使う、危険な魔物だから!」
人を呑み込めば、知能が上がる。賢いスライムが、多くの人々を呑み込んだという話は少なくない。
「フランベルジュ、スライムにはなるべく近寄らないようにして、魔法を打ったほうがいいかも」
『承知した』
フランベルジュは魔物がいるらしい方向へ飛んで行く。そして、遠隔から使える魔法を展開させた。
『炎帝旋風剣!!』
フランベルジュが剣を回転させ、巻き上がる炎の竜巻を作り出す。
向かった先に、スライムがいるのか。
だが、炎の竜巻は一瞬にして消えた。
「な、なんだ、ありゃ」
「もしかして、炎の竜巻が、スライムに呑み込まれた?」
その後も、フランベルジュは魔法を打ち込むが、スライムは呑み込んでしまうようだ。
『ぐぬぬぬぬぬ!!』
あまりにも攻撃に効果がないので、フランベルジュは直接斬り込みにいってしまう。
「あ、ダメ、フランベルジュ!!」
案の定、フランベルジュ自身が呑み込まれてしまった。
「うわ……」
「最悪だな」
ここで、透明スライムは姿を現す。炎を宿した、固有スライムへと生まれ変わった姿となった。
『ぎゃうぎゃーう(フランベルジュ、死んじゃやだー)!!』
プロクスの叫びに、エルが冷静に言葉を返す。
「プロクス、大丈夫。まだ、フランベルジュは取り込まれていない」
スライムは核で呑み込んだものを完全に体に取り込ませる。まだ、フランベルジュの体は核に到着していないだろう。
「炎スライムを倒したら、フランベルジュを助けることができるから」
『ぎゃうーー(よかった)』
問題は、炎という上位属性がついたスライムを、どう倒すか。
一行に、緊張が走る。