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短編置き場  作者: らいず
4/7

チョコかと思ったら

 オレの幼なじみは…なんと言うかトロくさい。

 もう5年生にもなるのに、登校じゃ低学年より歩くのが遅いし、そもそも速く動いているのを見た事が無い。しかも、それを気にしている感じすらない。ボーっとしてると言えばいいのかなんなのか…。

 そんな奴、もうこの歳なら放っておきたいところだ。でも、不幸な事に家は隣で、母さん同士の仲が良くて、うちにもよく遊びに来る。それだけなら別にどうでもいいのに、それに“かえで”もくっついて来るんだ。

 今日もどうせ、オレの部屋に入ってくるんだろ…。くそっ。特に友達と約束もしてないしな…。どこ行くか言わないと出かけられないし、適当な事言ったらダメって言われるし…。

 あっ…チャイムだ。それに声も聞こえてくる。母さん声でけえよ。

 …はー。もうオレ5年生なんだからさあ。部屋に女子入れるとか嫌なん――。

「あっ。ごめんねー優也君。今日、楓居ないのよぉ」

「…え?」

「あらそうなのー。残念…どうしたの?」

「お友達のところ行って、お料理するんだって。ほら、もうすぐバレンタインじゃない?」

「きゃ~。もうそんな歳かあ! 良いわねえ女の子ー。あ、もちろん優也が一番よっ」

「うるさい」

「うちなんて最近こんなんでー」

「いいじゃないかわいくてー」

 いつもなら、かわいいと言われた事とかが嫌で、ムッとしてたところかもしれない。でもこの時のオレは、他の事に気を取られていた。

 かえでが料理!? 友達!!?

 あの黒板写すのすらドベで、止まったボール蹴るのに10回空振るようなあいつが?

 しかも友達って…。確かに最近、学校じゃ面倒見るのはずかし…やってられなくて、あいつと離れてる時間は増えてたけど…。

 ………本当に?


 なんだろう。教室の雰囲気がいつもとちげえな。

「おい優也」

「ん?」

「今のところ何個だよ」

「何が」

「は? そこら中で貰ってるやついんじゃん」

「…あ」

 そう言えば今日、2月14日だ。

「で?」

「うるせえ言わねえよ」

「おれもう1個貰ったもんね」

「自慢かよ」

「そんなんじゃねえし!」

 確かに、見てると結構な人数が渡してるな。なんだよ急に。去年までこんな事してる奴、ほとんど居なかったじゃん。

 恋とかに憧れちゃう感じかー? はーこれだから女子…は……。

『今日、楓居ないのよぉ』『お料理するんだって。ほら、もうすぐバレンタイン――』

 …いや。いやいやまて。

 ………あいつが?

 いやでもこのタイミングで、女子同士で料理しに行ってたんだろ?

 くそっ、なんでこんなにドキドキしてんだ。でも、あいつが渡すとしたらオレしかねえし…。

「ねえ」

「え、なに」

 いきなりクラスの女子が話しかけてきた。

 なんだこいつ。別に仲良くねえし、話した事もねえけど。

「今日授業終わったら、校舎裏行ってね」

「…は?」

「絶対だからね! 絶対!」

「いやなんで…おい!」

 引きとめようとしたのに、クラスの女子はグループに戻って行ってしまった。

 それを視線で追って、気付いた。

 かえでっ!?

 その中に、かえでが居た。しかも戻ってすぐにかえでに声をかけて、しかもしかもこっち指差してやがる!

 うそだろ?

 だってチョコ渡すのって、つまり好きって意味なんだろ? それくらいオレだって知ってる。そもそも朝だって、別にいつも通りだったじゃんか。

 …はあ~~~!?


 本当に来やがった…!

 しぶしぶだけど校舎裏に行ってみたら、本当にかえでが来た。しかも両手に、似合わない高そうな紙袋なんて持ってやがる。

「ゆうー」

「な、なんだよ」

 本当にそうなのか!?

 だってかえでだぞ? オレの前で普通に着替えだすような奴だぞ!?

「これ、ゆーに」

「…なんだよこれ」

 やっぱり、これオレにくれるのか? オレ…オレは。

 おかしい。なんでこんな訳わかんねえんだ――。

「うん。たいんじょーびおめでとー」

 ぺちぺちと、ほとんど音の出ていない拍手と一緒の台詞だった。

「……………は?」

「おめでとー?」

「聞いていいか」

「うん?」

「これ、中身何」

「ぎょうざ」

「ぎょうざ!?!?」

「あ、違った」

「なんだよおい!」

「なかみはひみつ。あけてみて」

「…なるほど。本当にこれぎょうざなんだな」

 多分女子どもに、そう言えとか何とか言われたんだろ。

 …いや中身ぎょうざで、開けてみても何も無いだろ。

「ちなみに、なんで?」

「ゆうの好きな物だから」

「確かに好きだけどさ」

「皆に、ゆうに当然あげるんでしょって言われて」

「うん」

「今日、わたしはゆうに何かあげなきゃいけないみたいで」

「うん」

「誕生日おめでとお」

「…オレの誕生日は8月だ」

「…あれー?」

「ああーーー! そうだよなうん。やっぱかえではかえでだ」

 今も、驚いてるんだかどうなんだか。見た目じゃわからない。多分クラスの女子達みたいに、誰が好きとかそういう発想が無かったんだろ。それで何か、変な方向に考えたんだろうな。ぶっちゃけわからん。

 こいつはいっつも一番最後なんだ。まだまだお子様なんだよな。

「かえで」

「うん」

「帰るぞ。家で一緒に食べよう」

「…うん」

 仕方ねえから、もう少し世話を続けてやる。一人で帰らせると危ねえしな。

「そういえば、この前こみやさんとチョコ作ったの」

「はあ!?」

 ならそっちはどうなったんだよ!

 …本当訳わかんねえ。

 放っておけないんだから、これは仕方ねえんだよ。

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