第6話 呪術師の回想〜side玲〜
今日も夢に見たのは、自分が死んだ日だった。秀司を置いて道を渡り、気づいた時には車がすぐそこまで突っ込んで来ていて助からない。
昔は何度も飛び起きて、シスターにホットミルクを作ってもらった。最近は飛び起きはしないものの、秀司の表情がはっきりと見えたのはここ最近になってから。
秀司が驚きと恐怖の混じった顔で私に走り寄ってくる。自分が死ぬところを思い出してるような夢で、少し変な感じ。
こんな夢を見るようになったのは6歳か7歳の頃だったと思う。以前から子供と思えない程利発だったらしいが、夢を見始めた辺りから記憶が戻り始め、天才と呼ばれるようになった。
少しずつ記憶が戻ってくるので不審に思われる事もなく、10歳になるころには記憶はほぼ完全に戻った。
そのおかげで、国家魔導主席のミーシャ・カーベインの養子に迎えられた。修行は厳しかったけれど、万年金欠の孤児院では考えた事が無いほど豪華(一般人にとっては週末に家族でファミレスで食べるぐらいのものだと知ったのは数年後)を毎食1日3回食べさせてくれた。
なんだかんだ言っても優しい人なのだが、夢で見る前世の記憶の事を話した時に、
『君が望まないから今は言うだけだけど、君が望むなら記憶を消してあげるから、いつでも言いなさい』
と言い放った時の顔は怖いでは言い表せない。
私は記憶を消したい訳じゃないんだ。ただただ、しゅう君のあの表情をただ見てるだけなのが辛いだけ。でも、忘れたくないんだ。
◆◆◆
私はこの頃から孤児院での名前を受け入れられなくなっていた。
レイジナ・カーベインの真名は『マレ・ディアナ・ヘルマキア』。 “マレ” はラテン語で海の意味を持ち、マリンの語源にもなっている。そして、『松川 玲』のあだ名でもあった。
『名前と苗字の最初の一文字をとっただけだ』
と、しゅうは言っていた。
外人の名前のようだったのでイタイ視線が送られないよう他の人がいる所では呼ばせなかった。そんな、『松川 玲』としての記憶に触れる機会を減らしたかった。
そして、なによりも家名がある。ヘルマキア家は私を捨てたのだ。理由なんて知りたくない。
◆◆◆
この世界では16歳で成人になる。この世界での成人式もあり、私はこの式をもって国家呪術魔導師になった。因みに、魔導は大きく分けて攻撃・防御・付与・呪術の4つあり、それぞれの分野ごとに試験があるが、受けられるのは1つのみで、現役合格でしか国家魔導師にはなれない。
成人になると、国家魔導師の資格を取った者に国家魔導師の地位を与えられる。
そして、そこからさらに五年ごとに行われる魔導師主席選抜戦に優勝したものが国家魔導師主席になる。選抜戦の予選優勝した者はその分野での国家魔導師主席となる。国家魔導師は40歳で定年なので国家魔導師主席は100人の出場者から1人しか出ない。
その為、国家魔導師主席は王族と同等、或いはそれ以上の権力を持つ。(私の場合は、権力など関係なくこの国で1番強いことを証明してくれるもの、ぐらいにしか考えていないのだが)
次の国家魔導師主席選抜戦は四年後。私が20歳の時だ。
◆◆◆
私はもうすぐ18歳になる。今は、前世で死んだ時と同じ年齢なのだ。秀司は達也のイジメに遭ってないといいんだけど。私を庇ってくれたから、お礼をしたかったんだけど、永遠に叶わなくなってしまった。
だから、魔人と討伐する命令が下る時は嫌なんだ。だって秀司を殺してるみたいだから。魔族か判断がつきにくい時は出来るだけ逃すようにはしてるんだけど、限界がある。
全員を逃す訳にはいかないし、逃がそうにも他の担当者に遭ったら死は免れない。そもそも、このアゲンルア王国ではこちらの世界で唯一の国家なので他国に逃げることも出来ず、魔人を生かすこと等大罪を犯せば一生逃亡劇を繰り広げるはめになる。
『松川玲』が死んだ時のしゅう君と同じ。いや、恐怖だけに彩られたその表情は見れない。
見る事も許されない。
謝る事も許されない。
忘れる事も許されない。
彼と重ねる事も、もちろん許されない。
何も許されてはいけない。
忘れる事も
許される事も
あってはいけない。
私に許された事は
見殺しにした事実を受け入れ
ただ、この世界で生きる事だけなのだ
これが私の罪と罰
ならば受け入れましょう
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