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少女と猫とお人好しダークエルフの魔石工房  作者: 江本マシメサ
第二部 少女はダークエルフと商売を始める!
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少女はウサギ騎士を捜す!

 ネージュが残した魔力の痕を、辿る。出発する前に、プロクスが待つように言った。


『ぎゃうぎゃう!(荷物、持つよ)』


 イングリットが背負っている鞄を、プロクスが持つという。

 エルが通訳すると、イングリットは眉尻を下げながら言った。


「その小さな体で、持てるのか?」

『ぎゃう(任せて)』


 プロクスが『ぎゃーう』と吠えると、小さかった体が、むくむく大きくなる。

 一米突メートル半ほどの、中型竜の姿へと変わった。


「ああ、なるほど。そういうわけか」


 任せても大丈夫だと判断したイングリットは、プロクスに荷物を預ける。


「ここから先は、火炎剣様に頑張ってもらうか」


 荷物からフランベルジュを引き抜き、前衛に置く。


「猫くんも、エルの守護を頼む」

『役立つかわからないけれど、まあ、頑張るよ』


 ヨヨのゆるい返事を聞いたあと、ネージュ捜しが始まる。


 森は木々が鬱蒼と生えているからか、薄暗い。霧も漂っており、視界はお世辞にもよいとは言えなかった。


 どこかに、魔物が潜んでいるのだろう。エルは武器である魔石と投石器を握りしめる。

 ドキドキしながら、一歩一歩と歩みを進めていた。


『エル、気を付けて! 魔物だ!』


 ヨヨの叫びに、エルは歩みを止める。ガサガサと葉がこすれ合う音が聞こえ、そこからフォレ・ウルフが飛び出してきた。

 数は三。以前エルが見かけたものよりも、一回りほど小さい。


『うおおおおおおお!!』


 フランベルジュは雄叫びを上げ、素早く回転していた。戦闘前にあのように動いて大丈夫なのか。心配になる。

 ただ、威嚇効果は絶大で、フォレ・ウルフは襲ってこない。

 プロクスも戦う気があるようで、のしのしと前に出て行った。

 イングリットは長弓に、先端に魔石の鏃がついた矢を番える。


 ヨヨはエルを守るように、前に立っていた。ふわふわの尻尾をピンと立て、勇ましい様子を見せている。


『エル、僕より前に出ないでね』

「ヨヨ、カッコイイ!」

『もっと言って!』

「とっても、カッコイー」

『二回目、言い方が雑になっていなかった?』

「気のせい」


 そんな会話をしているうちに、フォレ・ウルフは逃げてしまった。


「魔物が逃げたの、初めて見たな」

「わたしも」


 フランベルジュは振り返り、僅かに角度を反る。その様子は、胸を張っているように見えた。


 見知らぬ森の中なので、なるべく体力は温存したい。戦闘を回避できるのはありがたいことだった。


 先へ、先へと進んでいく。二時間ほど歩いたが、ネージュの姿はいまだ見えない。


「ウサぐるみは、どこまで行ったんだ?」

「うーん。なんか、魔力の通った痕に、迷いがないんだよね」

「躊躇しないで進んでいる、ということか?」

「そう」


 森を進む中で、いくつか分岐があった。それすらも、迷わずどんどん進んでいる。


「もしかしたら、ネージュは誰かに連れ去られているのかもしれない」

「その可能性が高いな」


 魔物だったら、その場で攻撃しているだろう。二時間以上離れた場所につれて行くということはしない。


「ということは、ネージュを攫ったのは、人間か、精霊か、幻獣か、妖精か、ってことか?」

「たぶん、そうなんだと思う」


 ヨヨに妖精や精霊の気配があるか聞いてみる。


『よくわかんない。いるかもしれないし、いないかもしれない』

「すごく、ふわっとした答え」

『基本、妖精や精霊、幻獣は気配が薄い。だから、よくわからないんだよ』

「そう」


 考えても答えがでてくるわけではない。ひとまず、長時間歩いて疲れたので、休憩を取る。

 開けた場所に魔物避けの結界を展開し、腰を下ろす。


「ヨヨ、食事の準備を手伝って」

『了解!』


 エルは魔石と魔石ポット、茶葉に水吐フグを取り出し、茶を沸かす。

 球状の水吐フグの頬を左右の手で押すと、口から水が出てくる。


『オロ、オロロロロロ』


 見た目の衝撃インパクトから長い間使っていなかったが、慣れたら使い勝手がいい。水の魔石を使うときは器を用意しなければならないが、水吐フグは水量を調節しつつ注げる。非常に便利な魔技巧品なのだ。


 魔石ポットの湯は一瞬で沸き、しばし茶葉を蒸らしておく。

 続いて、エルは薬草入りのソーセージを、火の魔石を入れて炒めた。

 火が通ったら、卵を入れる。端がカリカリになるまで焼き、仕上げに黒コショウをかけたら目玉焼きのソーセージ添えの完成になる。


 イングリットは、料理をするというヨヨの様子を興味津々とばかりに覗き込む。


「猫くん、料理ができるんだな」

『まあね』


 ヨヨは魔法を用いて、パンケーキを作る。

 ボウルに卵黄、小麦粉、牛乳を混ぜる。別のボウルに卵白と砂糖を混ぜ、ふわふわになるまで泡立てるのだ。

 ふたつの生地を混ぜ合わせ、バターを広げた鍋で焼く。

 魔法の力で、パンケーキをひっくり返す。

 一人につき二段、重なったパンケーキに、バターを落として樹液のシロップをたっぷりかけた。もちろん、甘いものに目がないプロクスの分もある。


『さあ、お食べよ』

「ヨヨ、ありがとう」

「猫くん、料理が上手なんだな」

『ぎゃう~!(やった~)』


 ふわふわのパンケーキは、舌の上でしゅわっととろける。極上のパンケーキだった。

 口の中が甘くなったあとの、ソーセージと目玉焼きも最高。

 お腹が満たされたあとは、再びネージュの捜索を続ける。

 

キャラクターデザイン、最後はエルのお友達、シャーロット

挿絵(By みてみん)

KeG先生に、可愛く無邪気に描いていただきました!

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