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少女と猫とお人好しダークエルフの魔石工房  作者: 江本マシメサ
第二部 少女はダークエルフと商売を始める!
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少女は同じ顔の少女と対峙する

 彼女は、いったい“誰”なのか。

 鏡を見ているのではと思うほど、そっくりである。

 エルの心臓が、今までになくドクン、ドクンと高鳴っていた。


 見つめ合っているうちに、エルの中にあった点と線で結ばれていなかったものが、繋がっていく。

 記憶を遡ってみると、以前よりエルは誰かと勘違いされることがあった。

 それが、“彼女”だったのだろう。


 似ていると言っていたのは、フォースターと、国家錬金術師のキャロル――共に、王宮に出入りをする人である。


 エルの母は、亡くなった王妃だ。

 若い頃の姿が、エルにそっくりだったという。

 それに、彼女は先ほど、フォースターを「お祖父様」と呼んでいた。

 つまり、今目の前にいる彼女は、フォースターに続くエルの血縁者である可能性が高い。

 考えを張り巡らせているうちに、だんだんと冷静になった。


 しっかり前を見据え、同じ顔をした少女を見る。


「わたしは、黒斑病の魔女ではない」

「だったら、どうしてわたくしと同じ顔をしていますの!?」

「さあ?」

「どうせ、幻術か何かなのでしょう!? そこの邪悪なダークエルフに、命じて姿を変化させているに、違いありませんわ!」

「違う!!」


 エルが叫んだのと同時に、強い風が吹く。


「きゃあ!」

「王女様!!」

「王女様!!」


 ゾロゾロと、武装した騎士が部屋へと入ってきた。

 騎士は、少女を「王女」と呼んだ。

 やはり、エルの予想は正しいのだろう。

 彼女は、国王夫婦の唯一の子である、王女なのだ。


 なぜ、エルが“黒斑病の魔女”と呼ばれるようになってしまったのか。

 原因は、フォースターにあったことを思い出した。

 国家錬金術師のキャロルが話をしていたのだ。フォースターが久しぶりに王宮に戻ったさいに、王女に似た少女を見たと。

 王女に似た少女なんて、いるはずがない。

 この世で、同じ姿をした存在は、悪しきものであるという謂われがある。

 そのため、王女と生き写しのようにそっくりなエルは、黒斑病の魔女と呼ばれる所以となったのだろう。


 いまだ、強い風がビュウビュウと吹いている。これは、いったい何なのか。


「落ち着くんだ、エル!!」


 ここで、イングリットの叫びが耳に入る。


「え、私――?」

『魔力が、暴走しているんだ! 落ち着け! でないと、この部屋が崩壊してしまう!』


 ヨヨの叫びを聞いて、ハッと我に返る。

 ここで、状況を改めて理解した。

 エルの目の前に、剣を引き抜いたネージュと、剣から炎を立ち上らせるフランベルジュ、それから中型の竜に転じたプロクスがあった。

 騎士から守ろうとしているのだろう。

 そしてエルは、自身の魔力が強い風を起こしていることに気付いた。


「や、やだ……!」


 焦った途端に、風が強くなった。カーテンはバサバサと音を立て、ガラスはミシミシと悲鳴をあげている。天井からつり下がったシャンデリアは、左右に揺れて危険な状態だ。

 こんなこと、したくないのに。

 その焦りが、風を強くしてしまう。

 涙が零れそうになった瞬間、イングリットはエルをぎゅっと抱きしめた。


「大丈夫だ。頭の中に、森の静かな湖を、想像して――」 


 イングリットに言われたとおり、生まれ育った森の湖を想像してみた。

 すると、風がだんだん収まっていく。

 イングリットは優しくエルの背中を撫でる。風は、止んだ。


 だが、騎士との間にあるピリピリとした空気までは、和らがない。

 今、必要なのは、冷静さなのだろう。

 エルは礼を言ってイングリットから離れる。そして、敵意を剥き出しにするネージュとフランベルジュ、それからプロクスに声をかけた。


「みんな、止めて。あの子は、わたし達の敵ではない」


 その言葉に、皆、素直に従う。

 エルは騎士の背後に佇む少女に、語りかけた。


「あなたの名前は?」

「わ、わたくしは――アルネスティーネ」

「アルネスティーネ」


 名前を呟いた瞬間、胸が苦しくなる。どうしてかわからないが、懐かしく切ない気持ちに襲われた。


 息苦しくなり、その場に膝を突く。

 イングリットが背中を支えてくれた。手の温もりを感じる。

 けれども、心は落ち着かない。

 どうして、彼女、アルネスティーネを前にするとこうなってしまうのか。

 考えても、答えは浮かんでこない。


「あなたの名前は?」


 エルが先ほどしたものと、同じ質問が問いかけられる。


「わたしは――エルネスティーネ」

「え!?」


 その名を呟いた瞬間、エルの前に巨大な魔法陣が浮かび上がった。

 脳内に、声が響く。


 ――双子は不吉だ


 ――両方殺せ!


 ――ああ、子どもに、罪はないのに!!


 ――大丈夫だ。君と、陛下の子は、俺が守る


 ――殺せ、殺せ!! 片方でもいい、殺せ!!


 声が、大きな声が、エルの脳内に響き渡った。


「ああっ!」


 意識が遠退いていく中で、アルネスティーネが倒れるのを視界の端に捉える。

 そのあと、エルの意識はぷつりと途切れた。

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