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少女と猫とお人好しダークエルフの魔石工房  作者: 江本マシメサ
第二部 少女はダークエルフと商売を始める!
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少女は空飛ぶ魔物と退治する!

 ハルピュイア――人間の女性のような上半身に、手は翼、鶏のような脚に、鋭い爪先を持つ魔物である。


「クソ、なんで、あんな稀少で凶暴な魔物が王都周辺に出るんだよ!」


 イングリットの叫びには、焦りが滲んでいた。

 エルは地上に視線を向ける。見渡す限りの大森林であった。プロクスが降りられそうな場所はどこにもない。


 イングリットに、どうするかなんて聞けない。

 やる・・しかないのだ。


「さて、問題は戦い方だな」

『わ、わたくしが、先陣を、切りますわ!』

「ウサぐるみ、大丈夫なのか?」

『も、もちろん』


 ネージュの声が震えていた。ただでさえ高所恐怖症なのに、初陣がハルピュイアとあっては運が悪いとしか言いようがない。


 明らかに、頼りになりそうにないが、イングリットはネージュを戦力の一つとして考えているようだ。


「ウサぐるみ、空は飛べないよな」

『さ、さすがに、空は飛べません』


 ネージュは騎士なので、プロクスの背に乗ったままでは戦えない。

 ここで、エルはハッとなる。


「イングリット、わたし、お祖父さんから、召喚札をもらったの!」

「召喚札?」

「うん、これ!」


 鞄から取り出し、イングリットに見せる。


「鷹獅子じゃないか! こいつに跨がったら、近接戦闘も可能だな」

「うん。でも、ネージュ、本当に、大丈夫?」


 ネージュは震える手で、剣を引き抜く。すると、耳がピクンと動いた。

 怯えていた瞳は、まっすぐに敵――ハルピュイアを捉える。

 まるで、別人格が乗り移ったかのように、高所や魔物に対する恐れが消えたように見えた。


『ご主人様は、わたくしが守りますわ!!』


 凜々しく叫ぶ。


「よし、じゃあ、ウサぐるみは鷹獅子の背に乗って、近接攻撃。私は、ここから遠方射撃をする」


 黒い点としてしか見えなかったハルピュイアの姿が、はっきり見えるようになる。

 明らかな殺意を持って、飛んで来ていた。あの様子だと、地上に着地したとしても追いかけてくるだろう。


 ハルピュイアの真っ赤な瞳が、キラリと光る。


「エル、始めるぞ!」

「うん!」


 戦いの火蓋が切られた。

 まず、エルは召喚札を投げて、鷹獅子を召喚した。

 通常、鷹獅子は馬と同じくらいの大きさだが、大型犬と同じくらいの大きさの鷹獅子が出てくる。


「おお、ウサぐるみが乗るのにぴったりな大きさだな」

「ネージュ、召喚札の幻獣は、攻撃で大打撃を負ったら消えてしまうから」

『承知いたしました』

「エル、ネージュにアレを持たせてやれ」


 イングリットの指示に、エルはコクリと頷いた。鞄を探って、取り出す。


「ネージュ、もしも、危険を感じたら、これを使って」


 ネージュに手渡したのは、小さな背負い鞄である。


『ご主人様、これはなんですの?』

「イングリットの発明品、落下傘パラシュート


 空から落下しそうになったときに、鞄の紐を引いたらキノコのような傘が飛び、安全に降下できる道具である。

 まだ試作品で、上手く使えるかどうかもわからない品だ。ないよりはいいだろうと思い、ネージュに背負わせてあげる。


『では、行ってきますわ!』


 ネージュは鷹獅子の背に飛び乗り、プロクスの前に出る。


「ウサぐるみ、やるな。私も、頑張るか」


 そう言ってイングリットは弓を手に取り、鐙を踏みながら立ち上がった。


「イングリット、立ったら危ないよ!」

「立たないと、矢を射られないんだよ。足で鞍を挟んでいるから、平気だ」


 空の上で、矢を当てるのは至難の業だろう。だけれど、イングリットは当てる自信があるという。

 一方で、エルは魔石を当てる自信なんてない。結界の外に出たら、地上へ落下するのはわかりきっている。

 今回は魔石を使わずに、補助に回ったほうがいいだろう。

 鞍に結んでいた水晶杖を手に取って、いつでも回復魔法を放てるようにしておいた。


『キィイイイイイイイイイ!!』


 甲高い、ハルピュイアの咆哮が聞こえた。耳がジンジン痛む。

 翼をはためかせ、接近するハルピュイアは、ゾッとするほど恐ろしい姿をしていた。

 目は赤く光り、鼻はない。口は大きく裂けていて、鋭い牙が覗いている。

 得意とするのは、接近戦でなく魔法だと本で読んだことがある。


『ギュオオオオオオオオオン!!』


 先ほどとは異なる鳴き声を上げた。その瞬間、ハルピュイアの前に魔法陣が浮かんだ。


「魔法だ!」

『ぎゃうー(くるよ)!』


 火の球がいくつも浮かび上がり、弾丸のように放たれる。

 エルは守護の呪文を唱え、結界を張った。


「――我が身を守れ、守護陣エスクード!」


 目には見えない巨大な魔法の盾が出現し、火の弾をすべて防いだ。


『いきますわよ!!』


 勇ましい叫びと共に、鷹獅子に跨がったネージュがハルピュイアに向かう。

 鷹獅子はハルピュイアの前で一回転した。同時に、ネージュが斬りかかる。

 ハルピュイアの胸から、赤い血が噴き出した。


「やった!」

「いや、まだだ!」


 イングリットはそう言って、一射目を放つ。残念ながら、当たる寸前で避けられてしまった。


『ガー、ガガガ、ガアアアア、ギャアアアアアアアアアアア!!』


 ひときわ甲高い声で叫んだ。近くにいたネージュの体が咆哮の衝撃で傾き、鷹獅子から落ちてしまった。


「え、嘘!?」


 鷹獅子の姿も、消えてしまう。


 すぐに、ネージュは落下傘の紐を引いたようで、鞄から傘が広がる。

 ゆっくりと落下しているようだ。


「ネージュ!!」

「エル、ネージュはあとで回収する。まずは、あいつを倒さなければ」


 イングリットが二射目を構えた瞬間、ハルピュイアは再び叫んだ。


『キィイイイイイイイイイヤアアアアアアアア!!』


 エルは咄嗟に、耳を塞ぐ。それでも、耳への衝撃は避けられなかった。


「な、なんだ、あれは……!」


 イングリットの言葉が、風呂場にいるかのように響いて聞こえた。

 耳がおかしくなっているようだった。


 それよりも、信じがたい光景を目にする。


 遠くから、五体のハルピュイアが飛んで来ていた。

 

キャラデザ公開

本日はウサぐるみこと、ネージュを紹介いたします!

KeG先生に、可愛く、凛々しく描いていただきました。

挿絵(By みてみん)

書籍版はぶんか社BKブックスより、4月3日に発売予定です。

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