少女は魔石を作る!
フォースター公爵邸に戻った一行は、執事に主の所在を尋ねる。
「旦那様は、お出かけになりました。帰宅したら、お知らせしますか?」
「うん、お願い。わたし達は、地下にいるから」
「承知いたしました」
光の妖精達はやる気があるようで、エルの周囲を点滅しながら飛び回っていた。
今回の件をきっかけに、エルは光の妖精と契約を結んだ。
そのため、一気に大所帯となる。
休む間もなく、地下の工房へ向かった。
エルは魔法鞄から、魔鉱石を取り出す。
「みんな、今から魔石の作り方を教えるから、見ていて」
エルの声に反応し、こくこくと頷くような動きを見せていた。
その様子を眺めていたイングリットが、ぽつりと呟く。
「なんか、光の妖精が可愛く見えてきた」
イングリットの言葉に照れたのか、光の妖精達はほんのりと赤くなっていった。
言葉数は少なく、ただの光る球状なのだが、感情表現は豊かなようだ。
プロクスやフランベルジュも、魔石作りに興味があるらしい。エルの手元を、光の妖精と共に覗き込んでいる。
イングリットはエルから離れた位置にいるヨヨをチラリと見て、質問してみた。
「猫くんは魔石作りに参加しなくても、いいのか?」
『猫の手で、どうやって魔石を作るっていうんだよ』
ヨヨはイングリットに、肉球を示しながら言った。
「たしかに、その通りだな」
「そこ、お喋りしない」
「はいはいっと」
イングリットは返事をしつつ、エルの魔石教室に参加することとなった。
「みんなに作ってもらいたいのは、属性を付与していない、ただの魔石。まずは、魔力を含んだ白墨で、魔法陣を描く」
エルは慣れた手つきで、床にサラサラと魔法陣を描いていった。そこに、大きな錬金鍋を置き、精製水を注いでいく。
「この鍋で魔鉱石を煮込んで、澱みを浄化していくの」
魔鉱石を入れて魔法陣を発動させると、錬金鍋が一瞬にして沸騰する。ぐつぐつ、ぐつぐつと煮立っていた。
十分ほどで、浄化は完了する。中の魔鉱石を掬い、錬成台へと並べて行く。
石のような魔鉱石だったが、色が抜けて水晶のように透明になっていた。
イングリットはその魔鉱石を覗き込み、感心するように言った。
「市場の魔石は、この浄化の作業が不完全だから、濁った色をしているんだな」
「そうなんだと思う。ここできちんと浄化していないと、魔石が爆発したり、暴走したりするんだよね」
「だったら、大事な作業だ」
今度は魔法筆を用い、蜂蜜をインク代わりに魔法陣を描いていく。
『ぎゃう~~(蜂蜜、いい匂い)』
「プロクス、笑っちゃうから、個人的な感想はあとにして」
『ぎゃう(了解)』
エルは真剣な横顔を見せながら、魔法陣を完成させた。
「この魔法陣の上に、魔鉱石を並べて、魔鉱石の中の魔力を熟成させるの」
エルは目を閉じ、集中する。魔鉱石に手をかざし、仕上げの魔法をかけた。
「――深まれ、熟成!!」
魔法陣ごと光に包まれた魔鉱石だったが、光が収まると魔石と化していた。
ツヤツヤと輝く、良質の魔石が完成となる。
イングリットは口笛をピュウっと吹き、魔石を手に取った。
「やっぱ、エルの魔石は最高だな」
イングリットに褒められたエルは、頬を赤く染めている。が、すぐに真顔になって、光妖精に質問していた。
「これ、作れそう?」
光の妖精達は、コクコクと頷いていた。
「だったら、今度は一緒に作ってみようか」
『ぎゃう(私も)』
『俺様も、挑戦するぞ!』
光の妖精達は物覚えがよく、手早く魔石を完成させた。その一方で、プロクスとフランベルジュのコンビは、上手くいっていない。
炎で焦がし、黒ずんだ魔鉱石を前に、エルが額に手を当てながら言った。
「プロクスとフランベルジュは、趣味の魔石ということで」
光の妖精達はコツを掴んだのか、分業で魔石作りを始めた。
そんなわけで、魔石の生産が始まる。
◇◇◇
フォースターが帰ってきたというので、エルとイングリットは居間で待つ。
別に、話があるわけではないが、一応、無事に帰ってきたと知らせるつもりだ。
アツアツの紅茶と、焼きたての焼き菓子を堪能していたら、廊下が騒がしいことに気付く。
「誰か、お客さん?」
「さあ? なんだろう」
エルがカップをソーサーに置いた瞬間、扉が勢いよく開かれた。
入ってきたのは、エルと同じくらいの年頃の少女である。
「え!?」
「は!?」
同じなのは、年頃だけではなかった。
髪の色、瞳の色、肌の色から顔の造形、身長や体つきまで、何もかもエルとそっくりだったのだ。
仕立てのよいドレスを纏っていて、少女とは思えない貫禄を漂わせている。
少女はキッと、エルを睨んだ。
「やっぱり、お祖父様は黒斑病の魔女を、ここに匿っていましたのね!!」
エルとイングリットは、突然の糾弾に言葉を失っていた。