一人足りない!?
スマホでチェックできる残りのグループ数がかなり少なくなってきた。俺達は運良く遭遇していないが、これだけ少なくなるとかなり危なくなってくる。
俺達は今、本館の2階の、職員室の近くの壁に隠れている。ここは結構見つかりにくく、逃げようと思えば簡単に逃げられる、絶好の隠れ家だ。
ブー、ブー。
「あ、またメールです。『残り時間20分になると、鬼が新たに3匹追加される。阻止したければ、グラウンドに来い』だそうです。これはまた随分雑なミッションですね」
「まぁ、僕たちにはあれがあるし、とりあえず行ってみよう。鬼が3人も増えたら、かなり厳しい戦いになるよ」
「そうだね、とりあえず、鬼を警戒しながらグラウンドに急ごう」
俺達は地図を持っているが、何せこの学校は広い。方向音痴アジア代表レベルの俺1人では絶対にやばかっただろう。
俺はエル達について行って、途中で鬼と遭遇しかけながらも、何とかグラウンドにたどり着いた。
「さて、グラウンドに着きましたが、鬼がいると思われる箱があるだけですね」
「箱の裏に何か書いてるんじゃないか?」
「あ、書いてるね。なになに?『30人を集め、全員で屋上にある巨大な球を転がしてグラウンドに落とせ』だそうだよ。朱音、オレたちの中で今何人生き残ってるっけ」
「かなり減りまくって残り35人だな」
「めちゃめちゃギリギリじゃん。とにかく、みんなに集まってもらうしかないな」
「僕も電話して30人屋上に集めるよ」
「残り時間半分を切りました。あと10分です。急がないと」
「オレたちも屋上に行かないと」
俺達が屋上に行くと、既に10人の生徒が集まっていた。
そして、俺たちに続くようにさらに15人の生徒が続々とやってきた。
俺たちを合わせて、29人。
あと一人足りない。
「よし、あと一人来るまで、僕達で押そう」
大洋が呼びかけ、みんなでいっせいに球を押す。こういう時、コミュ力あるやつがリーダーになってくれると助かる。
しかし、球はビクともしない。全員が力を振り絞っても、1mmも動かすことが出来なかった。
「おい、ちょっと大洋。やばいよ。オレたち、残り29人。あと一人足りない!!」
エルがスマホを見て叫んでいた。
「魔法を使えば押せないこともないですが、そんなことをすればすぐに鬼が飛んできてしまいます」
そう、鬼は魔法が発生したところに転移する、『魔法発見くん』という道具を身につけているのだ。さっきから全然魔法を使わない理由はそれである。
『みんな何を焦っているのかな〜。ボクを入れてちゃんと30人ピッタリじゃん』
お前はダメだろ、エキドナ。こんな所で顕現させてたまるか。
『顕現させなくてもいいよ。君の力にボクの力を上乗せすればいいんだよ』
バカか。魔法発見くんで飛んでこられたらどうする。
『ボクの魔力を上乗せするんじゃないよ。あくまで物理。物理的にやるんだ』
意味がわからないが、つまりは大丈夫ってことか?
『まあ、29人なのにクリア出来たってので先生方には疑われちゃうだろうけど。生徒の方は朱音くんがなんか言えばいけるでしょ』
テキトーだな。このテキドナめ。
『適度な運動は大切だよ』
うるせえ。
『まあまあ、もう時間が無いよ。さっさと押して!』
ちっ、仕方ない。
「お前らぁ!ここで諦めていいのかぁ?そんなわけねーよなぁ!俺達は絶対に生き残る!そうさ!まだ時間はある!諦めたらそこで試合終了なんだよ!!」
うわぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ。めちゃくちゃ恥ずかしいいいいいいい。あとなんか最後のセリフ聞いたことあるうぅぅうううう。
「まだ押せるよなぁ?」
『おう!!』
「っしゃァ!行くぜ、野郎共!!」
『せーのっ!』
俺達は、全員の力をひとつにして、黒い球を押した。
ゴロゴロゴロゴロ。轟音と共に球が落下した。
ブー、ブー。メールだ。
「朱音様、やりましたよ!『残りの生徒29名の活躍により、グラウンドの鬼は回収された』だそうです。あとは逃げ切れば勝ちですよ」
『わーい!あとでボクを褒めて褒めて』
やったぜ!と喜んでいる暇はない。恐らく今の音で鬼に気づかれた。向こうは魔法を使えるわけだから、こっちにはそろそろ来てしまうかもしれない。