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呪術師と迷い人は異世界で再会する  作者: Y.A.&H.S.
最終章 決別と再会は記憶を奪う
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最終話 あの日のやり直しsideレイ

 

 いきなり精神世界に引き摺り込まれる感覚がして、真っ暗な世界の中にポツンと立っていた。

 ぎゅっとブレスレットを握りしめるけれど、あの時のように光は道を指してはくれない。恐る恐る足を踏み出そうとすると後ろから声が聞こえた。

「もし、松川玲が死んだ日に帰れたら、貴女は何をいたします?」

 知らない声。女の人とは分かるけど、何度も反響するそれはとても怖い。

「失礼いたしました。私、地球の元調整者で堕神のMarissa・Caleb-Ellenと申します」

『カルブエレン』って・・・

「アゲイルの妻で水の神の!?」

 ええそうですわよ。と答え、穏やかな雰囲気の彼女に何をいたします?と再度問いかけられた。

 そんなの決まってる。

「私も秀司も死なない世界を作ります。そして、自分の心臓を預けあえる関係を作り直します」

 至極真面目に返答したのに、笑い飛ばされた。

「うふふふふ。あはは。ぷっ。あはははは。言い切ったわね、貴女?堕神の前で言ったのだから、叶えなさい。私の可愛い子供達に幸あらんことを」

 ♢◆♢

 ポンと肩を押されて、気がつくと秀司と歩いていた。

 ただ自分の意思で体は動かず、言葉を発せないまま古びた中学校の小道を進む。

「ほら、こっちだよ」

 小さな橋の前に立つと、ここから先は私は行けないと言われ、二人で一緒に渡る。

「まれ、絶対に、ずーっと、俺が守る。まれは俺を信じて。帰ろう、俺たちの世界に」

 力強くその言葉に呆気を取られ、パチリと瞼を瞬かせた。ちょっと嬉しくてふにゃりと笑っちゃって、真面目に返したのに締まらなかった。

「頼んだよ、シュウちゃん。絶対に帰るよ。そして、今度こそ間違えないよ」

 光のない暗闇を歩くけど、今度はブレスレットが光の道を作ってくれた。どちらともなく手を握り、光の示す方へただ黙々と進む。

「ねぇ、光が弱くなってない?」

 光は段々と薄くなっていて、今は光の両端がぼんやりとしている。

「理由は分からないけど、急ごう」

 どれほど走っただろう。光は手首の周り数センチのみ照らし、ついに消えてしまっても真っ直ぐ走った。暗闇の中二人の手だけは離さず先へ先へと足を止めることはなかった。

 ◆♢◆

 気がつくと、下駄箱の前だった。何年も見ていないのに、はっきりと分かった。自分の靴の場所。反対側の棚の秀司。忘れた筈のことも覚えていた。

「靴紐ちゃんと結び直しときなよ」

「言われなくても直してるよ」

 あれ?ちゃんと結んでた。ポカーンと口を開けていると、間抜け面と笑われた。

 向こうの世界のこと覚えているかと聞こうとしたけど、舌が顎にくっついて話せない。

「話は家に着いてから」

 なんか冷たいような。不安になって手を伸ばすと、ごく自然に手を握られた。・・・ハッ?!握られた?!あのヘタレに?秀司は荷物を左手にまとめ、右手は私の左手に繋がっている。認識したら恥ずかしくなってきた。

 事故にあった交差点が近づくとドクドクと心臓がうるさい。何も無いと分かってるのに、嫌な予感がする。ビクビク怯えて交差点を渡りきったその瞬間、髪を掠めるようにバイクが走り去っていった。冷たい汗が背筋を伝い、膝が笑った。

「もう大丈夫、怖いことは何にも無いよ」

 それからは無事、事故もなく家に着き、荷物を受け取ろうとすると、サッと取り上げられた。

「ねぇ、玲。俺な、やっぱりお前のことが好きだ。何回生まれ変わっても、玲のことが好きなんだ。だから、もう一回。もう一回、『俺の隣に居てくれますか』?」

 ああ、これ程嬉しい事なんて無いわ。

「ええ、もちろんよ。『ずっと私の隣に居てね』」

 抱きしめられた息苦しさと、暖かさの間を柔らかな月光が照らしていた。どこか懐かしくて、消えてしまいそうな繊月は私たちをずっと見守っている。

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