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短編置き場  作者: らいず
1/7

ぬくもり

 ぬくもりにも、色々あるようです。


「ああ~感じる。あったかいよぉ~。ぬくいぬくい」

「そうなのですか? よくわかりませんが」

「この部屋年中肌寒いし、こうしてくっついてるだけで、ぬくもりを感じるんだよー」

「わたしは感じません」

「あたしは感じるからいいんだよー」

「………」

「どした?」

「いえ、何でもありませんが」

「いやいや、いつも言ってるだろ。どうしても嫌とかじゃないなら、言って欲しいんだよ」

「…少々、その“ぬくもり”とやらが、どんなものなのか気になったというだけです」

「……ほう。…おかしい話じゃないか。経験してない物は知ろうとするように――」

「マスター?」

「いやいや、いいぞお。よーしよしよし」

 そう言いながら、マスターはまたわたしの頭を撫でます。これは褒めてくれているらしいです。

「…マスター、また思考に変動があります」

「よーしよしよしよーししししし」

「…マスター、また別の種類の変動です」

「あーごめんごめん。んでも、ぬくもりかー…。そうは言っても、あたしの手とか、あったかいと感じてるだろ?」

「温かいのはわかります。しかし、ぬくもりはただ温かいのとは、違うのでは?」

「…確かにそうだね。ニュアンスとか、何を表してるかー…みたいな」

「結局、マスターにも上手く言い表せない訳ですか」

「いや、うーん…。でも確かに言われてみれば、ここまで来ておいて、この状態もあんまりかー……。よしわかった。次は、ぬくもりがわかるようにしよう」

「…変な事はしないで下さいよ。よくわかってないものを入れられても困ります」

「大丈夫大丈夫。ちゃーんと君に委ねるようにしとくから」

「…そう…ですか」

 こうして眠った後…次はどうなっているでしょう。わたしには、まるでわかりません。


 …。

 …29日後ですか。意外と長かったようです。温かいとは少し違う何か…くらいに予想していましたが、ぬくもりとは…そんなに難しいものなのでしょうか。

「それで…なにしてるんです?」

「え? これでどうかなーって」

 寝起き早々、なぜかマスターはわたしを抱いて撫でています。心なしか、普段よりゆっくり、丁寧ですね…。

「何の事か明確にお願いします。寝る前と同じ、思考の変動はありますが」

「よしよし、それを記憶するんだ」

「は…?」

「君は何かされた時、なんらかの思考の変動があるはずだ。それが感情ってものなのは、教えた通り…。今度は、その感情に名前を付けてみよう」

「………確かに、できるようになっています。今まではできなかった事です」

「それは間違いなく、君の感情だ。植えつけたものなんかじゃない。あたしと同じように、自分の気持ちを、どう呼ぶのか覚えるんだ」

「ふむ…。それで、今こうしていて、感じている気持ちはなんなのでしょう」

「それがねえ……。多分色々混ざってるから、これってのは無いんだよね!」

「……………」

「あ、多分今機嫌悪くなったでしょー? それは多分イラついたーとか、むかつくーとかそういうのだよ」

「それは良くない感情だったはずです。知っているなら、そんな気持ちにさせないで下さい」

「ごめんごめん。機嫌直してー。ほら、さっきまでの気持ちにもどれー」

「む…」

 なぜでしょうか。普段よりも優しい手つきのせいか、いつも感じでいた思考が、これまでより大きく出てきています。

「そうだと信じて言うんだけどねー。今感じてるのが、ホッとするとか、安心するとか……。“ぬくもり”を感じるって気持ちだよ」

「…? わたしは、ぬくもりと温かさの違いがまだわかっていません。温かさは、感情とは違うはずです。ぬくもりとは、感情なのですか? 温かいと似た意味では無かったのですか?」

「あー…うん。この国の言葉ってややこしいよね、うん。前後の文脈やなんやで、ニュアンスでわかれーとか。同じ単語でも、別の意味だぞーとか」

「いえ、その程度は記憶すればいい話です」

「わーお…」

 要領を得ません。結局どういう事なのでしょうか。

「あー、まあ何? 今さ、あたしの体温感じるでしょ?」

「はい」

「温かいでしょ?」

「はい」

「でも温かいものに触ってるだけじゃ、今の気持ちにはならないでしょ?」

「…はい」

「あたしにこうされてるの、嫌?」

「嫌ではありません」

「好き?」

「………」

「ねぇえ~好きー?」

「先程の返答を訂正します。わたしは今離れたいと思っており――」

「ああああごめんごめんってば~」

「わたしは今イラつきました」

「ほ、ほら。その気持ちは余所へ~余所へ~」

 なぜでしょう。嫌と言う気持ちになったはずなのに、それでも撫でられていると、別の思考が生まれてきてしまいます。

「つまりそのー…ね。今、君はあたしの温かさを感じてる。こうされているのが好…嫌じゃなくて、ずっとこうされていたい…って思ってる」

「そこまでは思ってませんが」

「…されてるのも悪くないかなーって思ってる」

「………」

「とまあ…そんなのを、“ぬくもり”を感じるって言うんじゃないかな」

「…結局、ぬくもりとは感情の一種なのでしょうか」

「んー…両方…中間? いや一応は物理現象優先…」

「わからないのですね」

「…はい」

「ですが、わたしの知っていたこれが…ぬくもりであると」

「…ん、そうだと思う」

「わたしとしては、もっと明確な答えを…と言いたいですが、マスターがわからないのなら、わたしがわかるはずもありませんか」

「面目ない」

 …なんて。本当は、わたしなりに納得のいく答えは得られました。

 なぜでしょう。これもわからないのですが、ああいう言い方をしたくなったのです。しかし、普段から言いたい事は言うように言われています。わたしの行動に問題はないはずです。

 とにかく、わたしはわからなかっただけで…、“ぬくもり”をすでに、知っていたのですね。これは、なんと言うか…ずっと傍にあって欲しい、そんな思考です。

「ところで、今回の更新は従来に比べ、大して変わっていないようです。その割に日数が掛かっているのはなぜでしょう」

「それはね! 君がぬくもりを知る為の更新って事で、語呂合わせで29(ぬく)もりーって」

「わたしはムカつきました。長い間眠っていたようですし、掃除に取り掛かります」

「ごめんなさい! ごめんなさい!!」

 こんな事をされても、なんだかんだとぬくもりを感じてしまいます。

 …いくつかの書物で、似たような関係を見た事があります。こんなマスターでも、やっぱりわたしを生んでくれた人だから…なのでしょう。


 わたしのケースは、少々特別ですが。

 どうやらぬくもりとは、よくわからないもののようです。

 しかし、あった方が良いものだと思います。

 もし、無いと言う方がいっらしゃいましたら。

 一度深く眠り、新しい自分で探すのも良いかもしれません。

 気付いていなかったぬくもりに、気付けるようになるかもしれませんので。

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