少女とダークエルフは、聖樹探しにでかける
村長が呼び寄せた洗熊妖精は、エルやイングリットが初めて見る珍しい武器を持っていた。
盾の持ち手が槍になっていて、表面には剥き出しの刃が突き出ている。
「え、その武器何? 初めて見た!」
エルから質問を受けた額に十字の傷跡がある洗熊妖精が、ぶっきらぼうに答えた。
『これはアダーガ』
「アダーガ。へえ、初めて聞いた」
もう一匹の、毛並みがふわふわした洗熊妖精が、補足してくれる。
『これは、人間が作った武器兼防具っすよ! なんか、使いこなせないから、一気に廃れていったらしいっす』
「そうなんだ」
人間界の戦場で使われていたのは、三世紀も前の話。そこそこ生産されていたようだが、「剣と槍と盾は、それぞれ使ったほうがいいな!」と誰かが言い出し、それから戦場で使われなくなったらしい。
洗熊妖精は力持ちなので、難なく使いこなせるようだ。
エルとイングリットの聖樹探しに付き合ってくれる洗熊妖精は、額に傷跡があるほうがギイ。毛並みがふわふわなほうがモンという名前らしい。
皆、一通り自己紹介をしたあと、出発する。
彼らを雇うのは、決して安くなかった。けれど、聖樹がある場所まで案内してくれるので、旨味もかなりある。何より、一行に抜けていた戦力を補ってくれるのは、ありがたい。
『一応、魔物が少ない道で案内しますが、それでも普通より多いので、気を抜かないほうがいいっすよ』
「うん、ありがとう」
プロクスは二番目に大きな形態へと転じ、ネージュは剣を鞘から抜いた状態でいる。フランベルジュは、いつもより高い位置で飛んで、周囲を警戒してくれた。
エルも、投石器と魔石を手に握った状態で、イングリットのあとに続いている。
ドキドキハラハラな状態で歩いていたら、フランベルジュが叫んだ。
『敵だ! 敵が接近している! あれは――毒蝶だ!』
黒い羽根がふりまく鱗粉には、毒が含まれている。吸い込んだら、最悪死んでしまうらしい。
大きさは一米突ほど。群れで行動するようで、五体もの毒蝶が接近しているようだ。
フランベルジュの警告から数十秒後、その姿がエルやイングリットにも捉えられるようになる。
「あれが、毒蝶!」
森の奥地に生息する危険な魔物として、エルは記憶していた。イングリットも、生まれ育った森で時々見かけたことがあるという。
「あいつは人や獣の血肉で、巣を作るんだよ。ああやって集団で移動して、獲物を探すんだ」
ちなみに、噛まれたさいに出る唾液は、巨大な生き物でも麻痺するほど強力だという。警戒をしなければいけない。
「さて、どう戦うか」
「とりあえず、風の魔石で鱗粉をこっちに飛ばさないようにする」
「おう、任せた、エル」
エルは投石器に風の魔石を番え、ぐっと引いた。魔石を掴んでいた手を放すと、弧を描いて飛んでいく。
風の魔石は空中で展開され、毒蝶にとって向かい風となる。
「お、飛行の速さも遅くなっているな」
エルが魔力を込めた魔石なので、五分間は風が常時展開される。それまでに、片を付けたい。
一羽、先頭を飛んできた毒蝶を、洗熊妖精のアダーガ部隊が応じる。
盾を突き出し、先端についた刃物で攻撃した。
ギイとモンの、素早く繰り出された攻撃を、毒蝶はひらりと躱した。が、その先で、ネージュが待ち構える。
『油断大敵ですわ!!』
毒蝶の首を、剣で切り落とした。そのまま絶命する。
その後も、アダーガ部隊が毒蝶を引き寄せ、隙ができたら攻撃する、という戦術を繰り返した。
あっという間に、五体の毒蝶を討伐した。
久しぶりに、イングリットとエルのギルドカードが反応を示す。どうやら、報酬付きの魔物だったようだ。
「げっ、こいつらに食われた人が、十五人もいるって」
「どこかに、巣があるのかもしれないね」
「なるべく、近寄らないようにしたいな」
血肉で作った巣というのは、かなりの大きさだろう。エルは想像しただけで、気持ち悪くなってしまった。
「ギイ、モン、ありがとうね。あなた達のおかげで、強い魔物に勝てた」
『それほどでも~』
『……』
照れるモンに、背を向けるギイ。対照的な洗熊妖精であった。