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少女と猫とお人好しダークエルフの魔石工房  作者: 江本マシメサ
第三部 少女はダークエルフと共に、魔石工房を作る!
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少女は、ダークエルフとともに洗熊妖精の村を目指す

 足場の悪い道を、イングリット自慢の魔石バイクで走る。

 今、乗っている魔石バイクは、特殊能力てんこ盛りの初号機だ。

 ゴブリン・クイーンの黒衣のドレスを使った車輪は凸凹でこぼこ道の衝撃を吸収し、乗っている者に振動を与えない効果がある。

 王都周辺の街道は整えられているが、それ以外の道は舗装がなされていない。そのため、魔石バイク初号機は冒険にうってつけなのだ。


 一時間半ほど走り、途中で休憩する。


「イングリット、ずっと運転して、疲れたでしょう?」

「いや、案外楽しんでいた」

「だったらよかった」


 休憩は森のど真ん中にあった、少し開けた場所で行う。

 湖のほとりで休憩したかったようだが、どれもイングリットのお眼鏡にかなうものではなかったようだ。


「一つ目は毒の水草が浮いていて、二つ目は変な臭いがして、三つ目は水が真っ黒で水質が悪かった」

「よく、確認できたね」

「目はいいんだ」


 イングリットと話している間に、プロクスとネージュが敷物を広げてくれる。

 これは、イングリットとエルが共作した、魔物避けシート。

 布に魔物避けの魔法陣を特殊な魔法の糸で刺したものである。全体に、常時展開式の汚れ防止・抗菌魔法が施してある。どこで広げても汚れない、最強の敷物なのだ。


 今日は風が強い。魔物避けシートが飛んでいかないように杭を刺す穴を作っている。そこに、フランベルジュを刺しておく。


「これでよし、と」

『ぎゃう!(休もう)』


 魔法鞄からプロクスが取り出したのは、手作りクッキーである。

 最近、プロクスはクッキー作りにはまっており、腕を磨いているのだ。

 エルが魔石や魔技巧品の開発で忙しくしているので、プロクス自身がもりもりクッキーを焼いている。

 他人に振る舞うのも楽しいようで、昨日は公爵家の侍女を集めて茶会を開いていた。

 エルの通訳なしで、どんな会話をしていたのか。謎である。


『ぎゃう、ぎゃーう(新作クッキーだよ)』

「わー、おいしそう」


 花の型でクッキーをくり抜き、真ん中にジャムを添えて食べるものらしい。


 食べる前に、茶を淹れる。

 水吐フグを潰して水を吐き出させるのだ。初めこそ抵抗があった水吐フグも、今は重宝している。

 火の魔石を入れたら湯を吐き、氷の魔石を入れたら冷水を吐く。

 見た目さえ気にしなければ、便利な品である。


『オロ、オロロロロロロ……!』


 ポットに湯を注ぎ、しばし待つ。その間に、プロクスがクッキーにジャムを添えてくれていた。

 準備が整ったので、各々座ってクッキーと紅茶を楽しむ。

 飲食を必要としないネージュは、剣を抜いて素振りを始めていた。


「あ、プロクスのクッキー、おいしい」

「ジャムの酸味が、いいアクセントになっているな」

『ぎゃうぎゃう~(よかった)』


 サクサクしっとりのクッキーと、香り高い紅茶は最高の相性だった。

 公爵家の侍女が、冒険に行くのならばと用意してくれた茶葉である。


「おいしいお菓子と紅茶があれば、こうして冒険にでかけていても、優雅な気分になれるんだね」

「だな」  


 さほど苦労せずに、こうして休憩時間を楽しめるのは、魔物避けシートがあるからだろう。


「この魔物避けシートも、早く製品化できたらいいね」

「ああ」


 現在、この魔物避けシートもグレイヤード子爵に設計図を預けている。魔石バイクに続き、製品化するために大量生産用の材料を確保している最中だ。

 ただ、魔石バイクのように上手くいかない点がある。

 魔法陣を縫う魔法の糸を生産できる工房が、ジェラルド・ノイマーに乗っ取られてしまったのだ。


「交渉、上手くいきかけていたのに……」

「あいつ、本当にしようもない奴だよ」


 魔石バイクの大ヒットがよほど悔しかったのだろう。

 ここ最近、陰湿な嫌がらせを繰り返しているという。それが可能となるほど、ジェラルド・ノイマーの工房は大きくなっているのだ。


「イングリット、気にしたって仕方がないよ。きっと、グレイヤード子爵が、なんとか解決してくれるはず。わたし達は、わたし達にできることを、しよう」

「ああ、そうだな」


 すっかり弱気になっているイングリットを抱きしめ、頭を優しく撫でる。

 これは以前、エルが落ち込んでいるときに、イングリットがしてくれたものだ。


 イングリットは消え入りそうな声で、「ありがとう」と呟く。


 ◇◇◇


 魔石バイクを走らせること半日――洗熊妖精の村にたどり着く前に、見たことのある人物と遭遇してしまった。


 美しい黒の巻き髪に、挑戦的な赤い瞳を持つ美しい女。


「あれは、神速の炎槍、ジョゼット・ニコル!?」


 魔法騎士である彼女がどうしてここにいるのか。

 エルとイングリットに気づいたジョゼットは、艶やかな微笑みを浮かべていた。

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