表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少女と猫とお人好しダークエルフの魔石工房  作者: 江本マシメサ
第三部 少女はダークエルフと共に、魔石工房を作る!
123/165

少女一行は洗熊妖精の村を再訪する

 ジョゼットが撤退し、気配が完全に消えた途端、洗熊妖精の数が減った。

 実際の数は、三十に満たなかったようだ。


「あれ、幻術だったんだ」

「幻術でかさ増ししていたとは、やるな」


 森の中という洗熊妖精の本拠地だからこそ、通用した戦術である。

 それ以外の場所では、見破られていただろう。なかなか賢いと、エルは思う。


 鋭い視線を感じ、エルは洗熊妖精を見る。

 まだ、抜いた剣を鞘に収めていなかった。


「洗熊妖精は、わたし達を助けにきたわけではない、みたい?」

「だな」


 洗熊妖精達は、エルやイングリットにも、警戒の視線を向けていた。


「さすが、洗熊妖精だね」

「まあ、一度手と手を取って和解していても、裏切る奴は裏切るからな」


 エルは距離を取った状態で、洗熊妖精へ声をかける。


「わたし達は、あなた達に依頼をしにきたの」

『何を依頼するって言うんだ』

「家! 森の中に工房を開きたいから、造ってもらいたくて」


 エルの主張を聞くやいなや、集まって相談を始める。待つこと五分、ついてくるように言われた。

 イングリットは魔石バイクから降り、手で引きながら歩く。エルはその隣を、てくてく歩いていた。


「イングリット、魔石バイク、重たくない?」

「大丈夫だ」


 試作品一号の魔石バイクは、市販されている物よりも一回り以上大きい。見た目はカッコイイものの、重量感がある。

 イングリットはこのデザインを気に入っていたようだが、女性や子どもには扱えないだろうという点から、小型で安定感があるデザインに作り直したのだ。


「いつか、わたしにも乗れるかな」

「地面に足が着けば、エルにも乗れるさ」


 エルはチラリと、イングリットの長い脚を見る。

 このように、背はすらりと伸びるだろうか。

 母親の姿を知らないので、自分の将来がまったく想像できないでいた。


「わたし、イングリットみたいに背が伸びるかな」

「私より高くなるかも?」

「そうなったら、毎日イングリットをよしよししてあげる」


 エルの言葉を聞いたイングリットは、快活に笑った。

 森に連れてきてから、イングリットは元気になったように感じる。

 やはり、王都での暮らしが窮屈だったのか。もっと早く、フォースターの家を出ればよかったと、エルは思う。


 と、考え事をしているうちに、洗熊妖精の村にたどり着いた。

 そのまままっすぐ、村長の家に案内された。


「――というわけで、フォースター公爵の領地に、工房を造ってほしいの」

『ふむ』


 対価は魔石である。エルはこれまで作り貯めていた、炎、氷、嵐、輝きの魔石など、貴重な魔石を差し出した。


「まだ、足りない?」

『いや、充分だ』


 まず、どういう家がいいのか、希望を聞かれる。


「一応、これ、イングリットが描いた設計図と間取りなんだけれど」


 イングリットが長年住んでいた長屋に似た、二階建ての工房がいいと話し合っていた。

 魔石を保存する地下も必要だと伝えておく。


『なるほどな』


 一ヶ月ほどで完成するらしい。他に、テーブルや椅子、棚などの家具も頼んだ。

 村長はオプションについても、詳しく説明してくれた。


 色を変えられる家具に、動く床、強制目覚ましつきの寝台など。


『もしも、工房に不可視の魔法をかけたいのならば、聖樹が必要になる』

「不可視の魔法?」


 なんでも、人や魔物の視界に映らない魔法があるらしい。


「イングリットどうする?」

「そうだな。来客が頻繁に来る場所ではないし、さっきのジョゼット・ニコルみたいに、襲撃されたら、困るもんなあ」

「そういえば、王都のフォースター、大丈夫かな」

「あんまり、大丈夫じゃないかもな」


 エルはフォースターがいる方向を向き、手と手を合わせる。どうか、無事でありますようにと切実に祈った。

 こういうことがあろうかと、イングリットの設計図や、報酬など、大切な物はエルの魔法鞄に詰めておいたのだ。

 改めてフォースターの屋敷に戻って取りにいかなければならない品は、特にない。


「お祖父さん、今頃、ジョゼット・ニコルに押しかけられて、事情聴取されているかも」

「しかしまあ、なんとか乗り切っている気はするがな」

「だね」


 フォースターの窮地が、想像できない。いつものはったりをかまし、なんとか危機を脱しているだろう。


「ごめん。話が逸れた。工房は、聖樹を使ったものがいいかも。この先、イングリットの描いた設計図を、狙う人がいるかもしれないし」

「だな。エルの魔石だって貴重だ。隠れ家みたいに、しておいたほうがいい」


 そんなわけで、聖樹を使った工房を作ることに決まった。

 だが、一点問題がある。


『森の奥地に生える聖樹を、採りに行く必要がある』


 そこは魔物が多くはびこる場所で、冒険者は絶対に近づかないという。


「イングリット、どうする?」

「迷うな」


 魔石師のエルに、魔法弓師のイングリット、人工精霊騎士のネージュに、火竜のプロクス、聖剣のフランベルジュ――戦力に不足はない。しかしながら、前衛が少ない点がイングリット的には引っかかっているようだ。


囮役タンクがほしいな」


 一行には、防御力が高く、敵の攻撃を受け止められるような戦力が足りないのだ。

 イングリットの呟きを聞いた村長が、盾を持って戦う戦士を雇わないかと、話を持ちかける。


 エルとイングリットは互いの顔を見合わせ、同時に頷いた。


 工房を造るために、聖樹探しが始まる。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ