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少女と猫とお人好しダークエルフの魔石工房  作者: 江本マシメサ
第二部 少女はダークエルフと商売を始める!
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少女は“村”に行きつく

 しばらく歩いていると、ネージュの魔力が通った痕を示す糸のようなものは、太くはっきりと見えるようになった。


「もう、近いのかも」


 ネージュは何者かに連れ去られた可能性が高いので、慎重に進んでいく。


「ここから先、ずーっと、まっすぐ繋がっている。きっと、その先に、ネージュがいるのかもしれない」

「そうか」


 イングリットは腕を組み、しばし考える。


「わかった。私が、一度様子を見てこよう」


 そんな提案すると、すかさずエルが反対した。


「ダメ! 危ないでしょう」

「いや、エルサン。私は、一応単独で冒険者をしていたんだが」

「それでも、イヤなの」


 エルはイングリットに近づき、上着をぎゅっと掴む。


「もしも、この先イングリットがいなくなったら、わたしは、どう生きていいか、わからない」

「エル……」


 いつの間にか、エルはイングリットに依存している。迷惑だとわかりつつも、巡り会えた大切な人が、危険に身を投じるのは我慢ならないのだ。


「あー、わかった。一人では、行かないから」

「うん」


 しょんぼりと落ち込むエルを、プロクスは優しく『ぎゃうん』と鳴いて励ます。

 イングリットはどうしようかと、考えているように見えた。

 ここで、フランベルジュが発言する。


『おっほん! あー、よかったら、俺様が、様子を見てこようか?』

「フランベルジュ、いいの?」

『ああ。お安いご用だ』

「だったら、お願い」

『承知した』


 フランベルジュはいつもより高く飛びあがり、素早く飛んで行く。

 五分後――戻ってきた。


「フランベルジュ、おかえり。ネージュはいた?」


 その問いかけに、フランベルジュは剣先をぶんぶんと振る。


「だったら、何かあった?」

『妖精族の、集落があったぞ』

「え?」

『熊みたいな、見た目をしていた』

「熊の、妖精?」


 そんな存在ものがいるのか。ヨヨのほうを見たら、知らないと首を振っている。


「イングリット、どうしよう。熊の妖精って、ちょっと怖そう」

「うーん。まあ、野生の熊よりは、凶暴ではないと思うけれど」

「そうかもしれない。けれど、ネージュを連れていったのは、気になる」


 ひとまず、行くしかない。何があっても、ネージュを助けなければならないのだ。


「エル、どうする?」

「行く」

「わかった」


 フランベルジュを先頭にして、先へと進んだ。

 草木を分けつつ、前へ前へと歩いて行く。その先に、フランベルジュが発見した妖精族の村があった。

 エルとイングリットはくさむらに身を潜め、様子をぞっとのぞき見る。

 プロクスも赤ちゃん体型になり、息をひそめていた。


「ん、あれって――?」

「熊、ではない?」


 村には小さな茅葺き屋根の家がいくつか建っており、茶色の毛並みを持つ二足歩行の獣が暮らしていた。大きさは、エルの膝丈くらいだろうか。ネージュと同じくらいの大きさである

 村を歩き回っているのは熊妖精ウルスではなく、浣熊妖精ラクーンだった。


「浣熊妖精の村って、ここだったんだ」

「みたいだな。エル、ネージュはどの辺にいそうだ?」

「そこまで離れていないと思う。この先に、広場っぽいところがあるから、そこにいるかも」

「そうか」


 イングリットがヨヨに問う。どうやって、浣熊妖精と接触すればいいのかと。


『うーん、難しいね。浣熊妖精は、妖精の中でもあまり人間と契約したって話は聞かないし、気性も荒いから』

「ヨヨのほうから、交渉ってできる?」

『したくはないけれど……やってみようか?』

「お願い!」


 まずは単独で、行ってみるらしい。離れた位置に、洗濯物を干している浣熊妖精がいるのだ。ヨヨは声をかけてみるという。


「ヨヨ、頑張って!」

『ダメだったらごめん』

「そのときは、猫くんの勇気だけ称えよう」


 ヨヨは渋々、といった感じで浣熊妖精に接近する。

 浣熊妖精はヨヨに気付き――悲鳴をあげて逃げていった。


「あっさり、失敗したな」

「うん」


 イングリットは立ち上がり、ヨヨに戻ってくるよう指示を出す。

 踵を返した瞬間、思いがけない事態となった。


『侵入者めー!』

『逃がさないぞ!』


 手に槍を持った浣熊妖精が、ヨヨのもとへと走ってやってきたのだ。


「げ!」

「ヨヨ!」


 ピュウっと飛び出していったのは、プロクスである。ヨヨのもとにたどり着き、爪で背中を掴むと飛び上がった。


『ぎゃうー!(逃げろー)』

「ヨヨ!」


 プロクスが運んでくれたヨヨを、エルは受け取る。すぐに、イングリットがヨヨを抱き上げ、首に巻いた。そして、全力疾走で走る。


『待て、待てー!』

『逃げても無駄だー!』


 だんだんと、浣熊妖精の数が増えていく。

 走る一行は、だんだんと追い詰められていた。


「はあ、はあ、はあ、はあ――!」


 しだいに、エルの体力も限界となる。もうダメだ。そう思った瞬間、エルの足首に何かが巻きついた。そして、ぐん! と上に引かれ、同時に視界が一回転する。


「きゃあ!」


 エルの体は宙を舞い、逆さ吊りとなった。

 足に巻きつき、エルの体を吊っているのは蔦だった。足首に、ぎゅっと食い込んでいる。


「クソ、罠か!?」

「な、なに、これ!?」


 プロクスが空を飛び、エルの足に巻きついた蔓に噛みつく。が、表皮が硬いようで、噛み千切れない。


 そうこうしているうちに、浣熊妖精に追いつかれてしまった。 

挿絵(By みてみん)

ぶんか社BKブックスより、4月3日に発売します!

KeG先生の描いたエルを目印に、探してみてください。よろしくおねがいいたします!

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