アフロディーテ校長
さて、ここで俺の主人公スキルが発動して、「こ、こいつは……千年に一人の逸材だ!」とか言われる場面だな。そして俺は学校を支配し……。
って、くだらないことを考えているあいだに、学校の職員室の入口まで来てしまった。
寮から徒歩五分。かなり高級感漂う西洋風の学校だった。いわゆるお嬢様おぼっちゃま学校ってやつ。
クリーム色のレンガ、花の装飾、金メッキで縁取られた時計、一食一食がバカ高い食堂。そして、途中で通った大広間にはシャンデリア。ふつうの家庭で育った俺には縁のないものばかりだった。
「っていうか、日本語、日本円を使ってるんだな」
「ここは現世だと東京にあたる土地だからな。言語は現世と同じなんだよ。もちろん文化も」
「は?文化?」
文化が同じ、ということは、よくある異世界とかと違って、テレビもネットもゲームもあるってこと?
「うん、テレビもあるよ。でも、現世と違ってニュースと落語くらいしかやってないけど」
こっちのテレビは日曜5時半以外はニュースしかやってないのか?
「冗談だよ。でも朱音が持ってたスマホは使えないかな。現世の電波が飛んでるわけじゃないし」
「だよなぁ〜。親に帰れなくなるって電話したいのに」
「まあまあ、学校を卒業すれば一人前の神、自由に出入りできるようになるよ」
と無駄話をしながら職員室の会議が終わるのを待ち、終わったと同時にエルがドアをあけた。
「こんにちは、アフロディーテ校長」
職員会議に出席していた校長にエルは挨拶した。
この校長、めちゃくちゃ美人だな〜。ブラウンのふわっとしたロングヘアー。切れ長の金色の瞳。鼻筋もすらっととてもきれい。そして何よりスタイル抜群である。
たしかアフロディーテってギリシア神話で美の女神だったよな。
「こんにちは、死神君。そっちの人が、召喚するって言ってた現世の神?」
「そうです。」
「倉井朱音です。よろしくお願い致します」
「ふーん、君ってもしかして……」
校長は腕を組んで何やら考え込んでいる。
「いや、歓迎するよ。君ほどの後継者が入学してくれるなら、こっちとしても大歓迎。急いで手続きさせてもらうよ」
「ほんとですか?ありがとうございます」
と言っておきながら、俺は別に神でも後継者でもないんだが。
「でも、俺はお金持ってないです」
「大丈夫!特待生入学させるよ」
そこまでしてくれるのか?俺に?やっぱり俺は特別な存在だったのか……。
「他ならぬ死神君の頼みだからね」
特別な存在なのはそっちかよ!本当にこいつ何者なんだ?性別不明って時点で只者じゃないのは分かるが……。
「ありがとうございます、校長」
「じゃあ、この書類に記入お願いね。制服はそのままでいいわ」
「はい」
校長から渡されたのは住所とかの個人情報を記入する紙だ。
これは……現世でのことを書けばいいのかな?とりあえず、俺が元々住んでた住所を書くか。
しっかし日本語でわかりやすい。これでよく分からん異世界語とかだったらヤバかったぞ、俺。
「書けました」
「ありがとう。じゃあ、生徒登録はこっちでしておくね」
「ありがとうございました」
「明日を楽しみにしてるよ」
挨拶をして俺達は校長と別れた。
「そうだ、食堂でなんか食べてく?」
「まじか!?でも俺お金ないし……」
「今日はオレが奢るよ。こっちの世界にもバイトはあるから、バイトでお金を稼ぐといいよ」
「おう、ありがとうな。結構楽しそうじゃねーか、こっちの世界」
「オレも朱音と出会えて良かったよ」
「なんだよ。そう言われると嬉しいじゃねーか」
今までの退屈な学校生活とは違う。新しい、
楽しい学校生活が待っている。親や友人と離れるのは寂しいが、こっちはこっちでとてもいい友達と出会えた。
俺は明日から始まる新しい生活に胸を踊らせていた。
「まさかこっちに戻ってくるなんて……」
アフロディーテは提出された紙を眺めていた。
「あの様子だと、何も覚えてなさそうね」
そして、紙を裏返して机に置き、薄笑いを浮かべた。
「さて、楽しくなってきたわよ……」