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少女と猫とお人好しダークエルフの魔石工房  作者: 江本マシメサ
第二部 少女はダークエルフと商売を始める!
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少女は条件に、奥歯を噛みしめる

 フォースターの条件とはなんなのか。エルは思わず身構える。

 もしや、私設騎士隊を連れていけと言うのか。それとも、フォースター自身がついていくつもりなのか。

 どちらもお断りである。

 エルは顔を上げ、フォースターをジッと見つめる。

 フォースターは余裕たっぷりの笑みを浮かべながら、秘書官に「例のアレを」と命じていた。


「何? 何を、用意しているの?」

「それは、見てからのお楽しみだよ」


 エルは奥歯を噛みしめる。絶対に、負けられない戦いだ。

 魔石バイクの成功は、エルが作る魔石を大量生産できるかにかかっていた。ここで、足止めを食らうわけにはいかない。


「もしも、とんでもない条件だったら、わたしはここを出て、二度と帰ってこないだけだから」

「おや、エル。私が提示する条件から、逃げるというのかい?」


 そう言われしまうと、真っ向から受けなければいけなくなる。

 フォースターには、どうしてか負けたくなかった。


「エル、残念ながら、残酷な者達の手によって、君そっくりの少女が黒斑病を広めたというデマが広がっている。公爵家の庇護なしでは、商売はおろか、暮らすことすら困難となるだろう。それをわかっていて、出て行くほど愚かではないと、思っているよ」

「お祖父さんの、そういうことを言うところが、嫌い!」

「ははは、嫌いで結構。君の抱く嫌いは、他の邪悪な人間の嫌悪感に比べたら、実に甘美なものだよ。何よりも恐ろしいのは、無感情、無関心だからね。ふふ、そうか、私が嫌いか」


 はっきり「嫌い」と言ったのに、逆にフォースターを喜ばせてしまった。どうしてこうなったのかと、エルは内心頭を抱える。


 そうこうしているうちに、秘書官が戻ってきた。何やら、大きな箱を抱えている。あの中には、いったい何が入っているのか。エルは身構えていた。


 箱の蓋はフォースターが直々に開く。そして取り出されたのは――フリルとリボンがふんだんにあしらわれた、薄紅色のドレスだった。


「この、“薄紅大天使”の装備を着て、冒険に出かけるのだ」

「は?」

「これは、薄紅色の一角聖羊セイグリット・ムウトンという、聖獣の毛を紡いだ糸で作られた、魔法衣である! 物理攻撃を弾き返し、魔法ならば二倍の攻撃力で反撃する、非常にすぐれた装備である!」


 冒険に相応しいとは思えない華やかな見た目はさておき、装備品としては一級の品のようだ。


「もしかして、条件って、これを着るだけ?」

「着たあと、私に見せてほしい。そして、肖像画として納めたいから、後日ポージングに付き合ってほしい。ちなみに、ポージングは、こう、だ」


 フォースターはおもむろに立ち上がり、首を傾げ、頬に両手を当ててにっこり微笑むポーズを決めていた。


「エル、見ていたかね?」

「……」

「もう一回しようか。こう――」

「いい。もう、二度と見たくない」

「そうか」


 フォースターは静かに、腰を下ろした。


「以上が、私が出した条件だ。さあ、エル、どうする?」


 ニヤリと、フォースターはいやらしく笑いながらエルを見つめる。

 人の心がないと、エルは思った。

 だが、聖獣の加護がついたドレスは、正直ありがたい。条件はそこまで厳しいものではなかった。エルがしばし我慢をすればいいだけの話である。


「そもそも、どうして、そのドレスを持っていたの?」

「エルと一緒に、旅行に行く日もあるかと思って、買っておいたのだよ」

「そう」


 悩む時間がもったいない。ドレスはエルにとっても多大な利益をもたらす。断る理由はなかった。


「わかった。そのドレスを着る」

「肖像画も、承諾したと?」

「変なポーズはしたくない」

「わかった。その辺は、絵師に創作させよう」


 こうして、エルはイヤイヤフォースターの条件を呑むこととなった。


 箱の中には、ドレスだけでなくボンネットや、リボン、靴も納められていた。全身コーデだったようだ。


「エル、気を付けて、行ってくるんだ。無理はせず、危ないと思ったら、すぐに帰ってきなさい」

「わかっている」

「あとは、これを持って行くといい」


 フォースターはエルに、抽斗に入っていたカードを差し出す。


「え、これ、召喚札サモン・カード?」

「お小遣い代わりだ」


 三枚の召喚札には泥人形ゴーレムに、三頭犬ケルベロス鷹獅子グリフォンの絵が印刷されていた。


「これ、三枚ももらっていいの?」

「ああ、いいよ。私はもう、冒険になんか行かないからね。安全な場所で、高みの見物しかできやしない。もしも、エルが危険にさらされるようなことがあったら、使ってくれ」

「お祖父さん、ありがとう」


 エルはペコリと会釈し、踵を返す。

 部屋から出て行く前に、フォースターを振り返って言った。


「嫌いって言って、ごめんなさい」

「いいよ。エルが、本当は私が好きなことくらい、わかっているさ」

「好きではないから」


 ぴしゃりと言って出ようとしたが、フォースターに引き留められる。


「待つんだ、エル」

「何?」


 極めて真剣な表情で、エルに訴えた。


「ドレスを着たら、私に見せにくるんだよ。出発前に、必ずだ」


 それに対して、エルは「気が向いたら」とだけ答えた。

少女と猫とお人好しダークエルフの魔石工房

KeG先生に描いていただいた、書籍のキャラクターデザインを公開します!

第二弾はイングリットです

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

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