第8話 時は流れても
最近は家事にも慣れてきた。掃除洗濯は無属性魔導を使うので一瞬で終わる。料理に関しては、買い出しは一人だが料理自体はレイジナさんが趣味も兼ねて手伝ってくれるからすぐに終わる。だから、家の仕事は殆ど無いと言ってもいい。
そのおかげで、去年赤に上がったままずっと変わらなかったランクも半年もすれば紫になりそうだ、と言われた。
たまにだが、家の仕事も依頼もない日がある。今日はレイジナさんが気まぐれで家事を全て行ってくれた。あと、夜は外食にするつもりだ。
実は今日、俺は20歳の誕生日なんだ。レイジナさんも知らないと思うけど、自分の誕生日は祝いたい。彼女の誕生日も祝った……
どうやって誘うか考えてると、魔力灯が消えた。魔力が切れたかな、と電池を交換する感覚で魔力挿入口を探していると
「ハッピ━バースデ━トゥユー。ハッピーバースデートゥユー。ハッピーバースデーディア シュ~ジ~ ハッピーバースデートゥユー♪」
レイジナさんが歌うバースデーソングが聞こえた。しかも、10ヵ月も前に俺が歌ったきりのはずの地球の曲と全く同じ曲だった。何故歌える? 動揺のあまり固まってしまった。
コトンという音で我にかえると、ケーキに載った蝋燭の火が優しく辺りを照らしていた。
目が慣れ、こちらの文字ではあるが『誕生日おめでとうシュージ』と書かれたプレートの文字も読めた。
先程まで光源も何も無かったので無詠唱で用意したのだろう。何気に手が込んでいるサプライズパーティーだなぁ……
「ほら、消さないの?」
20歳でケーキのろうそくを吹き消すことになるとはな……まぁ、消すけどさぁ。
「ありがとうございます。でも何で俺の誕生日知ってるんですか?」
「私の誕生日に愚痴ってたから、覚えてたんだ。耳と記憶力はすこぶる良いからね」
黒笑顔で言われた。なんだか怖かったが、少し懐かしい。玲もこんな風に弱みを掴んでは、
「私はあの事知ってるよ」
って脅してイジメの証拠を持って来させて先生に突き出したぐらいだからなぁ、怖い怖い。
プレゼントを開けると、レザーを使用したブレスレットで、アイオライトという俺の誕生日石が中央の台座に嵌められていた。持ち主を最良の方向へ導くお守りの石らしい。
俺がレイジナさんへの誕生日プレゼントとして注文しているものと同じデザインで、まるでお揃いだ。
これが原因で付き合っている噂が立つのは、もう少し後の話。