俺と死神
「わっ、ほんとに出てきた……」
顔の上で声がした。少年のような少女のような、とにかく中性的な声だった。
「えっと……。俺、生きてるの?」
「生きてるよ、オレが呼んだんだ」
彼(彼女?)はニッコリと微笑んだ。顔だけ見ると金髪を肩まで伸ばしたウルトラハイパー美少女だ。
っていうか俺、膝枕されてね?
「突然呼び出してすまねーな。ちょっとそこで拾った本に書いてた、『現世の神を召喚する魔法』ってヤツを使ってみたくて」
この人は本当に何を言っているんだろう。
「えっ……君、誰?」
「ボクには名前はないよ。適当に『死神』とでも呼んでくれたまえ」
なんかキャラも一人称も変わってしまっているが、つっこむなということなのか?
「俺は倉井朱音。っていうか、死神ってなんだ?」
「そんなことも分からないのか?って、そう言えば朱音くんは現世の神だっけ」
「朱音でいいよ。あと現世の神とか魔法とか召喚とか全然わからん。とりあえず一から説明しろ」
「わかったよ。朱音は全然知識がないのに、妙に適応力高いよね」
それは多分俺が能力者として異世界召喚される脳内シミュレーションをしてたからだと思う。なんか想像してたのと違うけど。
長いので割愛するが、この後俺は死神ことエルから色々長々と話された。ちなみになぜエルかと言うと、マントから除くTシャツ
でかく『L』と書かれていたから。
正直学校を休みがちだった俺は頭が悪くてなかなか理解出来なかったが、何回も説明してもらって次の事実が判明した。
まず、ここは俺達がいた『現世』と裏表の関係にある『神の世界』。そしてエルが下宿している寮(男子寮)だ。
そして、特殊能力者である俺がエルの使った魔法でこの世界に召喚された。つまり俺はこいつの言う『現世の神』なのか?正直ここは何かの間違いとしか思えない。
さらに、エル達は本当は神ではなく、現世で働く神の『後継者』で、一人前の神になるため学校に通っているのだという。『後継者』とは、文字通り先代の神が働けなくなった時にその神の座を後継するというものだ。
えるは明日から神の修行をする学校『アフロディーテ高等魔法学校』とやらに入学するとかするとか。
ほんで、その学校が始まる直前に意味不明な魔法を使って、現世の能力者である俺を召喚した。
「で、その学校に俺も入学しろと?」
「そうだよそうだよ!オレの魔法で呼ばれたってことは君は現世でも将来有望な神なんだ。ってことは学校に通った方がいいよ絶対!」
「本音は?」
「学校に行くの緊張するから友達と行きたいです」
「正直でよろしい」
こいつが話しているのを聞いていてだいたいわかった。こいつは、きっと誰かと友達になる『きっかけ』が欲しいんだ。
口調から見ても、かなり学校に行くのに緊張しているのがわかった。
「わかったわかった。どうせ帰れないなら仕方ない。お前の友達になってやるから、せめて不自由な生活はさせるなよ」
「それは大丈夫!こっちのコネですぐに手配させるよ」
「お前ほんとなんなの?」
コネとか言っちゃってるし。
「でも、いいのか?俺、お前らが言う魔法なんて全然使えねーけど」
「大丈夫大丈夫!たしか特殊能力者だとか言ってたよな?それを使えばいいよ」
「でも、俺の能力は本当にしょぼいぞ」
「オレの読みが正しければ、朱音の能力は強化されてる筈なんだ。許可が降りないと神は現世で力を発揮できないから」
まじか。俺、体温90度くらいまで上げられるってこと?
「ふーん、で、最後に聞いてもいいか?」
「何?」
「お前、男なの?女なの?」
「……」
「……」
「世の中には知らない方がいいこともあるんだよ」
分からない。本当にわからない。
「そ、そか……。じゃあ、これから宜しくな」
「うん!」
その笑顔は死神っぽさをまるで感じさせなかった。
こいつが女だと判明していたら俺はこの笑顔で確実にオチてたな。くそっ、女であってくれ!
「じゃあ、早速入学手続きに行こっか〜」
「しゃーねーな」