逃避中
俺たちの学校、アフロディーテ高等魔法学校には、新入生に必ずある名物行事がある。
それは、逃走中ならぬ、逃避中。
逃避中とは、60分間、学校の1年生全員が、3人の教員から逃げながら、出されるミッションをクリアしていくという『アレ』である。
ただし違うのは、4人1組もしくは5人1組で行動し、大将が捕まればゲームオーバーだということだ。
個々の能力だけでなく、チームワークも問われるこの逃避中は、学校の名物行事になっている。
ちなみにエリアは学校全体で、2、3年生は学校が休みだ。
「ついに来てしまったね、この日が」
横の死神はそう言いながら目をキラキラさせている。
「僕達みんなで生き残ろうな!」
コミュ力抜群の海の神が、フラグっぽいことを言う。
「朱音様は私が守ります」
なぜか俺にベタ惚れの夜の神に守られ、
『ボクもできる限りサポートするよ』
俺の中の怪物が手伝ってくれるらしい。
スタート地点は大広間。3分後に鬼がグラウンドから探しに来る。
「とりあえず逃げよう、作戦はそれからだ」
俺達は、グラウンドから一番遠い、南館の2階、1年C組の教室の前まで来た。
「朱音様、これからどうしますか?」
「南館は端っこだから、すぐに逃げられないと思うかな。僕は本館の2階がベストだと思う」
「あんたに聞いてませんが」
「二人とも、喧嘩しない!オレも大洋に同意かな。逃げ道がたくさんある方がいい」
エルが2人の喧嘩を仲裁してくれるから助かる。
「俺も同じ意見だ。あと、追われた時にどうやって逃げるか考えないと」
「そうですね。分かれて鬼の気をどう逸らすか、ですよね」
「あっ、それならオレにいい案がある」
1番アホなエルがいい案を出すなんてな、とは言わない。
「ふむふむ……はぁ?それは僕らにとってリスクが高すぎるぜ」
「いえ、でもこれは、案外いいかもしれませんよ」
「確かにそうだな。単純だが、意外と行けるかもしれない」