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少女と猫とお人好しダークエルフの魔石工房  作者: 江本マシメサ
第二部 少女はダークエルフと商売を始める!
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少女は宇宙を見た(気がした)

 イングリットはまず、魔石バイクを量産用にするため、頭を悩ませているようだった。

 もともと、注文があって作った魔石バイクは、材料を採りに行く人件費などは含まれていない。もちろん、開発費や組み立て工賃も入っていなかった。純粋な材料費込みでの、値段だったという。

 魔石バイク代を聞いて、エルは膝から頽れてしまう。魔石バイクの値段があまりにも安かったからだ。

 依頼者に売らなくてよかったのだと、思ったくらいだ。

 イングリットは天才的な魔技巧品を作る才能がある。だが、商売人としての才能はからっきしだったのだ。

 エルはある程度、モーリッツから世の中の経済というものを学んでいた。イングリットは、何も習わない状態で王都に来てしまったのだろう。


「ジェラルド・ノイマーが妨害してくれて、逆によかったかも」

「そっか。あいつも、たまにはいいことをするんだな!」

「そういうことに、しておこう」


 現在、イングリットは魔石バイクのどの機能をなくすのか、考えているところだという。


「この、火球を打ち出す機能は必要だよなー」

「え、何、それ?」

「もしも、街中に魔物がやってきたとき、走りながら攻撃できるように付けた機能なんだ。便利だろう?」

「は……!?」

「この、川を走るときに使う、水中車輪機能も外せないし。あと、自動歯磨き装置もいるよな。朝、忙しいときはついつい忘れるから」


 エルは、見たこともない宇宙が目の前に広がったような気がした。


「イングリット。魔石バイクには、そんな機能が、たくさん付いているの?」

「ああ」


 エルの知らない機能が、三十も搭載されていた。思わず、頭を抱え込んでしまう。

 これらの機能は魔石に依存するものではなく、使用者の魔力に依存するものだったらしい。そのため、魔石の消費を減少させる時に話題として出さなかったのだ。


「嘘でしょう。こんな機能が魔石バイクにあったなんて……!」


 だが、絶望もしていられない。エルは立ち上がり、イングリットに接近する。

 そして、肩をがっしり掴み、顔を近づけて魔石バイクについての助言を口にした。


「全部、外して」

「え?」

「魔石バイクは、地上をただ走れるだけでいいの。火球を発射したり、水上を走ったり、自動歯磨き機能なんて、絶対必要ないから」

「で、でも、これらの機能がないと、ジェラルドの魔石車に勝てないだろう?」

「ジェラルド・ノイマーのことは、今後一切忘れて。一番は、消費者のことを考えるの」


 商品の開発において、もっとも大事なのは、使いやすいこと。それから、製作費用をなるべく抑え、消費者が買いやすい価格に定めることだ。

 エルは熱く、熱く訴える。


「みんな、魔石バイクに、走ること以外、求めていないから」

「そ、そうだな。わかった。エルの言う通りにする」


 わかってくれたので、ホッと胸をなで下ろす。

 イングリットは魔技巧品を作る職人であるものの、頭が固いわけではない。

 エルの言い分が正しければ、認めて意見を取り入れてくれる。


「イングリット、ありがとう」

「なんの礼だ?」

「わたしの話を、聞いてくれた、感謝の気持ち」

「だったら、私のほうこそ礼を言わなければならない。間違ったらきちんと指摘してくれて、それから的確な助言をくれて、あとは、一緒に商品開発をしてくれて、ありがとう」


 イングリットの言葉に、エルは感極まる。

 彼女の役に立てていることが、何よりも嬉しく感じたのだ。

 最後の言葉も、胸に深く響いた。


「わたしも、ありがとう。いつも、感謝している」


 家族ではないのに、イングリットはいつだってエルを第一に考えてくれる。

 感謝しても、しきれないだろう。


「不思議だね、わたし達。家族ではないのに、いつも一緒にいるから」

「何を言っているんだよ。エルはもう、家族みたいなもんだ」

「わたしが、イングリットの、家族?」

「身分証も、一緒の家名を名乗っているだろう?」

「あ、そう、だね。イングリットとわたしは、家族、なんだ」

「そうだよ」


 王都にやってきて、まさか家族と呼べるような存在に出逢えるとは思ってもいなかった。

 イングリットとこうして共に生きる奇跡に、エルは感謝する。


「さて、エルの助言を反映させた魔石バイクを作らないとな。代替部品についても、考えなければいけない」

「うん」


 代替部品については、錬金術師のキャロルが協力してくれるという。


「多分、だいぶ魔法の機能を削ったから、その辺に売っている素材で作れると思うんだ」

「設計図のチェックから、しておけばよかった」

「まあ、そうだな」


 ゴブリンクイーンの魔弾ゴムや、黄金スライムから採取する液体金属は、必要な品ではなかったのだ。

 苦労を思い出したら、ぐったりとうな垂れてしまう。


「でも、大迷宮に行ったおかげで、キャロルに会えたから」

「そうだな。国家錬金術師の知り合いなんて、めったにできないだろうから」


 人と人の出会いは不思議なものである。どの行動が、誰に繋がるのかまったく想像できない。


 これからも、人と人の縁は大事にしたいと思うエルであった。

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