表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少女と猫とお人好しダークエルフの魔石工房  作者: 江本マシメサ
第二部 少女はダークエルフと商売を始める!
118/165

少女は成果に満足する

 魔石バイクに使う魔鉱石は、フォースター公爵家の領地にある鉱山から採掘した。

 フォースターは大の魔技巧品嫌いで、古くからの暮らしを大事にする男であった。

 これまでも、所持領での魔鉱石の採掘事業を持ちかけていたが、どれも断っていた。

 しかし、可愛い孫娘であるエルの頼みとあれば、断れなかったようだ。


 鉱山には、これまでジェラルド・ノイマーに活動を妨害された鉱山採掘者を雇い入れ、魔鉱石の採掘が始まった。

 実に質がいい魔鉱石が次から次へと採掘される。

 それを、光の妖精が魔石に加工し、グレイヤード子爵家が営む商会へと出荷された。

 同時進行で、魔石バイクの生産も始まる。

 グレイヤード子爵は商会の経営者を招いて夜な夜な夜会を開き、魔石バイクの素晴らしさについて語った。

 評判は上々で、次から次へと予約が入っている。


「イングリット、予約だけで、五百台も売れたって」

「嘘だろう?」


 イングリットの手元には、一台生産するごとに入る著作料が次から次へと入ってくる。


「エル、なんだか、夢を見ているみたいだ」

「夢じゃないよ」


 エルはイングリットをぎゅっと抱きしめる。


「よかったね、イングリット」

「ああ。エルの、おかげだ」

「そんなことないよ。イングリットの着想あってのことだし」

「でも、エルがいなかったら、私は、下町で燻っているままだった。エルが、私の世界を広げてくれたんだ」


 イングリットはエルを抱き返す。

 温もりを感じていたら、なんだか照れくさい気持ちになった。


 それから一ヶ月後――ついに、魔石バイクの発売日を迎えた。

 新聞の一面で、画期的な魔技巧品だと報じられる。


「イングリット、見て、これ!」

「驚いたな」


 ここ最近は政治批判ばかり書かれていたが、魔石バイクに関する記事は友好的な視点から書かれていた。


 これまでの魔石車は、排気ガスと呼ばれる環境や人体に悪影響を与える魔力のガスが発生していた。

 そのおかげで、王都は曇天が続き、黒い雨を降らすこともあったのだ。

 一方で、魔石バイクは排気ガスを出さない。それどころか、空気を浄化させる機能も付いている。

 走れば走りほど、王都の空気は綺麗になっていくのだ。


「イングリット見て、お祖父さんのコメントも載っているよ」

「あ、本当だ」


 フォースターは魔石車の環境問題について、つらつらと語っていた。


「お祖父さん、真面目なところもあるんだね」

「だな」


 そして値段についても、書かれていた。

 魔石車は貴族にしか買えないような高額の値段設定がなされている。しかし、魔石バイクは庶民の手にも届く価格設定にされているのだ。

 さらに、不足傾向にあった魔石も、良心的な価格で販売してくれる。

 魔石バイクはこれまで人々が不満に思っていたことを、一気に解決してくれる存在となりそうだ。


 ただ、褒めるばかりではない。問題点も書かれている。

 剥き出しの身で乗る危険性や、歩行者との事故の可能性。それから、これから所持する人が多くなれば、道が混雑するのではという推測など。


「まあ、褒められるばかりでは、怪しく思えるからな。これが、まっとうな視点から書かれた記事だという証拠にもなる。よかったよ。公平な目で、魔石バイクを評価してもらって」

「そうだね」


 ひとまず、魔石バイクを開発し、販売するという目標は果たされた。

 エルとイングリットは、ハイタッチを交わした。


「ねえ、イングリット、これからどうする?」

「うーん、そうだな」

「新しい、魔技巧品を作る?」


 イングリットは作りたい魔技巧品が山のようにあるらしい。着想が尽きることはないと。


「それとも、迷宮に行って、勇者の故郷に伝わる魔技巧品を探す?」

「うーん、迷うな。でも、とりあえずは、一区切りということで、しばらくはエルがやりたいことをやろう」

「え!?」


 思いがけない言葉に、エルは目を丸くする。


「今日まで、エルは私がやりたいことに付き合ってくれただろう? 今度は、私がエルのやりたいことに付き合おうと思って」

「わたしは、別に、やりたいことなんて……」

「よくよく考えたらあるから。考えてみろよ」

「うーん」


 エルは頬に手を当て、小首をかしげながら考える。


「ひねり出せ、エル!」

「やりたいことって、ひねり出すものなのかな?」

「ひねり出すものなんだよ!」


 イングリットに急かされながら、エルは考える。


「う~~~ん、う~~~ん……。あ!!」

「思いついたか?」

「うん」


 エルは背伸びをして、イングリットの耳元でこそこそ囁いた。


「みんなで、ピクニックに行きたいだって!?」

「うん。プロクスに乗って、人がいないような場所で、おいしいお弁当を食べたり、綺麗な景色を眺めたりしたい」

「いいな、それ!」


 ヨヨやプロクス、ネージュやフランベルジュを連れて、エルの顔を知る人がいない地へ飛び立っていくのだ。

 きっと、楽しいに決まっている。


 エルとイングリットの胸は、希望に満ちあふれていた。  

第二部、完です!

しばらくお休みをいただきまして、第三部をお届けする予定です。

これからも、少女と猫とお人好しダークエルフの魔石工房をよろしくおねがいいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ