少女は妖精族について調べる
「ヨヨ、ヨヨ、起きて。ヨヨ!」
『うーん、エルゥ、もう、薬草はいいから、帰ろうよぉ……!』
「いったい、なんの夢を見ているんだ?」
「たぶん、わたしと薬草摘みにでかけて、いつまで経っても帰ろうとしないから、しびれを切らしている夢」
「なんだ、それは」
ヨヨは毎回、エルが日が暮れる前まで薬草摘みをするので、早く帰ろうと急かすのだ。
もう、森で薬草摘みなんてしていないのに、夢に見てしまうヨヨをエルは笑ってしまう。
「ヨヨ、もう日が暮れるまで薬草摘みをしないから、起きて」
『絶対嘘だ~~ハッ!!』
ここで、ようやくヨヨは目覚める。むくりと起き上がって、『何か用?』と問いかけた。
「寝ているところに、ごめん」
『いいよ。それで、なんか用なの?』
「うん」
エルは魔石の生産についての計画を、ヨヨに聞かせた。
『なるほどね。魔石の大量生産かー。たしかに、妖精族はいいかもしれない』
「でしょう? でも、どの妖精に頼めばいいのか、わからなくって」
「ヨヨと同じ小山猫の一族は、他にいるのか?」
イングリットの質問に、ヨヨは欠伸を噛みしめつつ答えた。
『いるっちゃいるけれど、猫系の妖精は使役に向かないよ。気まぐれで、やる気は自分の興味があることにしか示さないし』
「なるほどな。契約する種族も、考慮しないといけないのか。細かな作業が向く妖精族は、いるのか?」
『有名なのは、鼠妖精かな』
「鼠の妖精?」
『そう!』
賢く、手先は器用で、性格は温厚。ただ、数が少なく、召喚しても応じないことが多い。
『妖精族の村は、他国の領土内にあるから、直接行くのもダメだろうし、鼠妖精は諦めたほうがいいかも』
「そっか。他に、手先が器用な妖精はいる?」
『いるっちゃいるけれど……うーん』
「何か、問題があるの?」
『ちょっと、性格が荒くて、凶暴なんだよね。浣熊妖精っていうんだけれど』
「浣熊妖精、なんか、聞いたことがあるかも」
細かな作業ができるからと召喚し、使役できずに傷だらけになった、という記録を読んだことがあった。
「ヨヨみたいに、友好的な妖精じゃないんだね」
『まあ、友好的な妖精のほうが少ないよね』
「そうなんだ」
ちなみに浣熊妖精の村は、わりと近い位置にあるらしい。
「ヨヨこの辺には、浣熊妖精の他に、手先が器用な妖精族はいないの?」
『いないね』
「そっか」
イングリットと顔を見合わせる。
「どうする?」
「難しい問題だな。使役しにくいのならば、魔石生産には向かないし。エルは、どう思う?」
「うーん」
浣熊妖精について、ヨヨから聞いた話や、書物で読んだ情報しか知らない。
一度、どのような生態なのか、見に行ってみてもいいのではないか。そう、考える。
「一回会って、話をしてみたい。ダメだったら、別の方法を、考えるから」
「わかった。行ってみよう」
「いいの?」
「ああ。浣熊妖精がどんな奴か、気になるしな」
「イングリット、ありがとう」
「いいってことよ」
早速、冒険の準備を整えた。浣熊妖精の村まで、ヨヨが案内役を務める。ネージュとプロクス、フランベルジュも同行すると名乗り出た。
「出発前に、お祖父さんに話をしてくる」
「一緒に行こうか?」
「大丈夫」
フォースターは執務室で仕事をしているという。邪魔するのは悪いと思ったが、すぐに出発したい。
秘書に聞いたら、すぐに執務室に通してくれた。
「おや、エル。お祖父さんが、恋しくなったのかい?」
「ううん、違う。今から出かけるから、報告にきたの?」
「そうか。夕方までには、帰るんだよ」
「それは無理。北にある、フルルンの森に行くの」
「フルルンの森だと!?」
フルルンの森――それは、浣熊妖精の村がある森である。魔物も多く生息し、迷いの森でもあることから、なるべく近づかないよう注意喚起されている地域らしい。
「なんで、そんなところに行くんだ! 危ないだろう」
「用事があるの」
「それは、あの、君のお友達としている商売が関係しているのかい?」
「そう」
フォースターは眉間に皺を寄せ、ため息をついている。
「危ないから、止すんだ。必要な品があるのならば、騎士を派遣するから」
フォースター公爵家には、私設騎士団がある。それを、フルルンの森まで行かせるというのだ。
「それはダメ。妖精族との交渉だから、わたしが行かなければいけないの」
「しかし、フルルンの森は危険なんだ」
思いがけない反対を受け、エルは深いため息をつく。
「エル、私は君が心配だから、言っているんだよ」
「わかっている。でも、わたしはお祖父さんと会う前に、イングリットと冒険をしてきた。ギルドに手配されていた魔物だって、倒したし」
「それは、本当なのか?」
「本当」
ギルドカードを取り出し、フォースターに討伐実績を見せた。
「こ、これは!」
闇属性のワイバーン、炎属性のオーガ、ゴブリンクイーンを討伐している。もちろん、エル一人の力ではない。イングリットや、フランベルジュ、プロクスの協力もある。
これらを見せたら、フォースターも強く反対できないようだ。
「わかった。ただし、条件がある」
「条件?」
それは、思いがけないものだった。